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ココロがバリアをフリーにしていく~「ココロのバリアフリー計画」が変える社会~

内閣府が発表した「平成28年版 障害者白書(全体版)」によると、現在、日本の身体障がい者の数は393.7万人に及ぶ。日常生活で車椅子を利用している方も200万人いるといわれており、今後、高齢者の車椅子ユーザーが多くなれば、さらに増えていくことが予想されている。しかし欧米だと、車椅子ユーザーが健常者と同じような生活を送る傾向が強いが、日本の場合、引きごもりになるケースが少なくない。その原因の一つに“社会の寛容さ”があり、日常生活で健常者が障がい者を助けるのを躊躇するシーンも目立つ。2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、世界各国から障がいを持った方が日本を訪れる。どのようにしてユニバーサル社会を実現していくか。国を挙げて、問題の解決に頭を悩ます。こうした状況の中、注目を集めているのがNPO法人「ココロのバリアフリー計画」だ。同法人の理事長・池田君江氏のインタビューを通して、障がい者を取り巻く社会環境や「ココロのバリアフリー計画」の活動の詳細、そして目指すべきビジョンなどに迫っていく。


DSC_0717_2_650「バリアフリーを完璧に施した建物である必要はありません。お店側が少しだけ“ウエルカム”な姿勢になるだけで車椅子でも出かけやすい世の中になって、社会環境もガラリと変わるのではないでしょうか」
そのように話すのは「ココロのバリアフリー計画」の理事長・池田君江氏だ。ココロのバリアフリー計画とは、車椅子の方はもちろん、妊婦やベビーカー、お年寄りなどが出かけやすい社会の実現を目指すNPO法人である。障がい者を快く受け入れてくれる店を「ココロのバリアフリー応援店」として「HEART BARRIER FREE PROJECT」というサイト上で紹介するとともに、障がい者サポートなどの啓蒙活動も行う。現在、業界団体や企業からの講演依頼も殺到しており、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを前に注目度が高まっている。
18624716_1451840891542722_703629642_n同サイトの何よりの特徴が、ウエルカムなココロで接客してくれる店を掲載しているという点だ。障がいの程度は人によって異なるため、必要となる整備はそれぞれ違う。少しの段差があっても、周囲のココロがあればバリアを超えて素敵なお店になるからバリアフリーは必須ではない。そうした想いを「ココロのバリアフリー」という言葉に込めて、池田氏は精力的に活動に取り組む。彼女を突き動かす原動力の一つが、店と障がい者の間にある情報格差を埋めたいという気持ちだ。その現状について、次のように話す。
「通常のグルメサイトでは、店側が障がい者を受け入れてくれるかどうかはもちろん、入口に段差があるかや空中階かどうかも分からないケースが山ほどあります。また、バリアフリーと表記されていても、そう掲載されているのを店のスタッフが知らないことも珍しくありません。ただ店側からの情報提供があれば、そうした状況を踏まえた上で、適切な店選びができるようになります。障がいの程度によって、狭いトイレには入れるけれど手すりがないとダメな人もいれば、幅がないとトイレに入れないけれど手すりがなくても問題がない人もいるなど、置かれた状況は同じではありません。一人一人で重要な情報が違うからこそ、まずは店側から提供してもらうことが大切なのです」
「HEART BARRIER FREE PROJECT」では、いくつかのバリアフリーを選択して、店選びができる仕組みになっている。選択できるのは「入口段差無し」と「階段無し」、「エレベーター有り」、「店内段差無し」、「トイレ段差無し」、「トイレ手すり有り」、「車椅子用トイレ有り」、「車椅子用駐車場有り」の8つ。住所や交通手段、電話番号、営業時間、カード利用、平均予算といった通常のグルメサイトに掲載されている情報はもちろん、「Barrier Free Information」という項目ではトイレ入口幅やトイレの扉の形式、近隣トイレ情報なども紹介。飲食店はもちろん、趣味や美容、ショッピング、生活などのジャンルからも条件を絞れて全国の店を探せるため、利用者数は増え続けている。

