はじめに ~「イートグッド」とは何か?~
フードスタジアム編集長 佐藤こうぞう
こんにちは、フードスタジアム編集長の佐藤こうぞうです。今日は、約80名と大勢の方にお集まりいただき誠に有難うございます。
さて私は、昨年のちょうどいま頃に“イートグッド”という言葉に出会いまして、それからこの1年間「次はイートグッドだ!」と言い続けてきました。
最近では、「本当にそんな時代が来るのか?」といぶかしむ声もあり、オオカミ老人といわれてますが(笑)、今日はこの“イートグッド”をテーマにセミナーを開催させていただきます。
「食」を通じてイイコトをしよう!
“イートグッド”とは何か?まず私の方からこの言葉について少しだけ説明させていただきたいと思います。
これは読んで字の通り、“良い”を“食べよう”、そしてただ食べるだけじゃなく、食を通じて良いことを実践しようという非常にシンプルな考え方です。
その背景としては、昨今のオーガニックブームというものがあり、これは日本だけではなくむしろ世界的な潮流で、アメリカ、特に北米において盛り上がっています。
かつてのオーガニックブームとの違い、サスティナブルという考え方
最近のオーガニックブームは、かつての「マクロビ」や「ロハス」などのムーブメントと違い、一部の高所得者層による限定的な支持ではなく、一般的なごくふつうの生活者が良いものに価値を求めるというトレンドです。日本の飲食業界においても、ここ1,2年は“Farm to Table”をキーワードにした店が非常に増えていますよね。
つまり、健康に配慮するだけでなく、地球環境にやさしい持続可能な社会を作っていくというミッションに世界中の人々が共鳴して、その中でイートグッドという土壌が広がってきているといえます。ビジネスだけでなく、生き方そのものに基づいた考え方ということですね。
この流れを飲食業界、顧客という2つの軸から考えると、飲食業界では、大手チェーンに見られる大量生産・大量消費、いわゆる“効率主義”を求めることがだんだん行き詰まりをみせているように感じられます。
冷凍食品、加工食品、あるいは中国など諸外国からの輸入食品を筆頭とするローコストオペレーションと、それによるコストコントロールが、食の安心・安全を脅かすようになった。それに対して社会・顧客が反発しているということです。
いま、世の中のニーズは“価格重視”から“価値・体験重視”に移り変わってきている。こうした大きな転換期を迎えつつあるといえると思います。
ポートランドカルチャーに注目が集まる!
例えば北米の都市、ポートランドのカルチャーは、現在無視することのできない非常に大きなムーブメントになってきています。私も去年、飲食店オーナーさんと共に視察ツアーに行ってきました。
ポートランドでは、人口約60万の都市に、クラフトビールのブリュワリーが70軒もあり、さらにまだ増え続けているんです。“マスプロダクト(大量生産・大量販売)”から“クラフト(手作り)”へ、そういった文化が根付いてるし、“組織”よりも“個”、“競争”よりも“共存”を目指す社会でもある。クラフトや地産地消、サスティナブルを当然のこととして地域社会でみんなが実践しているんですね。こうした拡がりがポートランド圏内を超えてブルックリンへ派生し、日本にまで波及しているというのが世界の現状だと思います。
「イートグッド」生みの親
さて、“イートグッド”ということばの生みの親、それは株式会社エピエリという飲食企業の松浦清一郎氏と亜季夫人のお二人です。
彼らは2003年、「麹町カフェ」という4坪くらいのサンドイッチとコーヒーの店をオープンし、創業しました。もともと亜季夫人のご実家が山梨で畑をやっていて、無農薬・無化学肥料の野菜を使ったサンドイッチを作りました。それがオフィスに勤めるOLさんたちに大好評となり、お店を拡大せざるを得なくなった。そして2006年、同店を4倍の広さがある物件に移転しました。
2009年には自家製パンを使ったベーカリーカフェ「FACTORY」を市ヶ谷に、そして2012年にはワシントンでインスパイアを受け、チリビーンズと豆料理の専門店「Chilli Parlor9」を九段南にオープンしています。
