インタビュー

米・サンフランシスコ発「DANDELION CHOCOLATE [ファクトリー&カフェ蔵前]」が上陸! クラフトムーブメントの仕掛人・堀淵清治氏へインタビュー

2015年2月、東京・清澄白河が新たなカルチャー発信地として注目の的となった。「ブルーボトルコーヒー」の上陸である。これを契機に「サードウェーブ」という言葉が、日本のコーヒー界を席巻したのは記憶に新しい。それからわずか1年。クラフトチョコレートで業界に革命をもたらした「DANDELION CHOCOLATE」(以下、「ダンデライオン」)が2月11日、東京・蔵前にオープンした。最近日本にやってきたコーヒーとチョコレートの人気店。実は、共通点が3つある。1つは、クラフトマンシップに貫かれた商品づくりをしていること。2つ目は、サンフランシスコ発であること。そして3つ目は、堀淵清治氏だ。サンフランシスコを拠点にプロデューサーとして活躍するこの男こそ、日本における「クラフトムーブメント」の仕掛人。ブルーボトルコーヒーとダンデライオンを日本に持ってきた人物だ。今回は同氏へのインタビューを通じて、日米クラフトの最前線を追った。


『DANDELION CHOCOLATE [ファクトリー&カフェ蔵前]』の全貌

―サンフランシスコの超人気店「ダンデライオン」を東京・蔵前にオープンするに至った経緯を教えてください。

2012年末、「ダンデライオン」1号店がDandelion-Chocolate-Logo-2サンフランシスコのミッション地区にオープンして以来、「面白い店ができた」と噂は聞いていたんです。翌年になって実際行ってみると、すごくかっこよかった。カカオ豆からチョコレートバーに成型されるまでのすべての工程が店内で行われている。“BEAN TO BAR”を目の前で見ることができる。非常に面白いと思いましたね。「どうしてもこれを日本に持っていきたい!」と思い立ち、すぐにCEOのトッド・マソニスさんとキャメロン・リングさんに直接話を聞きにいきました。当時は、創業から1年も経っていませんでしたし、「日本に出店する余裕なんてないよ」とあっさり断られましたが、3度、4度と通っているうちに仲良くなり、合弁事業として日本出店をすることを決断してくれました。2人とも、グローバルな展開は視野にあったし、もともと日本には非常に興味を持っていました。少量ですが、日本に輸出もしていましたし。やる以上はサンフランシスコと同じように店内で手作りするやり方でなければ日本でやる意味がない、と同じ思いを持つに至り、2015年1月ごろにジョイントベンチャーのアグリーメントを得て、同年5月、ダンデライオンの日本法人を設立しました。

 

—サンフランシスコのお店はチョコレート工場にカフェが併設されていると聞きました。蔵前のお店はどのような形態ですか。

IMG_46531階はファクトリーとカフェ。2階は事務所、カフェ、イベントスペースという構成です。イベントスペースでは週2、3回ワークショップを開催する予定です。例えば、“How to make chocolate?(=チョコレートはどうやって作るの?)”や“ABOUT BEAN TO BAR(ビーン・トゥ・バーとは?)”などをテーマーにした体験型イベントやファクトリー見学ツアーなどを予定しています。カフェスタッフとチョコレートメーカーの社員はサンフランシスコの本店で研修をさせています。蔵前のお店にも当分の間は 、ダンデライオンのチョコレートレシピをトッドと一緒に開発したパール・ウォンさんに入ってもらい、サンフランシスコ店のオリジナルのテイストを再現できるよう指導してもらっています。彼女はまさにBean to Barの伝道師。今も世界中のカカオ農園を飛び回っていますよ。
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―蔵前は旧国技館閉鎖後は倉庫街になっていましたよね。最近になって、おしゃれなカフェや家具店などが増えているエリアですが、ここを出店場所に選んだ理由を教えてください。

