恵比寿の超人気店「賛否両論」で、笠原将弘氏の一番弟子として5年間従事してきた中山幸三氏が、昨年末に独立し広尾に念願の店をオープンした。店名の「幸せ三昧」とは、幸三氏の「幸」と「三」を取って命名されたもの。「幸せ三昧」は、恵比寿駅から徒歩15分の駒沢通り沿いにある広尾高校すぐ近くという、決して良い立地とはいえない場所にありながらも、オープンから半年たらずで、メジャーな雑誌やメディアで頻繁に取り上げられる人気店として成長を遂げた。開店当初には、近隣にDMを配る程度で、目立ったPRもしなかったのだが……、「これは、ひとえに師匠笠原のネームバリューに尽きますね」と中山氏は謙遜気味に語る。同氏の経歴は非常にユニークで、もともとはグラフィックデザイナーとして広告業界で活躍していた。今から約7年前、中山氏は、笠原将弘氏の実家が経営していた焼き鳥の人気店「とり将」の客であったが、以前から「料理の道に進みたい」という夢があったため、デザイナーの仕事を捨てる覚悟を決め、「とり将」で当時切り盛りをしていた笠原氏に「ここで修行をさせてください!」と志願。笠原氏は一つ返事でそれを受け入れ、以来、二人三脚で「賛否両論」を立ち上げた。中山氏はそこでめきめきと料理の腕を上げ、店によく顔を出していた、恵比寿「なすび亭」の気鋭の料理人、吉岡英尋氏にもその腕を認められ、その頃、吉岡氏と笠原氏、そして「オステリア・ルッカ」の桝谷周一郎氏、「タツヤ・カワゴエ」の川越達也氏の4人によって計画された恵比寿「こんや」でも、半年間厨房を任されたという。中山氏は、こうした大物料理人たちの後押しもあって、実に7年足らずの料理歴で自分の店を持つことに至ったのだが、それは、もともとの料理の素質とセンスがあったからこそといえるだろう。「幸せ三昧」のメニューは、「賛否両論」の流れを汲んだおまかせコース1本で、値段は4000円。前菜2品、お椀、揚げ物、お造り、焼き物、蒸し物、〆のご飯、デザートと、全8品の料理は、毎朝欠かさず中山氏自らが築地に出向いて仕入れる上質な素材によって、一皿一皿丁寧に仕事が成されている。一品の料理には、魚や野菜を始めとしたさまざまな食材が盛り込まれ、前菜の小皿料理ひとつとっても大変な完成度だ。このすべてが4000円で堪能できるというのはかなりのお値打ち。中山氏は、もともとこの店を「正統派の和食フルコースを、居酒屋感覚で楽しんでもらう」趣向にしたかったという。お酒のセレクションも、焼酎、日本酒、ワインと幅広く、約20種類のボトルワインは4000円~6000円が主流で、料理と合わせて気軽に飲める銘柄となっている。ディナータイムの忙しさが落ち着く21時以降には、なじみの客が、酒をメインに、その日のコースから酒の肴として2~3品だけ作ってもらう光景もよく見かける。12坪の清潔感溢れるシンプルな店内には、一枚板の大きなカウンター席が設えられ、席の前には厨房の全てが見渡せるオープンキッチンが広がる。目の前で作ったものを熱々のうちに客がすぐに味わえるよう、オープンキッチンにはこだわったという。中山氏自身、「人が集まり、飲み、笑いが絶えない飲食店という空間が大好き」というだけに、この店にも、そんな想いが込められている。「原価率が50%を超えることもありますが、まずはお客様に“幸せ”になってもらうことが一番」と中山氏。師匠の名前が大きいだけに、常に比較されてしまう中で、自分のオリジナリティーをより一層、いかに打ち出していくかが、今後の課題だという。
店舗データ
店名 | 幸せ三昧 |
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住所 | 東京都渋谷区東4-8-1 |
アクセス | JR・地下鉄恵比寿駅より徒歩15分 |
電話 | 03-3797-6556 |
営業時間 | 18:00~24:00(L.O.23:00) |
定休日 | 日・祝 |
坪数客数 | 12坪・17席(カウンター7席・テーブル10席) |
客単価 | 6000円前後 |