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編集長コラム

2015年のキーワード「ボナファイド」とは?

2014年ももうすぐ幕を閉じる。1年を振り返ってみて、今年の飲食マーケットは「企業カルチャー」が問われた年だったような気がする。売上げ、効率至上主義、中身のない店舗拡大志向は尊敬や評価を受けないことがハッキリした。2015年は「カルチャー変革の年」になる。そのキーワードとは何だろうか?

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。


東京マーケットはもはや「業態」を論じる時代ではなくなった。「理念」や「ミッション」の感じられない企業は、顧客からリスペクトされない。見た目だけの中身の薄い「上げ底型」の店舗、繁盛店のパクリやフェイクでいくら店を伸ばしても、すぐにメッキが剥がれてしまう。業態の寿命は限りなく短くなり、結局、最後は露と消える。高原価率を謳うサプライズ業態も、円安原材料費高騰には勝てず、長続きするとも思えない。顧客は「価値あるもの」「意味あるもの」には消費を惜しまないが、カタチだけの流行りものには目を向けなくなる。企業側、店側はこれから、本物の価値や意味を顧客に提供していかなければ生き残れないのではないだろうか。欺瞞はもちろん、虚飾やオーバートークが通用する時代は終焉を迎えているということだ。2015年を迎えるいまは、そうした危機感を持たねばならない節目のような気がする。

では「本物の価値と意味」というのは、何だろうか?私は3年前から「価格から価値への転換」を訴えてきたが、いまやあらゆる飲食企業関係者が「価値だ」「価値だ」と叫んでいる。そんな人たちに「価値って何?」と聞くと、たいていの人は具体的に答えらない。「価値」といってもお皿のなかだけの話ではない。顧客からすれば、その店にわざわざ行くための絶対的、必然的理由を決めるのが「価値」である。オーナーの生き様、思想、シェフの腕、食材、料理のクオリティはもちろん、クリエイティブさ、サービススタッフのマインド、内装、音楽、客層、店や他の客とのコミュニケーション、あるいはその店にたどり着くまでのストーリーを含めて、すべてのコンテンツ、コンテクスト(文脈)が「価値」なのである。その「価値」を表す表現、キーワードとは何だろうか?

そんな疑問を抱いていたときに出会った店が下北沢の「salmon&trout」だった。知ったきっかけはシェフ・森枝幹さんのFacebookの投稿。彼は、こう書いていた。
「ノームコアという言葉。
とても気になる
無個性という個性
マスインディ
個性的な事が個性的でなくなった。
ベーシックであり続けることが逆に目立つ
ゴテゴテしてないシンプルさ、かつ個人を認識できる格好をしている方がカッコいいという考え方をもとにしたスタイル
シンプルだけど何かオーラがある人を追求するのがノームコア」
「ノームコア」については、私もこのコラムで書いたことがある。ファッション用語だが、確実に飲食のオーナーたちに浸透しつつあるカルチャー。「個」を極めることが「普通」になる。オーナーの生き様や趣味も含めたライフスタイル=個性が店づくりに投影される。それに共感、共鳴した客がサポーターやリピーターになる。そんなイメージだ。

森枝さんの投稿を見て、すぐ予約を入れて店を訪ねた。
料理はすべてお任せ。ファーマーズマーケットの仕事もやっている森枝さんが選ぶ食材は間違いない。生産者の顔がどうのこうのは関係ない。出てくるお皿はとてもクリエイティブ。一品一品にこれまたお任せのドリンクがペアリングで出てくる。スタートはクラフトビール。白ワイン、シングルモルト、個性的な白ワイン、赤ワイン、そして最後に日本酒。食べながら飲みながら、カウンター越しに森枝さんとの会話が弾む。面白い。楽しい。居心地がいい。
「来年のキーワードをずっと考えているんですが、『ノームコア』もいいけど、他にないですかね?」と私。ライフスタイル系のトレンドを表す言葉が出てこない。そもそもライフスタイルという陳腐な言葉は使いたくないと思っていた。
すると、森枝さんがつぶやいた。
「『コンフォータブル』なんですが、ちょっと違うんですよね。『ボナファイド』がいまピタリとくるかな…」。
「コンフォータブル」は実は私もその日の朝に頭に浮かんでいたワードだった。しかし、何も言っていないことに気付いた。これはあまりもフィーリングに寄り過ぎる。

森枝さんから出た「ボナファイド」とは、ラテン語で「BONA-FIDE」と書く。意味は「誠実」「誠意」「善意」。地域に密着し、常に顧客とパートナーでいられること。ラテン的な緩さや楽しさ、ユーモアなどの感覚もある。ジャンルや格式(星など)、他人の評価(食べログや口コミ)にもこだわらず、自然体、等身大で客と向き合う。虚飾を廃し、当たり前のことを当たり前に。ただし、オーナーやシェフの好きなこと、やりたいことは自由にやる。それを客とともに楽しむ。そこでは客同士も自然な会話が生まれる。そんな居心地のいい(コンフォータブル)な空間をつくる。それが、「ボナファイド」だ。外食のホスピタリティの権威、力石寛夫さんは、ある会合でこう言っていた。
「もう、誰々のための『for』の時代ではない。これからは誰々とともに在る『with』の時代」。
この「with」も「ボナファイド」に通ずる。顧客のためとか、生産者のためとか、そういう意識は表に出さない。当たり前だからだ。「価値」をシェアしあう時代は、店も客も生産者もフラットでフレンドリーなパートナーだ。
2015年のキーワードは「ボナファイド」。飲食業界から、誠実、誠意、善意という言葉を発信し、その意味を深く掘り下げる年にしようではないか…。
 

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