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【シリーズ・超繁盛店を支える店舗デザイナーの仕事】平面図に神が宿る! 坪月商40万超えを可能にする店作りの方程式とは?


“新しい酒場づくり”

―では、「居酒屋」と「大衆酒場」の違いについてはどうお考えですか?

OLYMPUS DIGITAL CAMERA乙部 僕はいつも、酒場や大衆酒場の方が、余白や遊びの部分がより大きいのかなと思いながら店を作ってます。居酒屋の方が縛りは少ないけど、逆に「一人二杯まで」とか、「二度づけ禁止」とか、独自のルールがある分酒場の方が自由というか。だから「百式」でもセルフを導入したりしましたし。

金子(乙部氏をまじまじと見て)…難しいこと言うね。じゃ「百式」はどっちのつもりなの?

乙部 自分は「酒場」のつもりです。
要はお客さんに「ここまでやってね」という要素があるというか。

―なるほど。

金子 「酒場」と「大衆酒場」もまたニュアンスが違うような気もするし…。
僕は「居酒屋」って、もうちょっとなんか言葉がないのかなとはいつも思うんですよね。例えば「楽」さんとか、ここ(おじんじょ)もそうですけど、人に「居酒屋ですよ」って紹介するとなんかちょっと違うというか…。

―「居酒屋」って、実は何も言ってないんじゃないかという気もしますよね。

金子 新しい言葉、何かないですかねぇ。

―その一方で、「大衆酒場」の場合、常連比率9割!みたいな独特の敷居の高さがありますよね。そうなると、今世の中に求められているのは新しい「酒場」なのかもしれません。

乙部 そうですね。だから僕が老舗の名店に視察に行くのは、老舗の在り方を“今”に置き換えるとどうなるのかなと考えているからです。

―「ネオ酒場」の発想ですね。前からずっとあったものを、今現在の要素で表現していくとどうなるかという。そういう意味では、乙部さんの仕事はいわば“新しい酒場づくり”。時代に求めらているのでしょうね。

乙部 極言すれば、やはりそこはレイアウト(平面図)に宿ってますね。

金子 そうだね。コンセプト、業態、席効率、人件費効率…。いくら売りたくて、そのためにどうしたらいいかということだよね。

―例えば坪月商30万以上とか?

乙部 うちはいつも大体月40(万)行ってくれたらと思いながら作ってますね。

―それは都心、ローカル関係なくですか?

乙部 同時代のオーナーさんは関係ないですね。むしろローカルの方がすごい勢いがあったりします。

鹿芭莉(しかばり)2金子 福岡なんて、競争が激しい中でもうちのお客さんはみんなすごいよね。あとは富山とか、埼玉、栃木などのオーナーさんともお仕事させていただいてますが、みんな頑張ってますね。宇都宮でドミナント展開しているチームバリスタさんの「ろばた鹿芭莉(しかばり)」、ここなんかもまだオープンしたばかりですけどかなり感触はいいですね。

―ローカルで月坪40万はすごいですね…!でも、そういったお店がだんだん全国に広がっていきそうな気がしますね。スタジオムーン的酒場というか。
しかも御社のデザインは、オンリーワン的で、使い回ししていない感じがします。

金子 うちっぽいねとはよくいわれるので共通の感覚はあると思いますけど、デザインの使いまわしは絶対してないですね。…だから儲からないんですよねぇ(笑)。
作る側としては、何かボンっと大きくわかりやすいアピールをした方が絶対にやりやすいんですよ。普通に、さりげなく作る方が難しい。(乙部氏に向かって)俺たちからすると、なんでもなく作るのってホント勇気がいるよね。

乙部 そうですね。それを考えると、やっぱり平面図なんですよね。極限までオシャレさとかを抜いていくと、最終的には平面図に行きつくのかなと。そこまで出来上がったら全体の7割はもう完成していますね。
僕は完成した実際の店舗を見る時よりも、平面図が描き上がって、そこからお客さんがワイワイ賑わってる様子がイメージできて「これはイケる…!」って確信する時の方がゾクッときますね(笑)。

