~前編はこちら~
ロボティクス、VR、これからの顧客管理
大山:3つめのテーマは「ロボティクス」です。狩野さんは、このあたりのことをすごく勉強されていますが、いかがですか。
狩野:かなり進んできている感じがしています。例えば、アメリカのレストランでは、チップ制の中でサービスマンがチップをもらってサービスに全力を注ぐということを残しながら、裏側の調理場では完全にロボティクス化されているようなケースが出てきています。日本でも大手企業さんがいろんな会社と提携して様々なロボットを開発している最中です。僕たちも事業計画の中にロボティクス化を入れていく必要があると考えています。僕の場合、ロボティクスともう一つは、ブロックチェーンですね。外食×ブロックチェーンは誰もやらなさそうなので、やってみたいと思っています。
大山:森田さんはロボティクスに関してはいかがですか。
森田:ロボティクスということではないですが、食をITにどう落としていくかということをやっています。各大学とともに研究し、食のデータを取っているメンバーがいます。
大山:森田さんのお店は、次のテーマである「顧客管理」においても膨大なお客様のリストがあると思いますが、どのような内容なのですか。
森田:10年分のお客様のリストがあります。僕はオートクチュールマーケティングというものを提案していて、お店に来てくれた顧客に限定することで、生活環境の変化なども加味したその人たちのスケジュールライフを追いかけるということをやっています。僕たちが出したメニューに対して、彼らがどう喜んだかというセンテンスを点数化することもしています。
大山:新井さんのところは、どうですか。
新井:僕らは顧客管理を、顧客との関係性を管理するという風に考えています。顧客を大きく分けると新規顧客と再来店顧客の2つになり、それぞれの関係性を管理することを販促として捉えています。例えば、再来店顧客であれば、満足販促。満足度が高ければまた来店してもらえ、その満足販促には料理やサービス、空間があります。その中でも一番大きいのは、やはり料理だと思うのですが、感覚心理学的に言うと、人間は24時間しか味の記憶ってできないんです。たとえ5万円のステーキを食べても、その味を24時間後には思い出せません。ただ、5万円のステーキを食べたという情報は記憶として残ります。ですから、味だけでなく、情報も一緒に売っていくということを常に意識しています。こうした点も踏まえて再来店顧客に対する満足販促、新規顧客に対する集客販促を行ない、それぞれが増えているか、減っているかはデータを取って管理し、その都度、新しいことをやっています。
商品は新規集客商品、顧客満足度が高い商品、オペレーションを削減できる商品、それ以外という形ですべてABテストを行なってデータを構築し、その中から選べるようにしています。
大山:宮野さんは顧客管理で何を重視されていますか。
宮野:いわゆるライフタイムバリュー(LTV)、顧客生涯価値です。うちの客単価は1400円くらいですが、アプリをダウンロードして一度購入してくれたお客様は、統計を取ると、その後も利用して合計で3万5000円くらいは使ってくれます。となると、アプリをダウンロードしてくれたお客様は、1500円のお客様ではなく、3万5000円のお客様ということになります。このようにLTV で捉えると、1500円を買ってもらうためにマーケティングコストをかけるのではなく、3万5000円に対して投資ができるので、もっと思いきったマーケティングができるようになります。また、離脱率と呼ばれるデータも重視しています。うちは90日間でデータを取っていて、その間に利用しなくなったお客様の離脱率は8%くらいなので、92%のお客様は3ヵ月の間に必ずもう一度利用してくれています。LTV や離脱率のデータを店の指標にすることで、売上のデータだけでは分かりづらい、お客様にファンになってもらうという本質的なところが見えやすくなります。
高橋:LTVは本当に重要ですね。アプリをやっている会社は、どこも確実にLTVを把握しています。
宮野:こういうリコメンドをしたら、これくらいLTDが上がった、あるいは下がった。だから、こういうことをしていこうという風に、何が正解で、何が失敗だったというのを早いペースで回すことができるのが、とにかく大きいと思います。
