特集

フースタ繁盛ゼミレポート「『店舗力』で勝つ!店づくりは人づくり」~ガンさんとその卒業生たち~ 世界から注目浴びる居酒屋オーナー、ベイシックス岩澤博氏とその卒業生たちに聞く…!(前編)

飲食店経営者に向けて、よりハイレベルな店・会社・人づくりを目指し、フードスタジアムが毎月開催する「フースタ繁盛ゼミ」。2017年9月のフースタ繁盛ゼミは、都内で8店舗を展開するベイシックス(東京都港区)の代表取締役の岩澤博氏と、そのベイシックスの卒業生6名をゲストとして招致。当日は定員を大幅に上回る過去最高の170名以上が参加し、会場は熱気に包まれた。

【概要】
フースタ繁盛ゼミ9月度
vol.12「『店舗力』で勝つ!店づくりは人づくり」~ガンさんとその卒業生たち~
世界から注目浴びる居酒屋オーナー、ベイシックス岩澤博氏とその卒業生たちに聞く…!
(9月11日(月)フードスタジアム五反田オフィスセミナールームにて開催)
第1部 14:00〜14:30 岩澤氏基調講演
第2部 15:00〜16:00 岩澤氏とベイシックス卒業生に質疑応答

・岩澤博氏(株式会社ベイシックス代表取締役)
・志小田亨氏(有限会社ダディフィンガー代表取締役)
・岡村良太氏(有限会社グッドファット代表取締役)
・岩崎洋平氏(「鳥座」店主)
・吉野友康氏(「鶏や まると」店主)
・東耕一郎氏(「博多串焼き しゃんしゃん」店主)
・佐藤大介氏(株式会社ビッグスルー代表取締役)


第1部 14:00~14:30 「岩澤氏基調講演」

佐藤こうぞう(以下、佐藤):都内に「てやん亭゛」「ジョウモン」など8店舗を展開するベイシックスは、ほぼすべての店舗で1000万円の売り上げを誇り、居酒屋業界をリードする存在とも言える企業です。今回は、代表取締役の岩澤博氏ことガンさんと、ベイシックス卒業生の6名をお呼びしました。それでは登場してもらいましょう!

佐藤:ガンさんは、楽コーポレーション(東京都世田谷区、代表取締役:宇野隆史氏)出身。「居酒屋の神様」と呼ばれた宇野さんのDNAを受け継ぎ、強い店づくりを行っています。いつも飄々と遊んでいるようで、実はスタッフの教育に熱心なガンさん。いつか講演をやってほしいと思っていました。

・志小田亨氏(有限会社ダディフィンガー代表取締役)
志子田亨氏(以下、志子田):私がベイシックス最初の社員で、ガンさんとは25年来の付き合いです。楽コーポレーションの「くいものや楽」で知り合い、ガンさんが西荻窪の「勝手口 てやん亭゛」で独立した半年後に、そちらに加わりました。その後、「てやん亭゛」の表参道店や西麻布店の立ち上げにも参画。2001年に西荻窪の「勝手口 てやん亭゛」を業務委託として引き継ぎ独立し、現在はそのほか5店舗を経営しています。

・岡村良太氏(有限会社グッドファット代表取締役)
岡村良太(以下、岡村):学生時代に西荻窪の「勝手口 てやん亭゛」でお客として飲んでいたことが、居酒屋をやりたいと思ったきっかけです。「テング酒場」などを展開するテンアライド(東京都目黒区、代表取締役:飯田永太氏)を経てベイシックスに入社しました。店長などを歴任し、2004年に独立。現在は、吉祥寺、三鷹で3店舗と業務委託の店舗をやっています。

・岩崎洋平氏(「鳥座」店主)
岩崎洋平氏(以下、岩崎):海外で飲食業の楽しさを知り、日本で大手飲食チェーンに入社した後、2002年にベイシックスに入り、2015年7月に山梨・甲府で「鳥座」を開業し独立しました。

・吉野友康氏(「鶏や まると」店主)
吉野友康氏(以下、吉野):フレンチを経てベイシックスに入社しました。「てやん亭゛」に配属され、ガンさんはじめ諸先輩方から多くを学び、「てやん亭゛」渋谷店の店長などを経験。2009年に「鶏や まると」を開業し独立しました。

・東耕一郎氏(「博多串焼き しゃんしゃん」店主)
東耕一郎氏(以下、東):テンアライドで勤務し、そのとき同期の岡村良太と出会いました。その後ベイシックスに入社し、「博多串焼き ごりょんさん」の店長を務め、2007年に西荻窪に「博多串焼き しゃんしゃん」を開業し独立しました。

