安田さんは「アルカトラズ」「なまはげ」というテーマレストランで外食業界にデビュー、“マネーの虎”の一人として一世を風靡した後、いくつかの失敗を重ねながら、新たに業界に打って出るコンセプトとして掲げたのが“47都道府県の業態を47店舗展開することによる地方活性化”だった。「なまはげ」を秋田郷土料理コンセプト業態と捉え直し、秋田シリーズとして「きりたんぽ」や稲庭うどんの「佐藤養助」を展開、鹿児島黒豚の「黒薩摩」、石川県業態の「能登輪島」などを次々に展開してきた。そして、数年前から構想をあたためていた徳島県業態の「阿波おどり」を今年の6月、銀座コリドー街にオープンした。155坪200席という大箱で、夜は2回の“阿波おどりショータイム”のある徳島郷土料理店である。ただ、この「阿波おどり」が単なるテーマレストランではなく、また普通の郷土料理店と違うところは、業態開発にあたって、徳島県知事はじめ徳島の農漁協関連団体、徳島に二つある阿波踊り団体のお墨付きを得たうえで、高円寺阿波踊りと正式に提携し、高円寺阿波おどり連から日替わりでリアルな踊り子をショータイムに派遣してもらっていること。食材もほとんどが徳島産直ものであり、徳島県が生産者と組んで力を入れているブランド地鶏「阿波尾鶏」をメインに備えている。安田さんは、「本物の阿波踊りと徳島郷土料理を組み合わせ、銀座のど真ん中で発信することによって、東京のサラリーマンやOLを元気にしたかった」という。単に郷土料理を提供するだけでなく、阿波踊りという文化、踊りの楽しさをリアルに店で表現することによって、まったく新しい、突き抜けた郷土料理業態が誕生した。地方活性化というテーマと東京のサラリーマンを元気にするという想いを同時に実現した店でもある。銀座「阿波おどり」オープンから3ヶ月経ち、店は安田さんの予想を上回るほど活況を呈している。やはり、スタッフがパフォーマンスで踊るのではなく、本物の阿波踊りを店に持ち込み、お客さんも巻き込んで踊りまくるという、まさにライブハウスのような環境を創りだしたことが成功の要因だろう。やはり、出身地の高知県業態を次々に産み出しているダイヤモンドダイニングの松村さんは、「安田さんの阿波おどりは、誰にもマネできない業態でしょう。今回は、私自身、ここまでやるかという衝撃を受け、実はこれからの弊社の戦略を考えるうえで、とても参考にさせていただきました」と明かした。松村さんのダイヤモンドダイニングは、外食業界に新風を巻き起こした“100店舗100業態計画”をこの10月27日に達成し、次のステージに向けて新しい戦略を打ち出すタイミング。10月8日には、その内容が明らかにされる。松村さん率いるダイヤモンドダイニングの第二ステージは何か?それは8日の発表を待たなければならないが、昨日松村さん自身が熱く語ったのは、「安田さんの阿波おどりのような、他社にマネできない“本当のオンリーワン”“究極のオンリーワン”を目指すということです。我々の願いは、外食から離れた人たちを外食に戻すこと、外食業界をさらに面白くて楽しくて魅力ある業界にすることです」ということ。既存の大手ナショナルチェーンは、ゼンショーに代表されるように装置産業としての効率化に走り、本来最も活かすべき人間をロボット化して収益を上げている。それでいいのか。私は、ダイヤモンドダイニングの第二ステージのキーワードとして、「エンタメ」「人間主義」を期待したいと思う。松村さんには、臆するところなく、既存の大手チェーンが作り上げてきた古いカルチャーに真っ向から闘いを挑んでもらいたい。「5年後に1,000億円を目指します。そのためには思い切ったシフトチェンジをします」とだけ、松村さんは最後に語った。
コラム
2010.10.07
本当の「オンリーワン」とは?
外食業界のニューリーダーといわれるダイヤモンドダイニングの松村厚久社長と、松村さんの盟友であるエイチワイシステムの安田久社長と昨日、徳島の鳴門のホテルで熱く語り合った。混迷する外食業界を切り拓くキーワードは何か?それは、「オリジナリティ」を超える究極の「オンリーワン」である。
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。