ダンデライオンはすでに世界的に有名なチョコレートショップです。強いブランド力と、ある程度の広さを要する「ファクトリー(工場)」という要素を東京で実現させるには、蔵前という場所は最適だと思いました。もともと城東エリアで探していたところ、今の一棟貸しのビルに出会ったんです。目の前には公園があって、子どもの遊ぶ声が聞こえてくる。一目惚れして即決しました。蔵前は職人やものづくりの文化が息づく街。「クラフト」という言葉が、ぴったりはまると感じています。

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―サンフランシスコの人気店を日本で出店するのに、どのようにローカライズされたんでしょうか。気をつけたポイントはありますか。

おもしろいモノ、ヒト、場所を見つけては、日米双方向で紹介するということが本当に楽しいのです。1975年からサンフランシスコに住み、日米を行き来する中で、日本とアメリカ両方のツボが分かっています。サンフランシスコのカルチャーの魅力が、どうすれば正しく伝わるかを考えながら、物件、デザイナー、PR会社などを選択し、スタッフを採用していきます。私が日本、特に東京に来て感じるのは、「すべてがかっこよすぎる」ということです。あまりにかっこよすぎて個性がない、と感じるのです。デザインだけ見ると、サンフランシスコのお店より優れたところが東京には数えきれないほどあります。しかし、私が考えるアメリカの良さというのは「オリジナルでイノベーティブであること」。誰にも真似できない、その人自身を表現した独創性。挑戦的に追求した革新性。それを下手にいじくりまわして変に日本化してしまっては台無しです。もとからそこにあったような、ナチュラルにその街に溶け込むような店作りを心がけています。ダンデライオンはIT起業家2人がつくったかなりイノベーティブで個性的なお店です。彼らの思想やセンスが店の隅々にまで表現されている。これを蔵前の雰囲気に合うように丁寧に移植するイメージですね。

 

クラフトビジネスに必要なのは新市場とシステム化

—ところで、昨今チョコレート界のキーワードとなっている「BEAN TO BAR」について教えてください。

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「BEAN TO BAR」(=カカオ豆からチョコレートバーまで)とは、産地のカカオ農家から直接豆を仕入れて、豆の選別から、焙煎、磨砕、調温、成型まで全て手作りでチョコレートバーを作ろうという動きです。基本的には「サードウェーブコーヒー」と同様のクラフトフードの流れですね。この「BEAN TO BAR」ムーブメントはアメリカで生まれました。2005年頃から小さいながらもそういった取り組みをしている人たちが全米各地に出現し始めました。日本でも、2013年頃から「BEAN TO BAR」の思想を標榜するお店が出来始めていますよね。間違いなく人々の意識が、大量生産大量消費型の社会から少量生産で地産地消、生産地や作り手を尊重する社会を大事にしようという方向に向かっています。2016年は日本における「BEAN TO BAR元年」になるでしょうね。

 

―素材への強いこだわりやすべてを手作りする、ということになるとどうしてもコストが嵩みますよね。生産規模も限られます。大手メーカーに負けずに、国内外でビジネスとして展開できるのはどのようにお考えですか?

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ダンデライオンは、従来の弱肉強食のチョコレート市場で戦うのではなく、「クラフトチョコレート」という新たな市場を創出しました。そのフロントランナーであり続ければ、マーケット全体を牽引していけます。彼らは、契約しているカカオ農園の情報、豆の購入価格、 独自に開発した製造機械、製法など、すべてをインターネットで情報公開しています。それはクラフトチョコレートのマーケットを拡大することを目的としています。もちろん新規参入に負けないように、彼らは彼らでトップであり続ける努力をしています。例えば、豆の品質管理。彼らが作るのはシングルオリジンのチョコレート。1つのチョコレートバーに1種類のカカオ豆しか使用しないので、豆に対するこだわりが強いのは当然です。ですが、カカオ豆は農家の管理如何でまったく味が違ってきます。そのため彼らは「高品質な豆を出してくれたら、それに見合った適正な価格で買い取る」という契約を農家と結んでいます。また、発酵から乾燥・保管までの豆の管理方法をカカオ農家と一緒に開発しています。この仕入れルートは、彼らが地道に築き上げてきたカカオ豆農家との信頼関係の上に成り立っています。世界中に広がる深くて強固な農家とのネットワーク、これこそが彼らが持つ優位性の一つでしょう。もう一つは、緻密を極めたメソッドのシステム化です。豆の焙煎や「テンパリング」と呼ばれる職人的技術を必要とする工程がありますが、これさえも温度管理、作業時間など精密に算出し、システム化しています。それをドキュメンテーションにして公開しています。これもクラフトやスモールバッチ(=少量生産)を特徴とする彼らのビジネスが、国内外で競争力を保てる重要なポイントだと思います。もともとIT起業家だった彼ららしいやり方ですね。

