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コラム

2007年前半のレストラン・トレンドを総括する!

8月に入ったところで、2007年前半のレストラン・トレンドを総括してみよう。今年はチェーン居酒屋など大手が出店を控える傍ら、個店や新業態出店が集中した。大型商業施設だけでなく、駅前、隠れが立地を問わず街場でも次々に新しい店が産声をあげた。

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。


その意味で、東京マーケットはいまちょっとした“ミニバブル”と言っていいだろう。そのオープンラッシュの中から、特徴的な業態やコンセプチュアルな店をピックアップし、それに共通するトレンドとして私が注目したい項目をベストランキング的に列挙してみよう。 ①東京ミッドタウン、新丸ビルなど大型商業施設オープン!②「健康志向」テーマのレストランのブーム③「郷土料理」ブームの拡大④「立ち飲み」「スペインバル」の増殖⑤「もつ鍋」「水炊き」「辛系鍋」など鍋ブームの定着と広がり⑥「魚屋系居酒屋」ブーム⑦関西もつ料理×プルコギ「鉄板鍋」など「和韓融合料理」のブーム⑧「会員制レストラン」と高級隠れ家レストランの急増⑨ダイヤモンドダイニング、きちりなど、新興飲食企業の株式上場後の展開⑩都内物件の逼迫、値上がり、「退店・居抜きオープン」急増 少し解説を加えよう。まず1位はやはり東京ミッドタウン、新丸ビルの開業である。ミッドタウンは3月30日開業、すでに4ヶ月目を経過するが、私が 各テナント経営者から直接聞いた話では、おおかたのレストランが月坪売上げ100万円を超えている模様だ。ランチの行列はいまだに途絶えず、ディナーの予 約もほとんどの店で取りづらい状況が続いている。課題はガーデンテラス側のレストランの営業時間だろう。六本木という立地において、ワインを出す店が24 時前に閉店してしまうというのは、顧客オリエンテッドとは言えない。テナントの中にも深夜営業を希望するところがあり、ディベロッパー側はその声に応える べきだろう。せめて木曜日、金曜日だけでも開けたらどうだろうか。 新丸ビルのほうも、好調に推移しているようだ。予約を断ったり、ランチの待ち時間が長かったり、そのクレームに十分に対応できないことが逆に店のイ メージを下げてしまう。とくに今回は初出店の店が多く、予約のこなし方やクレーム処理のノウハウがない。こうしたノウハウをテナント側に教えることもディ ベロッパー側の役割ではないだろうか。気になるのは7階の「丸の内ハウス」。ワインボトル片手に朝までテラスで飲めるはずだったが、聞くところによると 24時前には閉じてしまうという。これも、三井不動産同様、ディベロッパー側の自己規制なのだろうか? トレンド2位は「健康志向」ブームである。「健康と美容」「アンチエイジング」「デトックス」といった“体にいい”“肌にいい”食材、メニューコン セプトを打ち出した店が増えている。背景にはBSE問題から始まった「食の安全・安心」へのニーズ、イタリアから巻き起こった“スローフード運動”、それ に一部雑誌メディア(『ソトコト』など)が仕掛けた“ロハスブーム”がある。それがライフスタイル全般に影響を及ぼし、飲食の分野にも押し寄せ、MD(商 品開発)の重要なキーワードとなった。 ロハスやエコロジーをコンセプトとした神宮前の「kurkku(クルック)」も超人気。薬膳中華を売りに最近オープンした青山の 「Essence(エッセンス)」、炭水化物4:蛋白質3:脂質3の比率がダイエットに効くとの理論を売りに誕生したカロリー表示をするフレンチレストラ ン金「Zone」も話題になっている。また、トレンド5位に上げた“もつ鍋ブーム”“鶏の水炊き”もコラーゲン効果に期待する女性客が支えている。美容効 果があるとされる“コラーゲン”をメニューに取り入れたホルモン鍋の新宿三丁目「盛岡五郎」なども「健康志向」ブームと重なる。 一方、ドリンクのほうも“健康志向”。自然派ワイン「BIOワイン」が2年前にブームとなり、その後落ち着いていたが、最近また再燃してきた。赤坂 には「BIOワインとモッツァレラチーズ料理の店、SENO」がオープン、ミッドタウンの近くににオープンしたワインバー「バンク」は1500本のワイン を揃えたが、やはりBIOワインに力を入れている。 