我々フードスタジアムが取材したのは、2015年の3月浅草にオープンした「SUKE6 DINER」、「Manufacture」という1,2階立ての店舗です。こちらも非常に繁盛していて、オープンから夕方くらいまでずっと回転しています。お弁当やケータリングなども好評で、一日600食くらい出ています。
一号店の麹町カフェを筆頭に、系列店のコンセプトはいずれも“季節の食材をシンプルに。できるだけていねいに自分たちでつくること。”というもの。調味料に至るまで可能な限り手作りをし、お客側にとってはここで食べると体がよくなる、そして毎日来たくなるという良循環を生んでいます。
イートグッドのために
エピエリさんのHPに挙げられている“イートグッド”の信条をいくつか挙げていくと、
・丹精込めて作られた生産者の方、そして物事の背景を想像する。
・おいしい一皿への出発地点となる食材に対して感謝の心を持つ。
・素材を大切に扱い、素材そのものが活かされる調理方法、プレゼンテーションをもって料理を提供する
・料理を最もおいしく食べていただけるよう、フレッシュなうちに、熱いうちに、冷たいうちに提供する。
・家族や友人、大切な人に食べてほしいと思える料理を提供する。
などと、実にシンプルです。本当であれば当たり前のことですね。これが、エピエリさんの考える“イートグッド”ということです。
実は今回、ご夫妻に登壇していただこうとお願いしたんですが、彼ら曰く、「我々にとってイートグッドとは、あくまで社内で共有する理念であり、お客様に対する想いであって、世の中に対して提唱していくようなものではない」とのことでお断りを受けました。それではもったいない!ということで、私がお二人に代わって世の中に対して提唱してもいいですか?と伺い、最終的に許可をいただいた次第です。
結論とこれからの展望
結論ですが、“イートグッド”とは、業態などではなく、「食」に対する考え方である。理念であり、行動である。トレンドではなく、これからの時代、ビジネスモデルの軸であり根幹となりうる、そういう価値観であるということです。
飲食店を何のためにやっているのか。おそらく金儲けではないですよね。ミッションとかモラル、オーナーの在り方、これからはそういったことが問われる時代に入っていくし、この“イートグッド”という考え方が広がり、実践するお店が増えてくれば、飲食業界全体の価値と地位が向上してくるだろうと思います。今、多くの店が人手不足という問題の対応に追われていますが、前述したようなお店が増えてくれば、自然と共鳴が起き、若い人が集まってくる。私はそう信じています。
2016年はイートグッド元年
今、消費者の意識は価格や皿の上の美味しさから、食材の背景へと向かい出している。つまり生産者の顔や生産過程が見え、自分たちの身体だけでなく、自然環境の持続可能性にまで配慮した「食」を求め出しているということです。
この流れは、特に欧米で顕著ではありますが、日本の飲食マーケットにおいても今年からさらに重要性が高まってくるだろうと思われます。
そこで、次の通りこうした考えを実践している飲食店オーナーさんを紹介していきます。
立川・吉祥寺エリアに「Boulangerie Bistro EPEE」など地域密着型飲食店を多店舗展開するMOTHERSの保村良豪さん。
そしてALLFARMの古森啓介さんとBRAVAS相原希さん。このお二人には後程講演をしていただきます。
そして最近“居酒屋価格でオーガニック料理を提供”をコンセプトとする「SANCHA TEPPEN ORGANIC 85BAL」をオープンしたツイテルカンパニーの舟木雅彦さん。
南青山や横浜で「南青山野菜基地」を展開する野菜基地の中通寛記さん。今、国内の飲食シーンでもこうした若手オーナーが続々と台頭しています。
ということで、最後にエピエリさんの言葉で私のイートグッドとは何か?という話を最後としたいと思います。
「生産者、食材、お客様、コミュニティー、そしてエピエリのスタッフ―。
テーブルを囲む全ての人と物が、幸せであること。
それがエピエリの考える最高のテーブルです」。
ご清聴、有難うございました。
(拍手)
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若手経営者によるプレゼンスピーチ
1.株式会社ALL FARM 代表取締役 古森啓介氏