金子 ちょっと「…俺天才かな?」って思うときあるもんね(笑)。
ただ、お客さんって相当わかる人じゃないと、平面図を見てもそんなにリアルなイメージはできないんですよ。だからそこは信頼関係で、お客さんが予想していたよりもいいものを作らないとダメなんです。結局はそこの信頼を裏切らないものをつくるかどうかですよね。

“抜きどころ”を作る

―そうやって一件一件考え抜いて店を作っていくのは大変ですね。

乙部 そうですね。うちはデザイナー一人がいつも5,6件を同時に抱えていて、業態もみんな違うので、いつも頭が細分化されてるような状態です(笑)。

―そこまで魂をいれてお店が繁盛して、また次の店舗を頼んでもらえたらさぞ嬉しいでしょうね。

乙部 それがあるからやりがいがあるんですよね。
うちは店舗の改装スパンがめちゃめちゃ長くて、設備が先にダメになるということはありますが、最低12~15年は持つ店作りをしてるということもあるので、新店舗を出していただけると有難いですね。

金子 店が長持ちするようにデザインするのと同時に、素材も、時間が経つにつれだんだんとそれらしくなるものを使うようにしています。いわゆるクロス(壁紙)は使わないですし、それだったら打ちっぱなしをむき出しのまま活かすとか。10年15年経って味になるような、手すきの和紙なんかは使いますけどね。

―御社は木材や古材を使われるという印象もありますね。

金子 木材、とくに古木なんかはさじ加減ですね。あんまり多用するとへんな田舎臭さが出ちゃいますし。その辺は身に付いた感覚なんだと思います。
ただ“抜きどころ”を必ず作るってことは必要で、その作業はすごく難しいですね。

―抜き所とは?

OLYMPUS DIGITAL CAMERA金子 店を全部自分の思い通りに作ると、やりすぎになっちゃうんです。一度完成したデザインからの引き算は絶対に必要ですね。
業態などによっていろいろですけど、最初に考える時にはどうしても作り込みすぎちゃうので、そこから3割くらいは抜くようにしています。

―3割も!結構抜くんですね…!

乙部 自分は、抜く代わりに照明とかある一定部分をオーナーさんに選んでもらうようにしています。そうすると、自分のイメージではまず選びそうにないものが使われたりするので、全体としてはちょうどよくなるんです。

金子 いま、ここ(おじんじょ)も満席ですけど、やっぱり店はお客さんが入って完成なんです。こうやってお客さんが沢山いてワイワイやっていたら、正直もうあとはそんなにいらないじゃないですか。だからデザインから削っていく必要があるんですよね。
あとは、ちょっとした店内の装飾デザインとかメニュー作りとかの部分を自分でできるオーナーさんかどうかを見極める必要はありますね。

―ところで2008年から2010年くらい、居抜き物件から作られた飲食店が多かった印象ですが、最近またスケルトンでやりたいっていうオーナーさんが増えていますね。

金子 やっぱり自分の思った店をしっかりやりたいからということで、今はまたスケルトンが増えましたね。

―スケルトンと居抜き、予算的にはどのくらい変わるんでしょうか?

金子 物件にも寄りますが、居抜きだとスケルトンから作るより500万くらいは安く済みむことがあります。人それぞれですが、初期投資をとにかく落としたいという方もいますし、自分が本当にやりたいお店を作りたい、それだったら500万÷365日って一日に換算すれば一体いくらになる、みたいな考えの方もいらっしゃいますね。

―なるほど。500万を惜しまずに、その分しっかり稼ごうよということですね。

店の“空気感”

―お二人は、どこかほかの飲食店で好きだと思うお店はありますか?あとは、やってみたい理想のお店とか…。

乙部 僕は「オステリア ウララ」さん、昔から好きですね。あと夢屋さん系列のお店も好きです。
やってみたいお店に関しては、いつか全く日本人もいないような異国の地でやってみたいなというのはありますね。現地の人に対して居酒屋を作ったら、果たしてその感覚って通じるのかなというところで。

