山手線の中ではどこかのどかな感じの田町だったが、大規模商業施設「msb(ムスブ)」が完成し、駅前の景色は一変。個性豊かな飲食店が集合し、食の一大マーケットとなりつつある。飲食フロア1階には特に個性的な店が集まったが、中でも出色の存在が2018年11月15日にオープンした「天使のハイボール」だ。運営は本家あべや(東京都新宿区、代表取締役:阿部一茂氏)。店舗は、壁のない開放的な造りでまるで屋台のようで、人が行き交う通路でひと際目を引いている。
九州産食材と焼酎で「蒸留酒バー」
店を立ち上げたのが小笠原伸也氏。出店の経緯についてたずねると、「20年前から東京で飲食店をやっている中で、従業員に自分の出身地にはこんなにいいものがあるなんて話を聞かされて盛り上がることも多く、じゃあそれを深堀してみよう。なんて活動がきっかけで各地の食材やお酒の生産地に赴き、生産者に会いという活動を続けていくなかで感銘を受けた中に鹿児島西酒造さんがありました。今回出店の機会を得た時に最初に思い出し相談をしてこの蒸留酒バーという発想に至りました。
熊本産新鮮「馬肉」が目玉商品
通路にカウンターを置き椅子を配置しただけという屋台のような店舗で、調理は切って盛る程度。炊飯は同フロアにある系列店のキッチンを利用する。このミニマルな造作のため、開店コストも最小限で済んだ。営業してみた感想は、「実は、不便はそれほど感じていません。「店づくりのときに足し算ばかりやると結構失敗しがちです。だから、“引き算”の店をやりたかったんです。引き算しまくった結果、一つひとつの良さが浮き彫りになる…まさに和食的考え方ですね」とのこと。そうしたコンセプトに適ったのが、「レバ刺し(馬)」。ツテもコネもゼロのところから人のつながりをたどり、仕入れルートを開拓した。その結果、問屋を通さずに希少な馬のレバーが手に入るようになった。
料理は、熊本直送馬肉料理が中心で、「赤身」(600円)、「霜降り」(1200円)などさまざまな部位を提供するが、主役は「レバ刺し」(1000円)。屠畜した日に肉となり急速冷却されるほどのスピード感により、鮮度を実現する。馬肉以外のメニューはアイスクリームやおむすびなどと、意外な顔ぶれだ。アイスクリームはおやつ感覚で食べてもいいし、「禁断のアイス×焼酎ちょっとかけ」という大人仕様の食べ方も提案する。「綾紫芋アイス×綾紫印(芋焼酎)」(600円)、「ベルギーチョコアイス×天使の誘惑(芋焼酎)」(600円)など全5種。おむすびは、鹿児島食材つながりで知覧茶とぬか漬け、味噌汁とセットにした「選べるおむすび定食」(630円)として提供。バー業態でありながら、右党にも訴求しているのだ。
飲みやすさで訴求する「焼酎ハイボール」
お酒はハイボールが中心。ウイスキーハイボールではなく、焼酎をベースにするのが特徴だ。「夕(seki)ハイボール」(500円)、「綾紫印ハイボール」(600円)など、手ごろなものから、「天使のハイボール」(900円)、「奥球磨ハイボール」(900円)などの長期熟成ハイボールまでがある。店名にもなった「天使のハイボール」は、店内のシェリー樽の香りが移り、芳醇な香りが炭酸の泡とともに立ち上る。日本酒やビールは最小限としている。
お客からは「焼酎ハイボールとは珍しいね」と言われることもあるが、「お酒に決まりはなく、自由に楽しんでほしい」「焼酎が苦手な人でもソーダ割りなら抵抗なく飲んでもらえるだろう」という思いからこのようにしている。その延長上に、消費者にお酒の生産者の思いを伝えるというゴールを据えた。現状、スペースの都合もあり、扱う酒蔵は7つ程度だが、姿勢に共感できる造り手のいるところだけに限定するつもりとか。「今は鹿児島中心で熊本や大分、それに八丈島の蔵元も扱いがありますが、宮崎や奄美はまだ訪問をしたことがないので置いていません。時期をみて宮崎や奄美に行って、いいお酒と出会いたいですね」と小笠原氏。優れたお酒の普及という使命を背負った同店の今後に注目したい。
店舗データ
店名 | 天使のハイボール |
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住所 | 東京都港区芝浦3-1-21 msb(ムスブ) Tamachi 田町ステーションタワーS 1F |
アクセス | JR田町駅より徒歩1分 |
電話 | 03-6809-5680 |
営業時間 | 11:00~23:30 |
定休日 | 年末年始 |
坪数客数 | 17席 2坪 |
客単価 | 400~3000円 |
運営会社 | 本家あべや |
オープン日 | 2018年11月15日 |