リノベーションの極致として数々の建築誌で取り上げられてきた1959年築の住宅「上小沢邸」が昨年、レストランとして生まれ変わり、静かなブームを巻き起こしている。 「上小沢邸」は、白金台駅から徒歩8分の閑静な住宅地に位置。1958年当時、住宅の新築を予定していた上小沢夫妻が、女性誌に掲載されていた広瀬氏の作品に惚れ込み、設計を依頼。1959年に施行し、「物はたくさん持たず、不必要なものはどんどん捨てていく」というライフスタイルに見事にマッチした空間を創り上げた。その後、JIN建築設計事務所の神保哲夫氏が継続的な改修を開始。「本当に必要なものは」という一つの問いに絞って築かれた日本が誇る超シンプル建築だ。 建築関係者を魅了して止まないこの住居が、フラジール(品川区、代表取締役 岩子航氏)の手によって昨年、レストランとして新スタートを切った。美しい佇まいはそのままに、531平米という広大な敷地に席数はわずか26席という贅沢さ。奥の別邸は、12人で利用可能な畳敷きの茶室となっており、接待や家族利用など、ハレの場に使われている。以前は住居であったため、中が見られるようになったこの機会に是非と、建築ファンを始め近所の住人なども殺到。オープン数ヶ月にしてリピーターが定着し、現在は、常連と紹介が約8割を占める。営業は17~24時と夜のみ。客単価は10,000円。 料理は、元帝国ホテルのシェフが“牛肉”を主役にアレンジを効かせる。大半の客が注文する人気のコース7,800円は、前菜、造り、野菜、一品、中皿、焼きもの、メイン、甘味と全8品。きめが細かくて柔らかな肉質、とろけるような舌ざわりの近江牛を、お刺身、ボロネーズソース、ローストビーフ、しゃぶしゃぶと、ソースや調理法を変え、多彩な味わいで提供する。しゃぶしゃぶの〆は、パスタ。フィットチーネを軽く牛テールスープで茹で、トマトソース、大葉のジェノベーゼ、チーズと絡めて食す。旨味たっぷり、濃厚な味わいで、ワインとの相性も抜群。ワインは、フランス・イタリア産を中心に、グラス900円から(赤・白・ロゼ各2種)、ボトルは4,800円から。ほか、ビール700円、焼酎600円、日本酒1,000円など揃う。料理は、コースのほか、アラカルト800円からでのオーダーも可能。いずれにしろ、予約は必須である。 「叔父が愛したこの住居をリスペクトして訪れてくださるお客様が多く、大変嬉しいです。雰囲気を壊さないようにと、今回も施行はすべてJIN建築設計にお任せしました。静けさに満ちた空間で時間を忘れて寛ぐ。そんな非日常の時を感じて頂けたら幸いです」と、オーナーの岩子氏。「お料理も今後、プリフィックスを検討するなど、お客様のご意見を取り入れながら柔軟に改良していきます」と話す。建築物の知名度とコストパフォーマンスの高さに、高級住宅街という立地も重なり、既に、近隣に住まうかなりの数の著名人がリピーターとして名を連ねる。客単価10,000円と高めの設定ながら、この不況下、価格以外で、お客を引き込む付加価値を見事体現した名店である。
店舗データ
店名 | 上小沢邸 |
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住所 | 東京都品川区上大崎1-12-7 |
電話 | 03-3445-6700 |
営業時間 | 17:00~24:00 |
定休日 | 月 |
坪数客数 | 531平米・26席 |
客単価 | 10,000円 |
運営会社 | 株式会社フラジール |