金子 僕は好きなお店はいっぱいあるんですけど、厨房の贅沢さでは長野・小布施の「蔵部(くらぶ)」。日本酒の蔵を使ったレストラン居酒屋なんですけど、ザ・オープンキッチン!という感じで空間が素晴らしい。あの圧倒的なキッチンの作り方はすごい好きですね。
それから作ってみたいのは、でっかい倉庫を借り切って真ん中に5席くらいのカウンターがポツンとあるバーとかやりたいですねぇ。ドア開けてそこに行くまで100mくらいあって、すごいかっこいいマスターがいるというような…。

―伺っていると、デザインの仕事ってとても楽しそうですね。

大衆酒場 酒呑気まるこ金子 楽しまないとお店は作れません!

乙部 そうですね。ある意味イーブンの関係の中で言いたいことを言い合いながら作っていくので、ストレスはないです。オーナーさんの次に僕達がお店のことを真剣に考えているという自負もありますし。

―どこでどんなオーナーさんがどんなことをやりたがっているのか、非常に強く関心を持っているという意味では、我々の仕事と同じかもしれません。
きっと一番困るのは、ただ「流行るお店を作ってくれ」といわれる感じですよね。

金子 でもそういうお客さんはうちにはいないですね。
何かのつながりでお店に行った際に「スタジオムーンさんがやった流行ってるお店を全部参考にしてこの店を作りました!」っていわれることがたまにあるんですよ。心の中で「…パクるんだったらちゃんとパクれよ!」って言いたくなったりしますけどね(笑)。今までパクりましたっていわれてその店に嫉妬したことはないですね。

―全然パクれてないと(笑)。空気感までは真似できないということですね。

乙部 表面的な部分はいくらでもパクってもらってかまわないんです。でもやっぱり平面図までは真似できないですよね。

―それにしても、手掛けたお店が全部繁盛店になるというのは本当にすごいですね…。

金子 率はメチャクチャ高いとは思いますけど、全部じゃないですよ(笑)。

―逆に、繁盛店にならないとしたら何が原因なんでしょう。

金子 うーん、やっぱりオーナーさんのやる気じゃないですかね…。ちょっとしたメンタル的な部分とか資金繰り、健康問題とか。
特にうちがつくる店はバーッとした派手さはないので、どうしても最初の数か月はがまんしないといけない。そういう面で厳しさはあるかもしれません。なにか問題が発生した場合には、僕達に何ができるわけでもないですけど、一言相談してもらえたら…と思いますね。

乙部 確かに、開店からしばらくの間の覚悟は必要かもしれないですね。

bird酉男man金子 そういう意味では、岩ちゃん(ベイシックス岩澤 博氏)はやっぱりすごい。いつもほんとに小さな看板しかつけないので、最初の数か月は会うたびに「いや、もうそろそろでっかい看板出すから!」っていうんですけど(笑)、でもやらないし、店に変な張り紙も出さない。でも半年くらい経つと人気が大爆発しています。

お互いについて

―乙部さんは、金子さんのどこを尊敬されていますか?

乙部 (即答で)平面図ですね。自分にはない線を描かれるので、いつも盗み見しまくってます(笑)。

―お二人ともCADを使われるんですよね?

金子 僕は手描きです。手じゃないとアイデアが出てこないんですよね。
案が頭に浮かぶまでが大変ですけど、一度向かったら早いですね。やる時は集中して一気に描き上げます。

―そうなんですか!手描きとは驚きました。
では金子さんは、乙部さんのどこを評価されていますか?

