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コラム

「居酒屋甲子園」私論Ⅱ

8月20日に開催された「第3回居酒屋甲子園」決勝大会を覗いてきた。初めての取材である。「3回目は準備に迷走した。最後の大会になるのでは?」という見方もあっただけに、興味津々。「泣かされまいぞ!」と決意をして行ったのだが...。

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。


私は、これまでどちらかといえば、そのカルト性、NPO法人という隠れ蓑の背後にあった日本LCAの陰などから、大嶋啓介理事長のカリスマ性には敬 意を表しながらも、「居酒屋甲子園」については冷めた見方をしてきた。去年の3月に行なわれた第2回大会のときに、バッシング覚悟でこのつぶやきで辛口の「居酒屋甲子園私論」を書いた。それを発表したとき、かなりの反響があった。「あんなこと書いて大丈夫ですか?かなり的を射てると思いますが…」といった声をいただいた半面、「地方の小さな飲食店が這い上がろうとして一所懸命努力してるのに、批判するとはなにごとか!」というお叱りもあった。 あれから1年半。今回は、まったく予断を持たないで訪ねた。参加店舗770店、参加者は5,000人という。たしかに横浜パシフィコの国立大ホール の会場は2階席まで満席。立ち見も出ている。最初から最後までとにかく観よう、自分の見た範囲で感じたことをまた書いてみようと思った。ただ、予断無きと はいえ、“朝礼芸”的な熱狂的なパフォーマンスや「生んでくれてありがとう!」的な涙を誘う演出などを見せられることは覚悟していた。ただでさえ涙もろい 私としては、「ミイラ取りがミイラになる」ことを内心、怖れていたのだ。「絶対泣くまいぞ!」と決意して、決勝大会の6店舗のプレゼンに臨んだのだが。… アレレ?各店のオーナーやスタッフたちのパフォーマンスより映像や音楽の演出のほうが勝ってるぞ。しかも、みんな同じ展開。内容に差はあるものの、店の生 い立ちや“取り組み”を各スタッフが順に語っていく筋書き(語るというより叫ぶのに近いが)。それを映像と音楽の効果で盛り上げる。これじゃ、泣けない。 舞台裏の「演出力」だけが目立ち、一人ひとりの個性が浮き立ってこない(プロの芸人じゃないから仕方ないか)。1回目から来ている人に聞くと、「今 回はかなり抑えてますね」と言う。なるほど、カルト性はまったく感じなかった。“絶叫型スピーチ”は残っていたものの、“脱朝礼”“脱泣かせ主義”という ことなのか。「人を信じる」「仲間の絆」「絶対諦めない」などの感動を誘う言葉が飛び交ってはいたが、抱き合って泣きあうようなシーンは見られなかった。 過激なパフォーマンスを期待していただけに、ちょっと拍子抜けしてしまった。プレゼンの中では、北海道の「心に花を咲かせるお店 花Trip」の大坪友樹社長が自分が捨て子だったことをカミングアウトするシーンと、熊本の「食彩浪漫 HIRO海」の創業仲間の同級生一人の元ニートさんのスピーチが印象に残った。優勝はこのどちらかかな、と思いながら、ついつい「花Trip」に一票を投 じたのだった(優勝はHIRO海)。 「共に学び、共に成長し、共に勝つ」。これが理念だという。「居酒屋から外食を元気にする。外食から日本を元気にする」。これが目的だという。そし て、今回は「食のプレゼン」「ジャンプアップ店舗の取り組み」「居酒屋から日本を元気にするセミナー」、さらに同時開催として「居酒屋産業展」も取り入 れ、すべてが参加者のビジネスに直結する仕組みが完成された。サポーター企業も87社に及ぶが、ますます増えていくのだろう。県によってかなりのバラツキ はあるが、地方の居酒屋を組織化し、地域活性化を目指すという方向は間違ってはいない。甲子園が、居酒屋という産業を底上げするエンジン役になることも間 違いではない。組織として、大嶋啓介氏への“個人崇拝”的なカルチャーからの脱出にも成功したのではないか。日本LCA色も無くなった。甲子園参加店舗の 評価基準となる覆面調査を担っているMS&Consultingも、5月に日本LCAから分社、6月にはどさん子ラーメンのホッコクの子会社と なった(逆に今後、客観性が問題視されるかもしれないが)。 そして、決勝大会で最も興味深かったのは、業界大御所や第二世代リーダーたちのゲストスピーチである。リッツカールトンの岡野氏はともかくとして、 石井誠二氏、河原茂美氏、中島武氏、稲本健一氏、そして松村厚久氏が、それぞれ“応援スピーチ”を披露した。「なにしろ5,000人の観客の前ですから緊 張しましたよ」と松村さんは後で語ってくれたが、松村さんでなくても、5,000人の前で辛口な発言はできない。本音派の中島さんでさえ、かなり褒め称え ていた。このゲストスピーチは大嶋氏自身がスピーカーに出演依頼したと聞く。ある意味、「居酒屋甲子園をオーソライズしてください」というメッセージだっ たのではないか。つまり、このゲストスピーチの仕掛けこそ、大嶋氏の今回の“最大のプレゼンテーション”だったのではないか。あるゲストスピーカーはス ピーチのあと、こう漏らしたそうだ。「ホントは居酒屋ってのは、仲間とか絆とか信頼とか、そんな甘いもんじゃないんだけどね。もっとドロドロとしてるんだ よ」。さて、第4回はどうなるのだろうか。第4回居酒屋甲子園は2009年8月19日に決勝大会が行なわれる。参加費は35,000円に下がり、居酒屋産 業展は拡大して開催されるそうだ。

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