都庁をはじめとした高層オフィスビルのお膝元である西新宿7丁目は、メガマーケットと言われる新宿にありながら、個性的な個店が集まる話題のレアエリアでもある。そんな、西新宿7丁目に今、注目される日本酒の新業態「兼ネル」がオープンした。濃紺のキャノピーに、透明なガラス張りの引き戸のファサード。シンプルな佇まいながら、懐かしい風情も残る飲食店通りのなかで静かなオーラーを放つ。ガラスの引き戸の向こうに見える、一升瓶が並ぶ日本酒の大きな冷蔵ケースと、無垢板のカウンターが印象的だ。
オーナーの伊東利宗氏は、いつか独立をと考えながら証券会社に6年、その後、青山のレストランを経て、荻窪の日本酒の老舗店「いちべい」で約3年に渡り本格的に日本酒との関わりを深めた。「いちべい」では「兼ネル」のコンセプトとなる「日本酒を楽しく飲むこと」を学び、体感したという。
日本酒専門店には専門知識も体験も豊富な日本酒ファンが多く、日本酒未体験者や初心者には少々敷居が高く感じられ、構えてしまうことも少なくない。「兼ネル」では、日本酒初心者でも気軽に楽しめるよう、伊東氏が常にお客様との軽快な会話を心がけている。初めての人でも楽しく飲めるよう、会話のなかから得るイメージや印象によって嗜好傾向を考えて、その人に合った銘柄をおすすめしてくれる。伊東氏の日本酒の特徴を表現する言葉もユニークで、力強い濃い味わいの日本酒なら“マッチョな体格、ゴリラのようなガタイ”の“おとこ酒”、“グラマラス、エレガント、スリム”系のしなやかな日本酒なら“おんな酒”というように、訪れる客を独特の表現で楽しませる。初心者のみならず日本酒ファンも、その独創的でユニークな表現に、飲む前からイマジネーションに期待が膨らむ。
「日本酒とは、個々の感性で楽しみ、親しむもの。ですので、飲む前から先入観を持ってしまうような、典型的、画一的な印象表現には頼らないようにしています」と同氏は語る。
日本酒は常時100本前後。基本は1銘柄において造りの異なるタイプ、1種類1本の扱いにてバリエーションを揃える。これは、日本酒のそれぞれの個性、味の違い、変化を楽しんでもらうためでもある。また、菊の里酒造の「大那」、磯自慢酒造の「磯自慢」、王祿酒造をはじめとした約10銘柄は、常時、造りの違うタイプを揃えている。日本酒は、グラス100cc で基本は600円、ちょっと贅沢なものは900円という価格帯にて、冷酒、燗酒、ロックや水割りと客が飲みやすい形で提供してくれる。もちろん、最初は冷酒で途中から燗酒に対応してくれる配慮もあり、自由なスタイルで、日本酒を楽しめるのもうれしいところだ。
アルコールは日本酒の他、生ビールと梅酒が1種類のみで、日本酒専門店らしい潔のよさだ。
一方料理の方は、日本酒との相性の良い酒肴と、手作り料理がラインナップされている。「ピータン」、日本酒を隠し味にした「自家製レバーパテ」、「焼きアボカドバター醤油焼き」、「海老ワンタン」などジャンルに囚われないオリジナリティー溢れるメニューが並ぶ。また、日本酒の銘柄別にオススメ料理を教えてくれるのもこの店ならではの趣向だ。例えば、「王祿」と相性のよいのは酸味が決め手の「トマトサラダ玉葱ドレッシング」など。料理の価格帯は500円を中心に300円~700円で、タパス的な感覚でさまざまな皿が楽しめる。
客が以前飲んだ銘柄や種類はほぼ覚えているという伊東氏。その絶妙なトークと斬新な日本酒提供スタイルは、客を喜ばせ、新しい日本酒の魅力発見へと繋げている。
「客と共に楽しむ“いい・かげん”な、日本酒スタイルがうちの店の流儀です。お客様にはスペインバルのように気軽さで、日本酒の杯をすすめてもらえたら…」と語る。
日本酒居酒屋でもなく、日本酒バーでもなく、“日本酒バル”という言葉がぴったりな同店は、日本酒を売りとする業態に新たな一石を投じる店となるだろう。
店舗データ
店名 | 日本酒 兼ネル(カネル) |
---|---|
住所 | 東京都新宿区西新宿7-19-21 厳島ビル101 |
アクセス | 地下鉄 西新宿駅より徒歩4分、JR・地下鉄各線 新宿駅より徒歩6分 |
電話 | 03-3368-6898 |
営業時間 | 17:30~23:30 |
定休日 | 日曜 |
坪数客数 | 10.5坪・18席 |
客単価 | 4000円 |
関連リンク | 日本酒 兼ネル ブログ |