・佐藤大介氏(株式会社ビッグスルー代表取締役)
佐藤大介氏(以下、佐藤(大)):「とんかつ まい泉」を経て、ベイシックスに入社、11年半、店長を歴任しながらベイシックスで修業しました。2015年、ベイシックス初の暖簾分け制度で、溝の口に「ジョウモン 溝の口店」をオープンしました。

店舗力は“人間力”

岩澤:打ち合わせはしていないので、ぶっつけ本番で話します。テーマは、「店舗力で勝つ」、「店づくりは人づくり」ですが、実はうちの店、「店舗力」はあると思っていません。どちらかというと「人間力」で勝負してきました。

毎年、ベイシックスでは社員旅行でハワイ、グアム、沖縄に行きます。そのときのスタッフたちが遊びにかけるエネルギーに、毎回、関心しています。たとえば、社員旅行中、男ばかりの集団なので、「女性がいないなんてつまらねえな」なんて彼らに冗談で声をかけるんです。すると、男性スタッフたちは本当にナンパに行ってしまい、そして女の子を連れてくる(笑)。旅行中、居酒屋で飲んでいると、店を移動するごとにどんどん女の子が増えていくんですよ。スタッフたちもナンパされた女の子たちも、みんな、楽しそうに飲んでいる。そういう「なんとかしてやってみよう」という気持ち、「人間力」が、お店での営業、お客さまを喜ばようという気持ちにつながっているのではないかと思います。

宇野氏の教え「商売人は色気」

そのとき、周囲で見ていた人に「なんでそんなに楽しそうなんですか?」と言われました。理由はわからなかったから、そのまま「よくわからないです」と答えました。でも、なんだかわからないけど、楽しさがあるからこそお客さまはくる。 “商売人は色気”。これは楽コーポレーションの宇野さんに教わったことです。だから、ベイシックスの店舗は、“色気のある場所”にこだわってきました。商業ビルや飲食施設は、色気がないからやりません。店舗を始めるとき、不動産業者には、「人通りが少なく目立たない場所」という条件を出しています。そういう場所こそが、色気を作りやすいんです。私自信も、今年56歳になりますが、やはり男はいつまでも色気を出して、モテたいという願望がある。だから、お酒を飲んでもきちんと運動して体形を維持。どんなに色気のある店でも、だらしなく太った人がオーナーだったらダサいし、色気がないでしょう?

店舗の力というのは、人間力、商品力、いろんなバランスが絡み合って決まるものです。音楽と同じで、たとえばボーカルだけがよくても駄目。ギター、ドラム、全員のバランスが重要。同じように店舗もバランスが大切で、いろいろな要素が嚙み合ってよい空気感が醸成される。繁盛店はそういうよい空気感が流れているんです。

自身はスタッフから育てられている

先日、店舗のカウンターに座って飲んでいたら、カウンターの目の前に座っているお客さまに対し、わざわざ後ろからまわって料理を出すスタッフがいて、それには腹が立ちました。せっかくのできたての料理を、カウンターでお客さまの目の前からすぐに出さない。そういう行動が空気感を悪くする。そのスタッフも、それを注意しない店長もいけないと思いました。でも、よくよく考えたら、まあ、俺が悪いのか…そんな気持ちになりました。うち、実は社員教育というものをやったことないんですよ。やりたいけど、やり方がわからないから…。でも、一番教育されているのは私。今日も、ベイシックス卒業生を引き連れて、まるで「俺が育てました」みたいな形になっていますけど、本当は私が彼らに育ててもらったんです。こんなこと、初めて言いますけどね。

たとえば、子どもが生まれると、親は面倒を見ているうちに、親として子どもに育てられているという話がありますが、それと同じです。西荻窪の「てやん亭゛」は一人で創業しました。はじめは自由気ままに営業していましたが、志小田が加わった途端、志小田のことを考えはじめました。次は良太。そうしているうちに、どんどん人が増えると、1店舗では足りなくなって次の出店へとつながりました。

店舗展開よりも、1店舗に全力を尽くす

私のポリシーは、店を出したらその店ととことん向き合うこと。その店が流行らないうちに次の出店は絶対しません。「てやん亭゛」は、9坪で430万円の売り上げを出すのに3年かかりました。次の店舗を出したのはそれから。200万円くらいで次に行ったら駄目。とことんやらないと納得しません。お店は生き様、子どもと一緒。結果を出すまで向き合う。ときにカウンターに座り、究極の客目線でお店に向き合う。同時に、スタッフとも向き合う。こういうことは100店舗、200店舗をやっていたらできない。このベイシックスの8店舗でそれができないなら、ヘタレ、お店なんてやらないほうがいいと思っています。1店舗ごとにその店の持つ力や、スタッフの潜在能力をいかに引き出すかが大切です。とくに、個人店はいかにお店と向き合うかが、一番大切なこと。お店を好きになって、お店と恋愛する。でないと見えないことも多い。売り上げが足りないというお店は、お店との向き合い方が足りない。お客として座っていると、見えないことが見えてくる。私はときにはスタッフには小姑のように文句を言うけど、そういうことが大切。絶対に現場主義。徹底的に現場の人間と向き合います。

