昨年11月22日、中目黒駅の南北にのびる高架下が、飲食店など28店舗が出店する「中目黒高架下」として生まれ変わった。「NODOGUROYA KAKIEMON(のどぐろや かきえもん。以下、KAKIEMON)」だ。てっぺんから独立した内山正宏氏が率いるMUGEN(東京都目黒区)の新業態。宮城県内の4つの産地から直送される良質な牡蠣、高級魚のどぐろ、そして日本酒を柱に据えた立ち呑み業態だ。2006年、炉端居酒屋「なかめのてっぺん」(中目黒)で創業した同社(当時・幸せの力カンパニー)は、「はまぐり屋串左衛門」「築地もったいないプロジェクト 魚治」など都内中心に10店舗を展開する。創業10年目にして、11店舗目となる同店。これまでに築いてきた生産者ネットワークに加え、新たに宮城県漁協の協力を得て、高級食材をリーズナブルな立ち呑み価格で提供する。創業当時から食材に重きをおき、作り手との関係性を大切にしてきた同社だからこそできる高品質ながらリーズナブル、“ハイクオリティ・カジュアル”な酒場だ。
「漁場によって個性がある宮城の牡蠣が面白いと思った」と内山氏。親潮と黒潮がぶつかる三陸沖は、世界三大漁場の一つ。その海岸沿いには、たっぷり栄養を含んだ清流が山から流れ込むリアス式海岸が続き、牡蠣の養殖にも最高の環境だ。宮城県産牡蠣の全国シェアは1割ほどだが、漁場の違いを明確にして、宮城の牡蠣をブランディングしていきたい、と取り組む生産者たちに共感した氏は、出店が決まっていた新店の看板として打ち出すことを即断。各漁場からの仕入れを宮城県漁協に協力してもらい、一年中良質な三陸産の牡蠣を提供できる体制を築いた。
仕入れる漁場は、長面浦、万石浦、鳴瀬、唐桑の4カ所。3種類の生ガキを食べ比べる「牡蠣くらべ」(880円)をはじめ、「唐桑もまれ牡蠣フライ」(380円)や「牡蠣とほうれん草のクリームグラタン」(450円)、「牡蠣のなめろう」など、産地仕込みのレシピを盛り込んで提案。同店のもうひとつの柱、のどぐろは「のどぐろ煮付け」(980円)、「炙りのどぐろ棒鮨」(1貫280円)、「のどぐろの潮汁」(220円)を定番メニューに。日本酒とその肴の小鉢はセルフ形式で提供。「南三陸 蒸しほや」(380円)「自家製スモーク盛り合わせ」(580円)「かに味噌きゅうり」(380円)など、冷蔵庫に並ぶ小鉢を選んだり、特注の日本酒自動販売機からおちょこに注いだり、老舗の角打のような酒場の楽しみを体験させてくれる。日本酒は東北の酒蔵をメインに16種類程度を80ml、480円均一で提供。それに加えてボトル売りの四合瓶も多数揃える。
生産者と深い関係を築きながら、丁寧に店をつくりこんでいく姿勢は内山氏が最も大切にしている同社の核だ。今回も漁場を何度も訪れ、生産者と交渉を重ねた末にようやくたどり着いた出店だ。その過程が人から人へ、ストーリーと思いをつなぐ唯一の道だ。MUGENでは、田植えや漁への同行などを現場スタッフの研修として取り入れ、トップだけではなく全社をあげて積極的に産地との交流を深めている。その成果は、目に見えるものとしても表れているようだ。「うちの店舗でハッサクを使ったメニューが突出して売れているところがあるんです。そのハッサク農家を訪れたスタッフがおすすめしているみたいで」。普段何気なく扱っている食材も、その作り手を知れば愛着が湧く。その想いを知れば応援したくなる。そんな彼らの“おすすめ”は客の心を動かし、結果として店舗売上の増加にもつながっているようだ。
「僕たち飲食店の役割は、生産者とエンドユーザーであるお客さんとの良い接点を作ることだと思うようになりました。お客さんだけではなく、生産者にも喜んでもらえたら最高じゃないですか」と笑顔を見せる。日本の食材、作り手に敬意と感謝の気持ちを持って、“いただきます”と手を合わせる。「KAKIEMON」は、そんな当たり前のことを、食事やスタッフを通して思い出させてくれる。今後は生産者との関係をさらに深めながら、商業施設や海外への出店も計画中だ。日本の食を救うのは、こんなお店の小さな一歩からかもしれない。
店舗データ
店名 | NODOGUROYA KAKIEMON(のどぐろや かきえもん) |
---|---|
住所 | 東京都目黒区上目黒3-5-24 |
アクセス | 中目黒駅から徒歩2分 |
電話 | 03-6712-2077 |
営業時間 | 17:00~翌1:00 |
定休日 | なし |
坪数客数 | 16坪(個室6席以外スタンディング) |
客単価 | 2500円 |
運営会社 | 株式会社MUGEN |
関連リンク | NODOGUROYA KAKIEMON(FB) |
関連リンク | NODOGUROYA KAKIEMON(HP) |
関連リンク | MUGEN(HP) |
関連ページ | 築地もったいないプロジェクト魚治(記事) |