1987年6月大阪府生まれ。京都の創作和食店でのアルバイトをきっかけに、飲食の道へ。都内の和食店や鉄板焼き店などで修行を積んだ後、独立すると同時に千葉県佐倉市で農業を開始。2014年、代々木上原に「WE ARE THE FARM」をオープンさせる。現在、FC店舗を含め都内3店舗を展開
皆さんこんにちは、ALL FARMの古森と申します。まだまだ駆け出しの身ではあるのですが、僭越ながら今日はお話させていただきます。よろしくお願い致します。
僕は大阪で生まれて19歳で上京し、主に和食を中心とした料理人をしていました。その後、千葉の佐倉で2013年5月より農業を開始しまして、2014年6月に自社の野菜を使ったオーガニックレストラン「WE ARE THE FARM」を代々木上原にオープンしました。
この店と恵比寿の2号店は客単価5千円くらいのお店なんですが、今年1月、東銀座にオープンした「STAND BY FARM」という店は、より多くの方に召しあがっていただけるようにということで客単価を3千円くらいに落としまして、机なども手作りして、アットホームな雰囲気を演出しています。
「食」へのこだわり
僕らの店は、「身土不二」と「一物全体食」という、マクロビから派生した言葉をコンセプトにしています。
「身土不二」というのは、身体と環境は切っても切り離せないということばでして、自分が暮らす土地の風土や気候に沿った物を食べることが身体にもいいのではないかという考えです。
また、「一物全体食」は、例えば野菜が養分を吸い上げる根、全体を支える茎、太陽の光で光合成する葉、子孫を残す実など、それぞれのパートが独自の役割を持っているように、食物をまるごと全部食べることで、我々の身体も強くなるんではないかという考えです。
僕達はこうしたことをベースに、できる限りこの2つのコンセプトに沿った料理を提供しようと、日々各店舗で自社農園産の野菜を料理しております。
在来農場の野菜作り
僕らの畑は、「無農薬無化学肥料」、「固定種」、「露地栽培」、「多品目」ということにこだわって栽培しております。この中で、農薬とは何ぞや?という話については、かなり多くの方がご存知なのではないかと思うので、今回は固定種というポイントについてお話させていただけたらと思います。
いま、スーパーや市場で出回っている野菜は、ほぼ全てF1種という種から作られた野菜です。このF1種というのは、人工交配されて品種改良のうえに作られた一代限りの種なんです。
それに対し、固定種というのは、昔から種を取り続けて親から子、子から孫へと命を繋いできた、そしてそれによって環境に適して生き延びてきた種のことを言います。僕らにはこの固定種を守っていきたいという想いがあって、そこにこだわった野菜を作っています。先ほどこうぞうさんのお話にもあったんですが、大量消費・大量生産の時代に移り変わっていくにつれて、固定種の種はだんだん作られなくなっていきました。遺伝子が組み替えられたり、品種改良された種が主流になるというのは、日本の野菜市場が流通に適した野菜ばかりに変わっていっているということじゃないかと僕は思うんですね。
F1種と固定種、どっちが悪いという話ではないんですが、昔の野菜づくりの基準は主においしいかおいしくないかだったのが、今は売りやすいということを大きな基準にしているんではないか。
例えばですね、小松菜で言うと、おそらく大半の方が知っている今の小松菜は、本当の小松菜ではないんです。あれはチンゲン菜と掛け合わせて作られた全く別の野菜でして、昔は、江戸の伝統野菜でもあった「丸葉小松菜」というのが主流だったんです。この丸葉小松菜は、葉っぱの味はとてもおいしいんですが、茎が折れやすく売り物にならないという理由でだんだん作られなくなりました。
それから、キュウリ。ブルームといわれる昔からのキュウリは、乾燥から身を守るために白い粉を付けるんですが、この粉が、まるで農薬が付いているように見えるという理由で、現在ではブルームレスキュウリの方が主流になっています。今スーパーで出まわっているキュウリはほぼブルームレスキュウリです。
キュウリはまた規格の問題もあるんですが、現在、キュウリの規格は長さ22センチ、直径が1.5センチと決められているんですけども、何でこういう基準になったのか。どなたかご存知の方はいらっしゃいますか?