素人集団ならではの目線で

うちのお店の最大の武器であり弱点であることは、「料理人のプロがいない」ということ。素人は素人なりに開き直って、できることをやっています。今の時代は本物志向が強くなってきているので、日々、勉強はしています。でも、プロには勝てないけど、たとえばお母さんが作るような、心のこもった、ほっこりする料理。街の個人店はそういうことが大事。宇野さんから、そう教わってきました。個人なりにおもしろいお店を作るため、素人だからこそ勝てるやり方を勉強している最中です。

自己を知り、自己に徹する

私はスタッフに「モチベーションを上げろ」とは言いません。背中を見せて、“この商売は楽しい”と思わせることが自分の役目だと思います。幸いなことに私のまわりには優秀な経営者がいました。ゼットンの稲本健一氏、ダイヤモンドダイニングの松村厚久氏、エー・ピーカンパニーの米山久氏。積極的に多店舗展開を図る彼らは、私とは脳の回路がちがう。私は彼らのような多店舗化は無理ですね。でも、一店舗一店舗、強い店をつくれば、恥じることはない。それで毎年社員旅行して、楽しくやる。このように「自分を知ること」が飲食店経営者にとって大事なこと。吉田拓郎の「今日までそして明日から」という曲に、「わたしにはわたしの生き方がある それはおそらく自分というものを 知るところから始まるものでしょう」という歌詞があります。私は中学のころからこの曲が大好きなんです。まさに飲食店経営者に大切なのは、まずは自分を知ること。そして自己に徹すること。1000店舗やりたいという友人がいますが、彼は私にとっては宇宙人(笑)。宇宙人の考えはできない。ただの飲み屋のおやじ、それが一番楽しいと思うのが私です。

佐藤:ですが、ガンさんの実力なら、もっと店舗展開もできるのでは?物件があればやりますか?

岩澤:店舗展開は物件より人ありき。お店を出すことによって現場のスタッフが振り回されるのはどうかと思います。お店を増やすことより、一店舗一店舗、強い店を作りたい。増やしたいという思いもなくはありませんが…面倒くさい。たくさんやっている人って忙しそうじゃないですか。店舗の数ではなく、一店舗でいくら売るかが大事。20店舗あっても、1つでも暇な店があったら嫌ですね。一店舗に全力で向き合う方が、スタッフの潜在能力、人間力を引き出せる。

佐藤:なるほど。ガンさんの強い店作りが垣間見えるお話でしたね。それではここで卒業生の皆さんに質問です。ガンさんから学んだことはなんでしょうか?

志小田:学んだこと、ありすぎて悩みました…。そのなかで今も継続してることは、「目線」です。お客さまの目線、スタッフの目線。とくにスタッフの目線が難しい。お客さま目線は、経営者ならみんな考えることだと思います。たとえば、お通しが300円ならよいけど400円だと高いな、とか。それよりも重要視したいのはスタッフの目線ですね。一言でいうと、ツンデレ。厳しい部分と優しい部分のメリハリです。自由にやらせる部分もあるけど、やっちゃいけないことはきちんと言う。それが大切ですね。

岩澤:スタッフと同じ目線になるのが良いと思う。子どもに対して、赤ちゃん言葉で話しかけるのと同じ。スタッフに自分からおりていき、ときに一緒に遊ぶ。

志小田:たとえば、風呂無しアパートに住んでいたけど、好きな人ができて結婚することになりました、やがて子どもができました、そしたら少し背伸びしてでも広いところに住みたいと思いますよね。店舗の増やし方ってそういうものだと思うんです。会社は家族。家族が増えて住むところが狭くなったら次を探そう、それが理想の店舗の増やし方です。

岡村:私が言おうとしていたこと、志小田さんにほとんど言われてしまいました(笑)。ガンさんから学んだことは、繁盛店の作り方、空気感に尽きる。お客さまに愛され、スタッフもお店を愛する。「てやん亭゛」では、駅からも遠い立地で看板も出さず、口コミで集客する方法を学ばせてもらいました。そこで学んだ“繁盛店の空気感”というものを知っているから、独立してから、それがスタートの目標になりました。大きな看板を出さなくても繁盛させること、そしてあの繁盛店の気持ちのよい空気感を自分の店でも伝えようと、今、奮闘中。ナンバーワン、オンリーワンをめざします。