大山:森田さんはVRを取り入れていますが、そのお話も聞かせてください。
森田:近々(2月19日)、日本テレビでも放映されますが、日本で初めてVRと食を作ったのが僕になります。テクノロジー化していくという領域は別に悪いことではなくて、新しいことはいっぱいやってみて、ダメなものは淘汰すれば良いと考えています。その中でもVRを使って空間転送するというのは特に大事で、なぜなら食材にはストーリーが必要じゃないですか。例えば、大間のマグロですと言われて食べても、それが本当に大間のものなのか分かる人って少ない。VRで実際に漁をやっている映像を見て、「すごいなあ」と言いながら食べてもらうことで、そこが大きく変わってきます。先ほど新井さんが言ったように、味の記憶は24時間なんだと思います。でも、その24時間、すごく強烈に印象に残ることを僕たちは考えているので、VRはすごく面白いですよ。これから5Gが始まると、空間転送がイージーになります。VRで旅をすれば、わざわざ郊外に行く必要がなくなるかもしれない。そんな可能性も見据えて、僕たちはレストランでVRをやっています。
新鋭企業の組織論、地方創生の取り組み
大山:では、次は「組織論」、チームづくりです。新井さんは若手経営者ですが、講演で「絶対に潰れない飲食店経営組織論」をという興味深いお話されていました。そのポイントはどんなところにあるのですか。
新井:僕が独立した時も、先輩などが独立した時も、非常に困ることが多かったんです。なぜかというと、独立前に働いた飲食店で教わることってサービスや調理なわけです。でも、独立すると、それ以外に必要なことが非常に多いからです。独立した人はみんな、見よう見まねで数値管理も販促も採用も自分でやるわけですが、実際にはそれらを専門的に行っている会社があります。そして、僕は自分がどれだけ勉強しても、その道のプロにはかなわないと思っています。ですから、餅は餅屋で、僕は運営のみに特化し、財務、販促、採用、物件探しなどはすべて外部にやってもらっています。外部のプロたちと上手く連携しながらチームを作っている感じです。
大山:狩野さんはチームづくりに関して、どう考えていますか。
狩野:うちの場合は、非中央集権型で、EUみたいなものを目指している感じですね。店舗ごとに責任者がいるわけですが、その中で誰が一番偉いとかはなく、コミュニティーのような関係性になっています。ピラミッドみたいなものはまったく考えていなくて、各店舗のトップがすべてという形にしています。
大山:狩野さんは「地方創生」の取り組みもされていて、三軒茶屋でアンテナショップもやっています。その話も聞かせてください。
(和音人が運営する山形県河北氏のアンテナショップ「かほくらし」)
狩野:行政が始めたものではなく、商工会レベルで出したアンテナショップなので、成功すれば、全国的にもかなりインパクトがあるプロジェクトです。外食産業の地位向上は、上場とかだけではありません。いろんな産業から求められる存在になることも外食産業の地位向上だと僕は思っていて、その意味ではチャンスが来ているのかなと。外食の力を信じて頼りにしてもらっていることがありがたいです。熊本でも古民家再生プロジェクトを手掛けました。古民家と明治にできた駅の詰所をリノベーションしてフレンチレストランにしました。360度、見渡す限り大自然で、電車でもバスでも行きづらい場所ですが、他県からも車でお客様が来店し、連日、満席になっています。これだけ人を集めることができるのが食の魅力で、その力はすごいということを改めて実感しています。守りたい村だとか、守りたい景色だとか、守りたい人たちがいるというのが僕たちのプロジェクト。100人の村を守るために、廃校をワイナリーとオーベルジュの宿泊施設にして観光スポットにしていくというプロジェクトも走り出しているところです。
大山:「商品開発」についても聞きたいのですが、先ほど話に出た「博多金の蔵」のメニューは、「赤坂こみかん」の「名物にしたい‼コールスロー」を始め、今、博多で人気を集める店の名物商品が勢ぞろいしています。森さん、この商品開発の狙いはどういうところにあるのですか。