実は、海苔巻きの海苔の長さが22センチなんですね。これより1センチでも短かったり曲がっていたら売り物にならないということで、全部捨てられます。採れたて、メチャクチャおいしいんですけどね。
なので、キュウリ農家は、お母ちゃんとか嫁はんが、夜な夜なキュウリを伸ばしているんですよ。全員とは言いませんが、多くの農家では実際こういう気の遠くなるような作業をしているのが現実です。
あと僕らが作っている野菜の中に山科ナスというナスがあるんですが、皮が薄くて実が柔らかく、加熱するととろけるようにおいしいんです。けれどこのナスも、傷付きやすい、傷みやすいので流通にあわない、そういう理由で作られなくなっています。
それから三浦大根。皆さんご存知だと思うんですけども、今出てる三浦大根は、ほぼすべてF1種の三浦大根です。もともとの固定種の三浦大根は、どんな達人が作っても形が揃わない、引っこ抜きにくい、段ボールに入らない、そんな理由で作られなくなりました。こうしたしょうもない理由で作られなくなった野菜が本当に沢山あるんです。
今、僕達の畑では大根の葉っぱが人間の背丈くらいになっています。大根は、なにも人間に食べてもらおうと思って土の養分を葉に集めていくわけではなくて、寒い時期に凍らないように、自分の糖度を徐々に高めていくんですよ。そして春になったら貯めた栄養分を一気に使ってトウダチして花を咲かせるんです。数え切れないほど付いた種のうちのひとつが、次の年の一本の大根になる。そういう風にして次の命をつないでいるんです。僕らは、そういう命をいただいているということだと思います。
飲食店と農業の関係
大根の話ばっかりになるんですけども(笑)、今年、暖冬で大根の値段が大暴落しましたよね。飲食店側からすると、安くて喜ぶ気持ちのほうが強いと思うんですが、畑ではどんなことになっていたか。こんな場合、農家は出荷すればするほど赤字になるので、引っこ抜いてそのまま捨てているんです。丹精込めて作った大根が畑に山積みになって捨てられている。けれど、僕ら飲食店側は「安い」と喜んでるだけ。これは本当にお互いのためになるのでしょうか。
もし、飲食店側に大根豊作の情報が回ってきていたとしたら、「沢山採れたんだったらお客さんに沢山食べてもらおう」とか、何かそういう働きかけができたんじゃないか。巷では自給率自給率とよくいわれますけども、僕はいったい誰の仕事やねんと感じます。農家では実際野菜が溢れているんです。けど、売れないから困っている。そうした現状を抱えた生産現場の未来を、外食産業に関わる僕らは担っていると思います。
国産野菜の消費率は一般家庭が3割、外食・中食・飲食・加工が7割です。僕らが変わったら、何かが変わるかもしれない。まだまだ駆け出しの僕らですけど、いま自社のフードで自給率が90%くらいあるので、このまま頑張ったらこうした数字を1%でも変えていけるんじゃないかと思ったりもしています。
もちろん、利益が大切なのは僕でもわかります。けど、安いものの裏では必ず誰かが泣いている。僕には、安かったらええんかという気持ちがあるんです。利益を確保するために外国産の野菜を買う必要性ももちろん理解しているんですが、それが本当にお互いのためになっていくのかと、農家だけ損して外食だけが儲かる状態でいいのかと思うんです。もちろん、逆もまた違うと思います。
こうした理由で、僕らは全部一からやろうと決意しました。全部一からやって、どれだけこの産業に関わる人が誇りを持って生きていけるか、形やパフォーマンスだけではなく、6次化ということにどれだけ本気でチャレンジできるか。そういう想いで創業しました。
今後の展開
最後に僕達の今後の展開なんですけれども、3月9日、西武池袋本店の地下1F 食品フロアに「KALE FARM」というケールを主軸としたお惣菜店を出店します。現状で確定している出店はこちらのみなんですが、いまの我々は種まきの時期だと思ってますので、今後も第一次産業をベースとしたインキュベーションをコツコツと進めて事業を育てていき、もし失敗したら、また一から開墾すればいいかなと思っております。
まだまだ駆け出しの身ですので、これからも皆様ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。有難うございました。
(拍手)
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若手経営者によるプレゼンスピーチ
2.株式会社BRAVAS 代表取締役 相原希氏