さらに新しい業態も増えてきた。経堂「せいろ屋」は元TBS女性ディレクターの独立開業店だが、肉、魚、野菜すべての料理を「蒸し」で提供する。や はり油を使わないヘルシーさと旨みが女性に人気だ。健康志向=不味いという既成概念を変える試みでもある。あるいは韓国料理も進化している。銀座「けな りぃ」はやはり女性オーナーが女性のために健康を考えてメニューをつくった。オーナーは野菜ソムリエの資格をもち、彼女ならではのオリジナル野菜料理がず らりと並ぶ。人気各店に共通しているのは、単に健康を謳った食材を揃えるだけでなく、徹底したこだわり、オリジナルなメニューを追究していること。それか ら、味にこだわったことだ。 3位は「郷土料理」ブーム。かつての「名古屋めし」やもつ鍋、水炊きなどの「博多系」、お好み焼き、もつをプルコギ風に食べる鉄板系などの「関西系 鉄板鍋」、「沖縄料理」をはじめ、最近では北海道十勝地方の料理を集めた銀座コリドー街「とかち屋」、長野県料理の銀座「信州ダイニング だいしん」、瀬 戸内海料理の田町「瀬戸内水軍」、石川県料理の銀座「能登・輪島」などローカル色豊かな新店も続々とオープンしてきている。「能登・輪島」を出したエイチ ワイシステムの“マネーの虎”こと安田久社長は、かつては「なまはげ」などのテーマレストランを中心に展開してきたが、現在は“47都道府県47店舗”の 展開を掲げている。地方では当たり前のご当地料理も東京にもってくれば新しい人気業態に生まれ変わる可能性が出てきた。 トレンドの4位「立ち飲み」「スペインバル」、5位「鍋系」、6位「魚屋居酒屋」、7位「関西系」はいずれも客単価3,000~4,000円の低価 格帯で、ポスト“居酒屋チェーン”“和風ダイニング”をリードしてきた業態である。その共通したキーワードは「個性」「オリジナリティ」「コミュニティ」 である。料理はもちろん、空間演出にも各店それぞれの個性が発揮されている。商業施設にも立ち飲みやスペインバル、魚屋居酒屋などが多数進出し始めた。新 丸ビルに「日本再生酒場」が出てサプライズを呼んだが、上野駅の上野アトレにも恵比寿で人気の立ち飲み「buri」が出店、アトレ側の熱心な口説きによる ものだと聞いている。 8位の「会員制レストラン」は4位から7位までのトレンドとは真逆である。プレミアム、ラグジュアリーマーケットをターゲットとした新高級レストラ ンである。六本木や麻布十番、西麻布、白金などには客単価15,000円以上の会員制レストランやバーが次々に誕生。かつてのように年会費をとったり、 カードを発行するスタイルではなく、紹介制でクチコミで広げていく。高級カラオケ個室を設けた和食店なども増えている。飲食マーケットの“二極分化”はま すます進むだろう。 9位の「ダイヤモンドダイニング」「きちり」など新興市場への株式上場企業の急成長については、“ポスト・大手チェーン居酒屋”ともいうべき若手経 営者たちが、既存のマーケットの常識を覆す展開を続けている。とくに、松村厚久氏率いるダイヤモンドダイニングの快進撃は注目の的。チムニーなど大手 チェーンの退店物件の跡にコンセプトレストランを出店し続けている。彼らの武器は“サプライズ”。大手がもはや客を呼べない“ハイコスト・ローサプライズ 型”既存店の出店を抑える間隙をぬって、次々と“ローコスト・ハイサプライズ型”新業態で攻勢をかける。 これは、10位の物件価格上昇も影響している。駅前の店舗物件はもはや飲食店では採算があわないレベルに高騰しており、新規出店で伸びてきた大手 チェーン店が戦略の見直しを迫られているのだ。一方、TRNグループ(旧店舗流通ネット)に代表される「居抜き物件サブリーズシステム」を利用した新規出 店が急増している。初期投資を抑えられることから、安易に開業に踏み切る個人や企業が増えているが、これは大きなリスクを伴うことも覚悟すべきだろう。よ ほど強いMD力があれば別だが、「居抜きで店は作れるが、業態は作れない」というのが私の持論である。(この原稿は日本ショッピングセンター協会発行の『SC JAPAN TODAY』に連載中の「食のマーケット&トレンド」7月号の記事を加筆修正したものです)

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