 

 

食とシリコンバレーの新たな関係

—なるほど。サンフランシスコでは日本よりも飲食事業に投資が集まりやすいのでしょうか。

そうですね。とくにブルーボトルコーヒーがグーグルベンチャーズ等のシリコンバレーのベンチャーファンドから出資を受けた頃から、飲食産業への投資は急増傾向にあると感じています。彼らインベスターはこれまではIT系スタートアップ企業に熱をあげていましたが、現在は「食」などソフトコンテンツに投資するということが一種の流行りのようになってきている感じです。 サンフランシスコはシリコンバレーに近く、イノベーティブな空気感が充満しているというところもチャレンジングな飲食店を後押ししているのかもしれません。テック的な発想やアイデアがサンフランシスコの住民には当たり前のように受け入れられ、市民社会がその方向で成熟している感がありますね。サンフランシスコはアメリカでのフードトレンドの発信地でもあります。ダンデライオンもそのような環境の中で、生まれるべくして生まれたということでしょう。
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―今後は日本で店舗を増やしていく予定ですか。

まあ、人々に求められれば自然に増えていくのだろうと思います。東京でも出店は考えていますが、地方のほうが面白いかなあ。すごい田舎とか。最低の商圏条件がなければだめだけど。都会だけのものでは面白くないですよね。コミュニティと自然に溶け合ってなんだかずっと前からあったような店づくりをすることが理想です。そのためには、本質的なものでなければならないですよね。流行りものになってはダメだということです。ダンデライオンにはそれを実現する可能性があると思うんですよ。職人堅気を大事にするとか、こだわることに価値を見るとか、日本の気質にあってると思いますし。ダンデライオンやブルーボトルのような食文化にかかわらず、サンフランシスコで生まれる新しい文化は、日本の精神文化と共感し合うところがあると思います。その辺が面白くて、まだ僕の役目もあるのかもしれません。
(聞き手・文:望月みかこ)

 

■堀淵清治氏プロフィール
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NEW PEOPLE, Inc. 代表取締役社長。Dandelion Chocolate Japan株式会社 代表取締役社長。1952年生まれ。徳島県小松島市出身。早稲田大学法学部卒業後、渡米。カリフォルニア州立ヘイワード大学中退。その後、2年近く山にこもりヒッピー生活を送る。一時帰国した際、日本のマンガ『童夢』を読んで衝撃を受け、「日本のマンガがアメリカにあれば面白い」と着想。1986年、小学館の出資を受けVIZ Communications, Inc.を設立。以来、アメリカでのポケモンの大ヒットや、アメリカ版週刊少年ジャンプの刊行 など、日本のマンガ文化をアメリカに普及させてきた。2003年、小学館と集英社の合同出資を受けVIZ, LLCに、2005年、小プロエンターテイメントとの合併によりVIZ Media, LLCに社名変更。2009年からは、サンフランシスコのジャパンタウンに複合商業ビルNEW PEOPLEを立ち上げ、映画配給・制作、イベント、アパレルなどの事業を通じて、ジャパンカルチャーの発信を行う。経済誌ニューズウィーク(2006年10/ 18号)で『世界が尊敬する日本人100人』に選ばれる。著書に『萌えるアメリカ:米国人はいかにしてMANGAを読むようになったか』(日経BP社)。
NEW PEOPLE, Inc.  http://www.newpeopleworld.com

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