とある経営者との出会いが変えた運命

18643711_1451841474875997_1635546088_n池田氏の活動の原点は、過去の苦い経験にある。2007年、渋谷区の温泉施設で起きた爆発事故。当時、従業員として働いていた彼女は、それに巻き込まれて重傷を負う。一命は取り留めたものの全身を15か所も骨折した上に脊髄も損傷し、半身不随となった。突然、車椅子生活になって、自身を取り巻く状況は一変する。当たり前だと思っていたことが、当たり前ではなくなったのだ。
「コンビニや銀行には行けないし、電車に乗れば舌打ちされて、タクシーに乗ろうとしたら乗車拒否をされました。それならば、電話をしてからお店に行こうとしても『バリアフリーではないから』と断られてしまいます。バリアフリーのお店なら大丈夫だろうと思っても、そう上手くはいきません。他のお客さまの迷惑になるからと断られるケースも多いですから」
実際、こうした現実を突きつけられた結果、外出が怖くなって、引きこもりになる身体障がい者は少なくない。池田氏も外出が楽しくなくなって、かつては旅行や買い物などアクティブに過ごしていたが、徐々に引きごもりになっていく。ただ娘さんが中学生で、まだまだ出かけたい盛りだったため、たまに一緒に出かけたりしていた。そのとき、彼女は自らの人生を変える人物に出会う。それが串カツ田中(東京都品川区、代表取締役社長 貫啓二氏)の貫氏だ。
18642072_1451841058209372_2004315126_o串カツ田中といえば、現在でこそ全国で店舗展開し、東証マザーズへの上場も果たすなど、飲食業界を代表する企業の一つに挙げられる。しかし2008年当時は、東急世田谷線の「世田谷駅」に一号店をオープンしたばかりだった。ただ影響力を発揮するのに店舗数は関係ない。池田氏の自宅の近所にオープンしたことで、彼女の人生を変えていくのだから。
「大阪出身なので、近所に串カツの店ができたと聞いて、うれしかったですね。すぐに行ってみたいと思いましたが、オープンしたてで混雑しているし、店内もバリアフリーではないから入店は難しいと感じました。それでも断られるのを覚悟で店に入ったんです。『車椅子でも大丈夫ですか』と言って。そうしたら『車椅子のお客さまが来店されたことがないので、何を必要とされているか分かりません。むしろどうしたらいいのかを僕に教えてくれませんか』と、ウエルカムな雰囲気で迎え入れてくれたんです」
そのとき池田氏に対応した人物こそ、当時まだ店内に立って串カツを揚げていた貫氏だった。貫氏はウエルカムな雰囲気はそのまま、実にスムーズに池田氏を店内に迎え入れたという。
「はじめて車椅子の客を迎え入れるとは思えない手際の良さでした。入口の段差をクリアするため、すぐにスタッフを呼んで車椅子を持ち上げてくれましたし、入店した後も通路を作ってくれたり、車椅子でも飲食がしやすい席もセッティングしてくれたりと、私の視点に立った対応をしてくれます。全くバリアフリーの設計になっていないにも関わらず歓迎してもらえて、とても感動しました」
居心地のいい空間で楽しい時間を過ごしながら、池田氏は思う。少しでも誰かの手助けがあれば、バリアフリーとかは関係ないんだな、と。そして帰り際に、貫氏からかけられた言葉が彼女の心を大きく動かす。「分からないことが多かったら、教えてくれてありがとう。大切なことだから、もっとみんなに教えてあげた方がいいで」。自身とは異なる視点からの言葉だったからか、視界が開けたようだったと、池田氏は話す。
「『串カツ田中』に通うようになってから、いつしかアルバイトのスタッフもサポートしてくれるようになりました。そんなある日、貫さんから言われたんです。『池田さん、ありがとう。来店してくれるようになって、アルバイトスタッフが積極的に声掛けするようになった。店の外でも困っている人に手を貸していると思う。一人一人の意識が高くなったよ』って。その言葉がすごくうれしくて、私が店に行くことにもしっかりとした意義があるだと思いました」
こうした「串カツ田中」での一連の出来事を通して、池田氏は「ココロのバリアフリー計画」のアイデアを思いつく。バリアフリーではないからダメなのではなくて、どうしたら身体障がい者も受け入れられるかを一緒に考えくれる店の輪を広げていきたい。そういう想いのもと、NPO法人を立ち上げて、バリアフリー情報などを配信する「HEART BARRIER FREE PROJECT」を開設した。現在、登録店舗は1100店舗を超えて、大手チェーンの全ての店が加入ケースも少なくない。

