日本酒の名店が数多くあることで知られる大塚。その地にまた新たに「29Rôtie」という1店が加わった。とはいえ、生粋の日本酒専門店ではない。「29Rôtie」は厳選こだわりの生ハム、サラミとタンドリー窯で焼く肉料理に熟成チーズと、日本酒とワイン、双方の醸造酒とのマリアージュを楽しむ店だ。しかし、同店最大の特徴は日本酒の新しい魅力、「燗酒とのマリアージュ」にある。 大胆で繊細な出会いを演出したのは、オーナーシェフの江澤雅俊氏。証券マンだった江澤氏はもともと好きだった料理の世界に将来を求め、調理学校でフランス料理を学んだという。卒業後は本場フランスへも渡り、帰国後は有名フレンチ店で修行した「王道のフレンチシェフ」なのだ。そんな彼が日本酒へ傾倒するのは、有名和食居酒屋の2号店、おでん業態立ち上げへ誘われたことから。和食はおろか、おでんを作った経験もない同氏はまったくの自己流でスタート。立ち上げにかかわるうちに江澤氏は日本酒、特に燗酒の深い味わいに魅せられたそうだ。そんな中、高品質なサルーミ(生ハム、ソーセージなどの食肉加工品)を専門とするショップ、「サルメリア69」との感動的な出会いが「29Rôtie」出店を決定づけたという。「燗酒の熱が生ハムの脂を溶かし、熟成した香りと一体化して旨味が口中に広がる。じんわりとした余韻は格別です」と美味しさの理由を説明する。 生ハムと熱燗の魅力があますことなく味わえる「29Rôtie」は大塚駅から歩くこと10分ほど。日本酒の名店が並び、昭和の雰囲気を残す通りにある。軒先に杉玉が下がる築40年以上の古い建物の同店は、一見すると小料理屋のようだ。店内は白黒モノトーンの和洋がミックスしたモダンアンティーク風仕上げになっている。 オンメニューの筆頭は「サルメリア69」の生ハム、サラミ類。切り立ての美味しさと共に、かたい塊を極薄くスライスすることで、旨味が際立つことから、塊で仕入れる。だから飲食店ではめずらしいスライサーを置き、「オーダーごとにカットする」というこだわりようだ。一般的によく知られている熟成したパルマ、プロシュート・ディ・サンダニエールやサラミ類、豚の脂の塩漬けを熟成したラルド、豚のホホ肉の生ハムグァンチャーレなど、その時々に仕入れる5種類ほどが常時揃う。おすすめはそれぞれの個性を一皿で味わえる2種類盛り(1000円)、3種類盛り(1500円)。そしてもう一つの名物はタンドリー窯でじっくりと焼く、仔羊、和牛もも肉、鶏(1500円~)。オーブン焼きとはまた違う肉の美味しさを実感する。熟成チーズのほかに、20種類近くある一品総菜から3品選べる、1000円の小つまみがある。また、長野から届く身体に優しい有機野菜も味わえる。 ドリンクは日本酒とワイン、ほかに数は少ないが焼酎、梅酒などを取り揃えている。日本酒は120ccグラス提供の冷酒が基本450円。「而今」、「佐久の花」、「陸奥八仙」などその時々で銘柄、タイプの異なる日本酒が7種類。燗酒は「辮天娘」、「竹鶴」、「天穏」など9銘柄。やはりその季節などでタイプも変わるが、純米、純米原酒、純米無ろ過生原酒など。しっかりと米を感じ、体にも優しい、自然派の造りにこだわっている。価格は750円~900円で提供は正一合となる。ワインはグラス(680円~850円)のほか、白を中心に泡、赤のボトルが13、4種類(3800円~)。日替わりのボトル半分量のデキャンタもある。生ハムを日本酒とワイン、それぞれと飲み比べるのもおもしろい。冷酒は肴だけで飲め、燗酒は料理ありきで、料理を引き立て、ゆっくりと長く飲めるという。そんな違いを楽しめるのも、フレンチ、日本の飲食文化、双方を知る江澤氏だからこそだ。「酒を温めて飲む日本独自の酒文化を外国人にも知ってほしい」と江澤氏はいうが、ぜひ若い世代にこそ、味わって欲しい名店である。
店舗データ
店名 | 29Rôtie(ニッキューロティ) |
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住所 | 東京都豊島区南大塚1-23-8-101 |
アクセス | JR大塚駅、巣鴨駅より徒歩12分 |
電話 | 03-6902-1294 |
営業時間 | 日〜火木 18:00〜24:00、金土18:00〜26:00 |
定休日 | 水 |
坪数客数 | 6坪・9席 |
客単価 | 5000円 |