岩崎:ガンさんのすごいところは、ひとつの商品、ひとつの接客を作るとき、とことん一緒に付き合ってくれることです。たとえば、新商品のつくねができて、ガンさんに試食をしてもらうと、その晩に感想のメールがきます。また翌朝もメールがくる。さらに、後日、つくねのおいしい店に連れていかれる。そこからさらに試作して、ゴーがでるまで、ガンさんは最初から最後までとことん向き合ってくれる。ときにはけちょんけちょんに言われ、ストレスで10円ハゲもできるほど。ですが、すべてのメニューに妥協せず向き合ってくる姿勢を学ばせてもらいました。

岩澤:商品の開発や、店舗の立ち上げなどに際して、私はほとんど口出ししませんよ。見守って、たまにアドバイスするだけ。図面から、メニュー開発、メニュー表すべてに関して、スタッフに任せます。もはやスタッフ参加型ではなくスタッフ主体。うまくいけばスタッフの自信になるし、駄目なら、そこからスタッフがお店を育てていけばと思います。私は全力でその手助けをするのみです。

吉野:今のスタッフ主体という話においては、私が最もそれを体感していると思う。渋谷の「てやん亭゛」を立ち上げてから1年弱、店長を任せてもらったとき、ガンさん命令で店のテーマを沖縄料理に変えることになりました。沖縄料理なんてやったことないのに、突然の無茶ぶり。沖縄に行きたいと思っていたガンさんが、店を沖縄料理にすれば、沖縄に行けると思ったからのようです(笑)。都内の沖縄料理の店をまわり、がむしゃらに勉強して形にしました。その無茶ぶりが今の自信につながっています。私はもともとフレンチ出身。ベイシックスの面接で、「料理人はいらない、商売人になれ」とガンさんに面接で言われことが印象的でした。今、その言葉通り、心から商売を楽しんでいます。

東:ガンさんから学んだことは、「やってやれないことはない」ということ。入社同時、私が博多出身だったから、ガンさんに「博多串焼きできるだろ?」と言われ、物件が決まっているので博多串焼きをやることになってしまった。もちろん博多串焼きの経験なんてありません。そこでガンさんは私をスーパーに連れていき、焼き鳥を焼いているおばちゃんを指さして「スーパーのおばちゃんだって焼き鳥を焼いているんだぞ、お前にはできないのか」と比べられました(笑)。そうしてまったく何もわからない私に全部任せてくれたからこそ、一生のモノの仕事を見つけられました。それで今に至っている。ガンさん…ではなく、あのときのスーパーのおばちゃんに感謝ですね(笑)。というのは冗談ですが、ガンさんからは、商売は難しいことではないない、「やってやれないことはない」という精神を学びました。

佐藤(大):先輩方が立っているオープンキッチンがかっこよくて、自分も立ちたいという思いがありました。以前、六本木の「bird酉男man (バードマン)」を立ち上げたばかりのころ、ガンさんが「カウンターを制する者は居酒屋を制する」と言って、ガンさんが白衣を着てカウンターに入ってきた。ガンさんはメニューもオペレーションも知らないはずなので、どうするんだろうと思って見ていました。そしたらお客さまに「エア寿司」を出し始めた。もちろん寿司なんて握ってないのですが、身振り手振りで。「お客さま、こちら『エア寿司』です。料理ができるまでこちらを食べてお待ちください」って(笑)。そうやってお客さまを楽しませる姿勢は、すごいと思いました。

佐藤:みなさん、ありがとうございます。それでは、最後に一言、ガンさんに前半を締めてもらいましょう。

岩澤:博多串焼きと野菜巻きの店「ごりょんさん」は、18坪で600万円を売っていた。それを六本木の「ジョウモン」で同じように博多串焼きと野菜巻きをやった。17坪で600万円を目標にしていたら、なんと半月で達成してしまって。今は1000万円の売り上げ。宇野さん曰く、「今までの積み重ねだ。表参道の3階でやってきたことを、六本木の路面でやるとこうなる」と褒められ、あのときは感動しましたね。六本木、渋谷、吉祥寺の「ジョウモン」は、一時は売却しようかと考えていたときもありました。でも、結果的にそう思った店ほど好調になる。お店やスタッフを苦労させても、そこから這い上がるくらいが強い店ができると確信しています。お店は生き物、育てていくもの。さっきも言いましたが、店づくりは人づくり。私はスタッフに育てられていると謙虚に思う次第です。これからもよろしくお願いします。

→フースタ繁盛ゼミレポート「『店舗力』で勝つ!店づくりは人づくり」~ガンさんとその卒業生たち~ 世界から注目浴びる居酒屋オーナー、ベイシックス岩澤博氏とその卒業生たちに聞く…!(後編)へつづく

特集一覧トップへ

Uber Eats レストランパートナー募集