世界に誇れるユニバーサルな社会を目指して

DSC_0734_2_650「ココロのバリアフリー計画」には、車椅子の方などを迎え入れる積極的な姿勢があれば加盟できる。加盟すると「ステッカー」と「ユーザーズガイド」が配られるので、店の入り口などの目立つところにステッカーを貼って「ココロのバリアフリー応援店」である旨を示す。また、別途料金が必要になるが、加盟店向けに車椅子の体験や操作方法、接客上の注意点などのレクチャーも行う。
加盟店の継続などに費用はかからない。ただ加盟時に2,000円(税込)が必要だ。当初、無料で加盟店を募集することも検討していたが、時間が経つにつれて何のために加盟したかを忘れられてしまう恐れがある。そのため、気づきのための費用として、加盟時のみ料金が発生するモデルとなった。
18685340_1451841154876029_312684545_n「ステッカーを貼って、心でおもてなしをする店と意思表示をすれば、スタッフもお客さんに声をかけやすくなるでしょう。もちろん車椅子やベビーカー、お年寄りの方なども、困ったことがあったらお店のスタッフにお願いがしやすくなります。ウエルカムの気持ちがあるだけで、多くの状況を改善できるようになるのです」
車椅子の方は外出するのが怖い。ただ「ココロのバリアフリー応援店」が増えれば、様々な店の情報がそろうので、外出しやすい環境となるだろう。池田氏も同活動をはじめてから、気持ちの持ち方が変わったと語る。
「生きることに前向きになれる場所。それが飲食店なのではないでしょうか。私自身、おいしいものを食べたり、人とコミュニケーションをとったりして、ポジティブな刺激をもらえるので居酒屋が大好きです。車椅子になった当初は外出がしたくなくなりましたが、この活動を始めてから再び行けるようになって、たくさんの元気をもらっています。気持ちが明るくなる場所を増やすためにも、もっと多くの飲食店の方々に『ココロのバリアフリー応援店』に参加してもらいたいですね。それが社会を変えていく力にもなっていくと思っています」
現在、「ココロのバリアフリー応援店」に参加して意識が変わった結果、バリアフリーを考慮した店舗作りに取り組む企業が増えてきている。確かに社会全体で解決しなければならない問題は、まだまだ多い。2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、バリアフリーが整備されていて当たり前だと考えている国からも、たくさんの方が訪れる。中でも食事の機会は必ずあるため、飲食店に求められるハードルは一際高い。それでも歓迎する気持ちがあれば、エレベーターをつけたり、段差をなくしたりしなくても、バリアフリーが整備されているのと同様の接客ができる可能性はある。
未来のあるべき社会を創造しながら、徐々に影響力を高めている「ココロのバリアフリー計画」。今後のビジョンについて、池田氏は「このステッカーが多くのお店に溢れている。そんな環境を実現していきたいと考えています。私たちの活動が、困っている人に声をかけるなど前向きな行動のキッカケになれば嬉しいですね」と目を輝かす。
ちなみに、池田氏の人生を変えた「串カツ田中」の店舗には、彼女を頻繁に介助してくれる男性スタッフが3人いた。当時、大学生だった彼らも今では社会人になっている。そのうちの一人が自動車販売店に勤めていて、ある日、車椅子の方の担当を任された。そのとき、相手の視点に立った思いやりのある接客が客の心を動かして、感動を与えたという。「ココロのバリアフリー計画」の活動は、まだまだ新芽かもしれない。しかし、深く張られた根は力強く生命力に溢れている。

DSC_0742_1_650池田君江氏(写真右)と「ココロのバリアフリー応援店」である「アロハテーブル 中目黒」の店長・松田好央氏

(インタビュアー:大山正 文・構成:三輪ダイスケ)

■「HEART BARRIER FREE PROJECT」サイトURL
http://www.heartbarrierfree.com/

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