金子 やっぱりお酒とか、飲食店が好きだっていう部分が一番じゃないですかね。

―乙部さんが自分にないものを持っているという部分もありますか?いつか自分を超えてほしいとか…

金子 持ってます持ってます。…でもどこだろうな。絵もヘタだし、字もヘタだしね(笑)。
自分を超えていってほしいですけど、(乙部氏を見てきっぱりと)全然超えさせないけどね。

乙部 (笑)。

―では、海外を含めてここ直近のお仕事などを教えてください。

八兵衛 天神style微風店(台湾)2金子 昨年12月に、博多の「焼とりの八兵衛」さんの台湾2号店がオープンしました。デパートの中にあるんですけど、デパートっぽくない店になりましたね。海外では数年前にバンコクの「てっぺん」さんをやらせてもらいましたが、ここなんかもお客さんがすごく入ってます。

―御社では商業施設もやられるんですか?

金子 これまで一緒に仕事をしていて、新しく商業施設に出店するお客さんの場合はやります。でもうちが入るとちょっと異質みたいで(笑)、ビル側も大変そうですけど。
東京でいうと大手町iiyo!!内の「なかめのてっぺん 丸の内」や、横浜ランドマークの「なかめのてっぺん 横浜みなとみらい」なんかは、エリアの中で一番売ってますね。博多だとソラリアの「焼きとりの八兵衛」も断トツで売ってるみたいです。
あと直近では、3月末に「楽」系列で肉カラーの強い居酒屋業態を吉祥寺に出すのと、「なかめのてっぺん」の内山君の新ブランドを中目黒の高架下に出す予定があります。

乙部 4/27(水)には博多駅直結のJRJPビルで福岡の有名店「河太郎」、「焼きとりの八兵衛」、「博多 一慶」3店舗が同時に、また小倉の紫江‘Sという商業施設で「SAIKOUGYU」という肉業態専門店オープンの予定があります。

―御社のこれからの方向は、変わらずに長く繁盛するお店を作っていくという感じでしょうか?

乙部 そうですね。うちはオーナーさん同士を繋げる役目を担わせてもらったりもするので、そうした繋がりやご縁の中から新しい仕事を生み出していければいいなぁと思っています。

―これからはさらにスタジオムーンさんの時代が来そうな予感がしますね。

金子 そうですか?来たことないよね?(笑)

―今後スタッフの人数を増やされる予定は?

金子 今、僕を含めてデザイナーが3人、事務が2人、現場監督をしながら研修中の新人が1人、産休中のデザイナーが1人いて、今後はさらに人を増やしていきたいんですけど、意外と人が来ないんですよね。

―大変そうだと思われてるんでしょうか。

金子 大変だけど楽しいですけどね。うちは下請けじゃなくて、お客さんと直で話ができる50・50(フィフティ・フィフティ)の関係なんで。店作りはセッションです。要求がないといいお店が作れないし、10年続くお店を何軒作れるかという勝負なんです。

乙部 お客さんにムチャぶりされると燃えてきますよ(笑)。

金子 ぜひ、「*スタッフ募集中」と書いておいてください!

(構成 中村結)

《会社プロフィール》 (有)スタジオムーン
1991年埼玉県和光市にて創業。1996年港区西麻布に移転。2012年福岡支部設立。イタリアン、居酒屋、バルなど、業態を問わず数々の人気繁盛店の店舗デザインや改装を手掛ける。アメリカ、シカゴのIIDAによる31st ANNUAL Interior Design Competition、第一回 国際海の手文化都市よこすか景観賞 受賞
http://s-moon.co.jp

《金子誉樹氏 プロフィール》
OLYMPUS DIGITAL CAMERA1964年東京都生まれ。インテリアデザインの専門学校を卒業後、店舗デザイン会社「伯デザイン」を経て、1991年にスタジオムーンを創業し独立。「空間屋」を名乗り、数々の飲食店デザインを手掛ける。その手腕から飲食店経営者の篤い信頼を集める。
《乙部隆行氏 プロフィール》
OLYMPUS DIGITAL CAMERA1976年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、オフィス家具メーカーに入社し営業マンとして活躍。もともと飲食店好きだったことから、2005年 スタジオムーンに入社。「想形家」として人気飲食店の店舗デザインを多数手掛ける。

 

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