神田駅南口、日銀通りを入った昭和がそのまま残る路地にフレンチ角打ち「貝呑(かいのみ)」が、4月15日オープンした。「さびれた漁師町のバルをイメージしたフレンチの角打ち」をコンセプトにした同店は、食べたい魚を選び、シェフに調理してもらう魚屋の立ち呑みを具現化している。独創的な店造りで飲食業界から注目を集めている夢屋(東京都渋谷区)の代表小林研氏らしい個性が際立つ。
神田駅南口前から日本橋方向へと伸びる日銀通り沿いの一角は、小規模ながら飲食店が立ち並ぶ飲食エリアとして知られる。なかでも日銀通りから入った幾筋かの細い路地は昭和の時代がそのまま残る景色が広がっている。そんな1本の路地、築60年以上という古い長屋の一軒を再生したのが同店だ。
ホタテ、サザエ、ムール貝、あさりなど常時7、8種類の活き貝が入るステンレスバッドと旬の魚を盛ったトロ箱、活きタコのいるイケスが無造作に並ぶ店頭は、まんま港町市場の魚屋の風情で、神田の路地で強力な異彩を放つ。重ねたビールケースの上に板を渡しただけの無骨なスタンディングカウンターが迎える未完成と見紛う飲食店らしかぬ空間は、まさに魚屋の角打ちを形にしている。片側壁面はしっかりとレンガタイルを貼るも、片側オープンキッチンサイドはベニヤ板仕様で、しかも2階への階段は鉄骨のままという仕上げだ。常にコンセプト、スタイル、料理、ドリンク、環境の全ての情景を一体化させるため、大胆でいて繊細な店造りに邁進する小林氏らしさを実感する店である。
料理は、角打ちながらも全て本格派のフレンチスタイルに徹するが、あくまでも港町の魚屋の料理であるために、小林氏らしいエスプリを利かせたシンプルな形に仕上げている。好みのフレンチソースで仕上げる看板料理の活貝ソテーは、まず店頭に並ぶアサリ、ムール貝、稚貝の3種類から、お客自らが種類と数を選ぶことから始まる。貝は1種類のみならず2、3種類を合わせることも可能で、数により一個あたりの価格が変わる(1〜9/1個60円、10〜14/58円、15〜19/55円、20〜24/53円、25〜29/51円、30以上50円)。そしてソースをゴルゴンゾーラ、焦がしバター、カレーバター、サフランクリーム、バジルクリーム、漁師風、ブルギニヨンと7種類あるなかから決めるというシステムだ。最後は追加300円で、貝の出汁もたっぷりのソースのリゾットが楽しめる。鮮魚の炭焼きも香草ガーリックオイル、フライドエシャッロト、白ワインナンプラーなど6種類の本格フレンチソースで味わえる。一方、レモン塩、昆布塩、サフラン塩で味わうホテタや旬の貝の炭焼き(500円〜)はシンプルに素材の旨みが引き立つ。他に「鮮魚のフリット」(S580円/M780円)、「賄い煮込み」(880円)、「マグロのタルタル」(650円) などに「マカロニホタテ」(380円)まで、すべてが魚介料理というこだわりで、肉料理はあえて一切提供しない徹底ぶりだ。レシピは同社のトップフレンチシェフ、村田氏の手によるものだ。
ドリンクは基本的にセルフサービスで、ビールサーバーや炭酸、製氷機などを構えた店奥のドリンクピットから飲みたいアイテムをチョイスしてくるスタイルだ。樽のコックから注ぐ本日の白とロゼワインは、グラス(400円)、ボトル1/2(1000円)、ボトル(1800円)がある。またボトルに入れた独自配合の「レモンハイ」や「塩ジンジャーサワー」、ウィスキーなどはオール400円と、角打ちらしい酒場ドリンクを置く。オーガニックのボトルワイン(2800円〜)も揃えるが、魚料理専門を明確にすることから赤ワインは置かないという。
一見、斬新な業態に見えるが基本は酒場の本質を極めた場造りにある小林氏の店造り。今後も控えている新店に期待である。
店舗データ
店名 | 貝呑(かいのみ) |
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住所 | 東京都千代田区鍛冶町1-7-1 |
アクセス | JR神田駅より徒歩1分 |
電話 | 03-5289-3344 |
営業時間 | 月〜金17:00〜23:30 土16:00〜23:00 |
定休日 | 日・祝日 |
坪数客数 | 14坪・21席 |
客単価 | 3000円 |
運営会社 | 夢屋 |
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