世界最大級の本の街・神保町。長くカレーの街と呼ばれてきたが、ゼロ年代からこだわりのワインバルやクラフトビール店などの出店が相次ぎ、さまざまなスタイルの飲食店がひしめくグルメの街として知られてきた。そんな神保町で2015年3月27日から営業してきた『美禄(びろく)』が、2017年8月21日、『神保町 LALALA酒場』としてリニューアル。以前の客層は、会食や接待利用の30代後半以降のオフィスワーカーが中心。客単価は5,000円だったが、今回のリニューアルでは、客層に幅を持たせるため20代を新たに呼び込むことを主眼に置いた。結果、料理のクオリティを保ったまま客単価は3,500円を実現し、好調に推移している。
オーナーはエーカンパニー(東京都中央区)代表取締役の新井篤司氏。これまで神保町、人形町、六本木、月島と、鮮魚料理と日本酒が楽しめる居酒屋業態をメインに展開してきた人物だ。新井氏は大学卒業後にコンサルタント会社へ就職し、食品工場を対象にしたコンサルタント業務に従事。見事に適性を発揮し、飲食店のオペレーション全般・動線効率の改善から生産管理・営業部門・事務部門のコンサルタントまで担うようになったが心機一転、飲食店を「経営する側」へ転身。『神保町 LALALA酒場』のあるあたりは、新井氏が学生時代から親しみ注目していた場所。2005年に現在のエーカンパニーを設立し店舗展開を進めるなかで「いつか店を出すならここ」と思っていた。
同店は、旧店舗時代からお酒は日本酒ひと筋。書店や出版社、商社などが点在し知的好奇心にあふれる人が多い土地柄、「全国各地のおいしい日本酒をいろいろ飲みたい」という声がたびたび聞かれた。常時20銘柄を常備し、オールタイム「グラス1杯500円均一」での提供を開始し好評を得たが、当初は1杯150cc。「飲み比べするので量は少なくてよい」という指摘が重なり、試行錯誤を経て1杯120ccに落ち着いた。日本酒のセレクトは日本全国の蔵元から試飲を重視して厳選しているが、店長の菊田光(こう)氏が仙台出身ということもあり、やや東北地方のものが多くなるのはご愛敬というところか。
提供する料理のコンセプトは、一貫して魚と日本酒。魚は全国の旬の天然地魚を中心とし、新井氏が「優れた目利きのできる人物」として信頼する築地の仲卸業者からも仕入れている。実は、板長と板前もこの築地の業者に紹介してもらったそう。実の兄弟である中園健一氏と輝男氏だ。中園兄弟は若いながらも正統派の和食を作り舌の肥えたお客にきちんと支持され、店長と力を合わせて店を切り盛りしている。大衆酒場なので「もつ煮」(480円)や2cmはあろうかという「厚切ハムカツ」(480円)のような庶民的なメニューが並ぶが、「お造り」(3種盛り780円、5種盛り1,080円)などに確かな職人の仕事を感じさせる。
店内のレイアウトも大きく変更した。旧店舗時代はテーブル席と個室でビジネス需要に応えてきたが、リニューアルに伴い新たにカウンター席を新設。厨房に面して横並びに席を設えるのではなく、コの字型に飛び出した変わった造りにした。コの字の中心にはもつ煮込みの鍋があり、大きなテーブルに座って鍋をみんなで囲んでいるようなアットホームさだ。お客同士の距離が近いため知らない人同士で会話が生まれたり、隣に座った客の料理を見ておいしそうだから自分も頼んでみる、といった思わぬ効果が見られる「ちょい飲みの1人客や、2~3名といった少数のグループにも使い勝手がいいようで、リピート率・回転率も上昇しています」とのこと。
「大衆酒場が好きなので、無理なく楽しみながらビジネスとして成功させたい」と語る新井氏。店名を書いたのれんの上方に「大衆酒場」と書いた袖看板を設置するなど、通りがかりの人への訴求力を高める趣向を凝らしたが、意外に効果があったのがカウンター席だった。「親しみやすさ」が自分の思い描く業態において成功のカギになると気づいた。今後は、料理は価格据え置きのままドレッシングなどまでオール無化調にすることなども考えながら、同店のサービスをブラッシュアップして、同様のスタイルの店舗展開を視野に入れていくつもりだという。
店舗データ
店名 | 神保町 LALALA酒場 |
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住所 | 東京都千代田区神田錦町3-16 |
アクセス | 都営三田線 神保町駅から徒歩3分 |
電話 | 03-5577-4565 |
営業時間 | 【月~土】17:00~23:00 |
定休日 | 日曜・祝日 |
坪数客数 | 27坪・50席 |
客単価 | 3500円 |
運営会社 | 有限会社A.company |
オープン日 | 2017年8月21日 |
関連リンク | 有限会社A.company(HP) |