い志井グループの「日本再生酒場」やワルツが展開する「MARUGO(マルゴー)」、そして5月にオープンして話題沸騰中の「AGALICO(アガリコ)」など、多くの人気飲食店が密集する新宿三丁目。都内屈指の激戦区であるが、店の実力を試せるとあって、いずれ出店をしたいと考える飲食経営者も多い。そんな新宿三丁目の中心に近いエリアに、5月20日、関西から東京初進出を果たしたのが「龍の巣(りゅうのす)」だ。運営する龍ノ巣(大阪府大阪市、代表取締役 畑博貴氏)にとって、同店は10店舗目の展開となる。出店の経緯について、代表の畑氏は「新宿三丁目は、とても手強い土地だと考えています。しかし、私自身、挑戦することが大好きです。難しい状況にチャレンジするからこそ、組織も強くなるでしょう。今回、東京で物件を見つけるまで、5年ほどの時間がかかりました。だからこそ、出会えた縁を大切にして、新宿三丁目に受け入れられる店舗にしていきたいです」と話す。
畑氏の店作りのコンセプトは、「日常的に使ってもらえる店」であるという。そのため、大切にしている哲学がある。それが「挨拶なくして商売なし」だ。同氏は「近江商人の精神として、『三方よし』が有名ですが、私は『八方よし』の姿勢を大切にしています。八方は四方八方から来ていて、私の店舗を通して、従業員や業者の方をはじめ、周辺の店舗や地域全体まで含めて、満足してもらいたいという考え方です。利益を上げることは、もちろん飲食経営に欠かせません。しかし、その前にやるべきことがあると、私は思っています」と語る。その言葉通り、同氏は今回の出店に際して、200店舗近くの店に挨拶に回ったそうだ。営業時間を朝8時までにしたのも、周囲の店で働く人が、営業時間後に飲みに来られるように配慮したからである。こうした姿勢が、地域に受け入れられる店作りのベースになるとともに、同社の成長をも支えているのだろう。
そもそも畑氏の飲食人としてのキャリアは、レストランの揚場担当から始まった。その後、1998年に串カツの店を出して独立すると、2001年には、屠殺場から「かす」を仕入れる独自ルートを開拓して、かすうどんの店を誕生させる。そして、当時のノウハウを武器にして、2005年に誕生させたのが「龍の巣」だ。一号店の梅田店は、行列の絶えない爆発的な人気を獲得。同氏の経営手腕とマーケットのニーズもあって、10年あまりで10店舗体制に拡大するまでになった。現在、同社では、油かすを作る自社工場も保有している。工場の前には屠殺場があるので、かす作りに必要な原料だけでなく、新鮮なホルモンも直接仕入れることができるという。しっかりとしたネットワークと設備が整っているからこそ、安くて、高いクオリティのかすやホルモンを提供できるのだ。
「龍の巣」のキラーコンテンツは、何といっても焼肉ホルモンである。同店のメニューには、その日仕入れた新鮮ホルモンが一切れずつ入った「ホルモン8種盛合せ」(一人前 900円)をはじめ、「名物ホルモン」(480円)、「名物てっちゃん」(380円)など、ホルモン類は15種類以上揃う。また、肉屋直営の独自ルートを築いているからこそ提供できる「和牛タン刺し」(1200円)や「白せんまい刺し」(850円)、「こころ刺し」(680円)などもラインアップ。ほかにも、畑氏のキャリアが凝縮された「名物かすうどん・そば」(600円)や「白かすもつ鍋 (がら醤油)」(1200円)なども人気を集めている。
同店は、畑氏が店舗デザインを行い、オープン後も自ら厨房に立ち、調理や接客を行っている。時間帯によって客層が入れ替わり、近隣の人も多く利用しているそうだ。今後のビジョンについては、あえて長期的な事業計画などは立てないようにしていると話す。人と土地は水ものである。そのため、計画を立てると、それに縛られて帳尻合わせになり、納得のいくものを生み出せなくなるからだ。同氏も「たとえ誰かが実現が厳しいと言っても、自分がやりたいと思うことをやっていきます。だからこそ、自分がワクワクするか勉強になるエリアにしか、店舗の展開は考えていません。今、目の前にある状況に対応しながら、一緒に働くスタッフと共に成長していきたいですね」と語る。なお、次のワクワクするステージはどこかと尋ねると、“ニューヨーク”という答えが返ってきた。関西発の焼肉ホルモンが、東京をにぎわし、世界を驚かす日も近い。