代々木八幡駅は、新宿までわずか5分ながら、広い空と緑の木々に囲まれた代々木公園へも徒歩圏内。高級住宅地でありながらも、駅前には下町っぽさの一面もみせる八幡商店街が活気をみせる。長年愛されている老舗レストランや裏路地の名店、新鋭のビストロ、ベーカリーなど、多彩なグルメが集結する美食スポットとして注目の高まるエリアだ。ここに、DIY好きな20代のメンバーが中心となるワイン食堂「aux(オグジュアリー)」が昨年の12月20日にオープンした。元ガラス屋の倉庫を約3ヶ月かけてリノベーションしたという店は、もちろん全て彼らの手づくりだ。
店名の「aux」とは、音響機器についている外部入力端子のこと。「自分達がいいと思うモノを、面白いと思えるコトに変えて、それを面白いと思ったヒトがどんどん繋がっていく、増設されていくイメージです。ここに集まった人や知識を外部入力する店でありたいとの想いを込めて、音響機器についている外部入力端子“aux(オグジュアリー)”としました」とオーナーの小笠原大輝氏は話す。建築士の父を持つ小笠原氏は、小さな頃から人の手によるモノづくりが身近に存在していた。19歳のときにワーキングホリデー制度を利用し、カナダへ留学。ゆっくりと流れる時間や、自由に生きている人々の姿に感銘を受け、本当に自分のやりたいことへの方向性が見つかったと振り返る。同店のシェフとの出会いもカナダのジャパニーズレストラン。移民の国・カナダらしいMIXカルチャーの独創的な彼の料理に心を奪われたという。「日本でこのスタイルがやれたらかっこいい。いつか彼と一緒にお店をやりたい」と小笠原氏は心の中で思っていたのだった。
同店で提供される料理は、北米ベースのフュージョン料理。その特徴は、素材の良さを余すところなく生かすシンプルな料理をベースに、メニュー名から想像するイメージをいい意味で裏切る盛り付けにある。カリカリに焼き上げたワッフルの上に、なめらかな白鶏レバーをのせた「そば粉のワッフル 鶏レバームースのせ」(1200円)はスイーツのような見た目。シェフの故郷である鹿児島県東市木から朝引きして直送される黒薩摩鶏使用の「鹿児島県産地鶏のタルタル」(1200円)や、48時間低温調理して仕上げるUS産AAAランクのショートリブを贅沢にサンドした「牛カツサンド」(1580円)など。食材の良さを生かしつつ、ひと手間かけて、おいしさを最大限に引きだした料理は、繊細で、上品に、まるでアート作品かのように美しく、独創的に皿の上に盛り付けられている。また土地柄外国人客も多いことから、「刺身」を敢えて「Today’s SASHIMI」と表記して訴求しているのも面白い。料理に合わせるドリンクは、無農薬有機農法の葡萄で作った自然派ワインを中心に、ビール、日本酒、カクテル、コーヒーまで、自分たちが飲んでおいしく、ここへ来るお客に紹介したいと思うものだけを取り揃えている。もちろん料理に使う食材も自分たちが食べておいしいと思うものだけ。メニューに、“オーガニック”“有機”“無農薬”といった“安心安全”を謳う言葉は書かれていないが、スタッフは“どんな出所のものを使っているか”すぐに応えることができる。
「飲食マーケットは無限大だと考えています。商圏においては世界レベルです。競合することは考えず“そこにしかないモノ”を提供できることを醍醐味として、自分たちにとって面白いことを仕掛けて、ヒトとコトとモノを繋げていきたいです。今後は、作家さんの作品を店内に展示するコラボイベントや、お皿やカトラリーなどお店で提供しているままの状態でのケータリングを予定しています。飲食店舗の展開は3舗を目処に、お米をはじめ、ビールやワインづくり、ゲストハウスも自分たちの手でつくりたいとスタッフと話しています」と小笠原氏。ここへ来ると面白いことに出会えるからと、ついつい寄り道したくなるような場所にいつしかなることだろう。