(博多の人気酒場「赤坂こみかん」の「名物にしたい‼コールスロー」)
森:僕がよく話すことなのですが、今のお客さんは舌が肥えているというよりも、頭が肥えていて、食べ物を食べるというよりも、情報を食べています。「博多金の蔵」のメニューは、博多の人気店の名物料理という情報を価値にしました。このセレクトショップ居酒屋をやるにあたって博多の飲食店の経営者たちに話したのは、今流行っていても、これからも流行る保証があるわけではないし、店舗だけしか販売ポイントがないのはリスクが大きい、これをきっかけに料理をキット化するノウハウを持って新しい販路を作っていた方がいいよ、ということです。料理をキット化すれば、お弁当でも売れるし、それこそ先ほどから話しに出ているデリバリーやゴーストレストランでも販売しやすくなります。
テクロジー時代の「人と店」の在り方
大山:テクロジーを始めとした未来型経営について話を聞いてきましたが、そうした中で「人」の重要性については、どのように考えていらっしゃいますか。
森田:僕の店では、スタッフたちがDNAを継ぐという形で店が増えてきたわけですが、そこはシステムではないですね。お客様が、森田が作った店に行くという気持ち。その気持ちを継ぐことが組織的には大事だったと思っています。
高橋:モバイルオーダーやデリバリーが増えてくると、飲食店は店や会社ごとの売上の格差が大きくなっていくと僕は思っていて、そうした中で、森田さんがおっしゃるように、しっかりとした理念があるかどうかが、すごく大事になっていくのではないでしょうか。それと、外食=不健康という変なレッテルのようなものがありますが、それを無くしてくれたお店に身体を預けるというようなニーズも、これからさらに大きくなっていくと思います。そうした理念や方向性がある店に、一極集中的に人が集まるということもありうるのではないでしょうか。
宮野:システムを使って店を良くしていくのは大事ですが、それは、使いさえすればいいということではありません。やはり、商品にしても、人にしても、元々、店に魅力がないと、テクノロジーを使ってもなかなか上手くいかない。テクノロジーが主ではありません。魅力のある店がもっと魅力的になるためにテクノロジーを活用していくということが大事だと思います。単に便利になるだけど、コンビニと変わらなくなってしまう。だから、無人レストランとかは、ちょっと違うのではないかと個人的には思っています。
森田:僕もそこは同じです。飲食店って顔が見えるじゃないですか。一日、これだけ「ありがとう」と言ってもらえるのって、他にないと思います。デジタルのやりとりであっても、メールで「ありがとうございます」って来るじゃないですか。そういう部分があって、テクノロジーを取り入れていくということだと思います。今はマッチングアプリで結婚する人もたくさんいる。結婚に比べれば、食のマッチングは簡単なので、飲食店のみなさんは、テクロジー化をもっとやった方がいいと思いますよ。
注目の海外動向、そしてSDGs
大山:現在の大事なテーマとしては「インバウンド・アウトバウンド」もあります。高橋さんは中国で話題のスーパー「フーマーフレッシュ」に行かれたそうですね。飲食店ではありませんが、海外の注目動向として、お話しを聞かせてください。
高橋:ご存じの方も多いかもしれませんが、決済アプリ「アリペイ」を手掛ける中国の大企業、アリババが展開しているのが「フーマーフレッシュ」です。アリババはアリペイで何が売れているのかというビッグデータを持っているので、それを元にした商品が並んでいます。では、なぜアリババがスーパーをやっているのかと言うと、前に生鮮食品の販売を手掛けたところ、信頼性がなくて売れなかったらしいのです。そこで、「フーマーフレッシュ」は、例えば大きな水槽を作って、生きている蟹などを直に触ることができるエンタメ性も取り入れています。それによって、こんなに新鮮なんだということが分かり、2回目以降はスーパーに来なくて、家から注文するという流れになっているのです。先ほども話に出ていたように、店舗が体験の場になっていて、日本でも同じような店の開発が進んでいるという話も聞いています。
大山:注目の動きですね。海外と言えば、宮野さんは10代の時からアメリカで暮らしていらっしゃいましたが、世界と日本の外食で特に違いを感じるのは、どんな点ですか。
