まず一つ目のクオリティは、日本のものづくりを支えてきた「ジャパン・クオリティ」。このコラムでも何度かキーワードとして取り上げてきたが、食の分野における日本の「地の品質(ジャパン・クオリティ)」を見直し、それをメニュー開発や業態開発、ブランディングに採り入れること。いま飲食マーケットで注目されている「ネオ地酒」「国産ワイン」「クラフトビール(地ビール)」「地ウィスキー」、そして「発酵食材」「熟成技術」など、ジャパンクオリティ・コンテンツは豊富。その造り手(T)たちと一緒に価値(K)を創る(T)=「TKT」がこれからの飲食店のミッションである。時あたかも日本は「TPP」参加へ一気に進むことになった。参加が決定すれば、海外から安い農産物や食品が入ってくる。ダメ農家は競争力を上げるよりも補助金に頼るようになり、生産者のクオリティ格差も広がる。しかし、そこは飲食店にとってチャンス。向上心の高い生産者と組んでさらなる品質のレベルアップをすればいい。マーケットという川はこれから低きに流れるのではなく、高みを目指すに違いないからだ。二つ目のクオリティは。「ネクスト・クオリティ」。その意味するところは、顧客にとって「価値あるスタイル」を提供するための“ポストQSC”である。これまでの「QSC」を超える概念であり、超えようというアクションの提案である。「QSC」の中で、とくにこだわっていきたいのは「Q」であり、「Quality」のレベルアップ、進化を軸においた新しいセオリーとして私が業界に提案してきた概念だ。重要なキーワードは、カスタマー(顧客)に対し、どういったエクスペリエンス(超験=超越的な体験)を提供できるかということである。「ネクスト・クオリティ」は、QSC時代の「CS=カスタマー・サティスファクション(顧客満足)」からワンランク上の「QHA」(エキサイティング・クオリティ、ホスピタリティ、アトモスフィア(空間・雰囲気))追求による「CD=カスタマー・ディライト(顧客歓喜)」を踏まえ、さらにその上を目指す「CE(カスタマー・エクスぺリエンス)」のことだ。このCEの概念は顧客ニーズが多様化、高度化(わがまま化)するなかで、非常に重要な進化のアプローチ手法。ネクスト・クオリティ時代においては、高価格・低価格に関係なく、いかに顧客にとっての価値を高めていけるかが勝負となる。そのためのコンテンツとスタイルをクリエイトすることが、いま飲食のマネジメントにおいて重要なのだ。三つ目のクオリティは、「ジャパン・クオリティ」「ネクスト・クオリティ」を実現するための「セルフ・クオリティ」である。これを磨き上げて、自分の店、会社、スタッフ、客層のレベルアップを図らなければならない。流行や繁盛店情報、コンサルタントの指導などに踊らされて、ベンチマーク(パクリ=TTP)、パッチワーク(いいとこ取り)、リライト(業態の上書き)ばかりに走る店や企業がいかに多いことか。そうした情報やアドバイスはあくまでマーケティング素材に過ぎない。真のクオリティは自分自身の中にあるのだ。それを引き出して、業態を“進化させる力”、それが「セルフ・クオリティ」だ。そのためには、マーケティング、イノベーション、クリエイティブ、そしてブランディングすべてが必要となる。マーケティングとは、自店のポジション(軸)を明確にし、他店との「差別化」を徹底すること。イノベーションとは、仕入れや流通のしくみを根本的に再構築し新しい価値をつくること。クリエイティブとは、他店が真似出来ない圧倒的なパワフルMDをつくること。ブランディングとは、自店、自社の価値を育て、ブラッシュアップすること。そして“伝える力”。従来の宣伝広告手法に頼るのではなく、「価値のシェア」を訴求していくことが重要である。
コラム
2013.03.14
いま求められる3つの「クオリティ」
選ばれる店と選ばれない店の違いがハッキリしてきた。そのポイントは、価値(バリュー)と品質(クオリティ)。バリューは抽象的だが、クオリティは具体的。いま、3つの「クオリティ」が求められている。
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。