宮野:日本は世界的に見ると、異業種から外食業界に入ってくるケースが、まだまだ少ない感じがします。もちろん、元々、外食の人間である我々の良さもあるとは思いますが、他業種から見て、外食業界は未来があるなと思ってもらえるようになっていくことも必要なのかなと。例えば、ITでバリバリ活躍している人が外食もやる。そういうことが、もっと当たり前になると、我々が今まで見えていなかったことが、見えてくるようになるかもしれません。
大山:「SDGs」も注目テーマです。狩野さんの店ではサステナブルシーフードを使っていますね。
狩野:はい、銚子の漁港から仕入れています。銚子は15年前くらいからサステナブルを始めたことで、海の豊かさが徐々に戻ってきていて、漁港のみなさんもそれを感じています。地球のパワーって、やっぱりすごくて、必ず生き返るんですね。僕たちが壊してきたものを治す力を地球は持っているので、それを手助けするために何ができるのかを考えながらやっていくことが大事だと思っています。
大山:森田さんは、サステナビリティについてはいかがですか。
森田:いろいろな取り組みがありますが、中でもフードロスは、僕たちに課せられた大事なテーマであると捉えています。地方に行けば食材はたくさんありますが、廃棄処分になっているものも多い。そうした中で、我々のグループでも、各市町村から食材を調達し、それを使いやすいパウチにしたものを必要な場所に届けるという取り組みを進めています。
大山:では最後に、みなさんの会社の展望について、一言ずつ、お願いします。
狩野:食の豊かさというのは、本当に日本の武器だと思っています。食の新たな価値を生み出し、その価値あるものを理解している人たちの中で経済圏を作っていく。そんなイメージのヴィジョンを持っています。
新井:自分の場合、日本の食をどうこうしていくということは、まだ身の丈に合っていないと思っていて、僕の近い将来の展望はシンプルです。タイ人が食べている現地と同じちゃんとしたタイ料理を、日本のみなさんに知ってもらう、少しでも多くの人に食べてもらうということをミッションにしています。その一環としてタイの作物を日本で生産することも始めています。
森田:小さな立ち食いの焼肉屋から始めて10年。おかげさまで多くのファンに恵まれ、やりたいことができるようになったのが、この10年です。これからの展望としては、テクノロジーを取り入れていくことも必要だと思っていますが、もう一つ、考えているのは未来の食です。日本の食というのは、先人の方達が種を残してくれたわけです。しかし、僕たちはそれを食い潰していて、本来ならもっと進化させていかなければならないはず。最終的には、例えば、スポイト一滴でホカホカの美味しいラーメンができれば素晴らしい。きっと、いつかはできるでしょう。そんな風に食の未来を見ています。
宮野:飲食で働いている人って、すごく面白くて魅力的な人がいっぱいいます。僕は、そういう人たちが、その良さをもっと出せる環境を作っていけたらいいなと思っています。一般的に、外食はどうしても「イケてない業界」と見られがち。外食を「イケてる業界」にしたいですね。
森:僕は20数兆円の外食だけに捉われず、100兆円の食の分野に向けて、もっと何かをやっていければと考えています。その中で大事になるのは、やはり「安心な食」。親が子供に安心して食べさせることができるものが、これからもますます求められます。ここにいらっしゃる若い経営者の人たちとも連携して、そうした安心な食の社会を作っていけたらいいですね。
高橋:今日はテクノロジーの話をしにきたわけですが、一方でこれからは「心の時代」になっていくような気がします。モノ消費からコト消費、さらにイミ消費へと移行していると言われるし、僕もそうなっていくべきだと思います。僕が飲食関係と携わったのは、SARAHを立ち上げた5年前。その時、強く思ったのは、飲食店はすごく熱い思いを持っている方が多いのに、それが上手く伝わっていないということです。デジタル化するのは効率だけが目的ではなくて、ネットや動画を使って思いを伝えることが、一つのゴールではないかと考えています。
大山:みなさん、本日はありがとうございました。