神奈川県横浜市出身。25歳で外食チェーン大手のレインズ・インターナショナルに入社。 フランチャイズ加盟店のコンサルティング営業から、直営店マネジメントを経て最年少の30歳で事業本部長へ。 その後「土間土間」のブランディング全般を担当。2014年1月にレインズインターナショナルを退職し、2014年8月株式会社BRAVASを創業、現在に至る。座右の銘「想いは手法の上流にあり」
皆さん初めまして、相原と申します。今日は外食の先輩方の前で非常に僭越ではございますが、自分の想いをお話させていただければと思います、宜しくお願い致します。
まず自己紹介なんですが、僕は2004年にレインズという会社に就職し、10年間「土間土間」という業態で外食産業というものを勉強してきました。最初は一店舗のチーフという立場から、その後5年間で全国300店舗のトップを経験させていただき、残りの5年間を本部長という立場でマネジメントなどをやらせていただきました。
そして2014年にレインズを退職して、8月に創業し、10月に1店舗目「BIODYNAMIE」を新宿にオープンさせ、昨年末までで8店舗体制という現状です。今後、3月は横浜に、4月は三軒茶屋と博多の天神に、5月は下高井戸、南越谷にオープンさせていく予定です。有難いことにお客様にご支持をいただいた結果、ここまで順調に展開を続けてこれたという状況です。
外食のクールジャパンを目指す
僕は起業した時に“外食のクールジャパン”ということを自分の中でテーマにしてまして、「ほんとうにかっこいい日本って何なのかな?」ということを自分なりに実践しているつもりです。今後、自分が外食で提供していきたい価値というのは、“体の中から綺麗で元気”をキーワードに、日常的に使える場を提供するということです。
先ほどこうぞうさんのお話にもありましたが、かつて“オーガニック”というと、自分にもハイソサエティな人たちが食べるものというイメージがありました。実際いいものを食べようとすると値も張ります。そういった食事を誰もが手軽に食べられるような環境を、自分自身で作っていきたいということを僕は考えています。
震災をきっかけに大手チェーンを退職
僕が本部長まで昇格したにもかかわらずレインズを辞めようと思ったのは、2011年の震災がきっかけです。当時は日本中が“飲みに行くのなんてすごく不謹慎”という時代に突入し、僕らを含め、大手チェーンが展開する大きな箱は軒並み苦戦していました。そんななか、当時すごく繁盛していると聞いたお店があれば、僕は何軒も見て回ったんです。
こうした非常時ともいえる状況で、一人勝ちしているお店の全部に共通していたのが、“人同士の近い距離感やぬくもりを感じられる”ということでした。その時、「やっぱり人間というのは、人の温かさに集まっていくものなんだなぁ」と強く実感しました。
同時に被災地にも数年間足を運び、ボランティア活動をしていたんですが、一番衝撃的だったのが、某チェーン店さんが石巻に出店するというニュースでした。当時の石巻は正直本当に何もない状態。「なんでだ?」と、「あんな何もないところに一体誰が来るんだ!?」と思っていました。しかし、そのチェーン店さんや他のお店を通してだんだん人々が集まり、徐々に街が復興していく様を目の当たりにして、本当にカッコいいな!と思ったんです。自分も、街づくりや世の中の活性化に挑戦したいと強く思い、2014年に起業しました。
女性が必要とするものを身近に提供する
実は起業当時ちょうど妻が妊娠していまして、「会社辞めないで」とかいろいろ言われたんですが(笑)、彼女はお腹の子供のためになるべく体にいいものを選んで採るようになっていきました。その姿を見ていて、僕は初めて無農薬野菜やオーガニック食品というのものが、いかに日常的に入手しづらい疎遠なものかということを実感しました。
今、少子化とか高齢化といったことが叫ばれていますが、これだけ女性が社会進出し、大きな影響力を持っているのにもかかわらず、多くの女性が必要としているものが世の中にはまだまだ少ない。こうした国内の現状は、今後大きく転換期を迎えていくんじゃないかと感じ、僕は思い切り振りきって「なるべく自分の子供や家族が食べられるものを提供しよう」と、自社のコンセプトを確定したんです。
僕自身、起業するまでは知らなかったのですが、いろいろと調べていくにつれ、“安心・安全”が謳われていた国産野菜に、2010年までは世界トップクラスの農薬が使われていたのだと知って、とてもショックを受けましたし、ご存知の通り日本の農家さんは高齢化が進み、どんどん軒数が減っている。TPPの問題もしかり、さらに今後はどんどん外国産の安い食品が入ってくる。日本の政策として“クールジャパン”が掲げられていますが、「日本は本当に大丈夫なのか!?」と、日本の第一次産業の将来に強く不安を感じました。
先ほど古森さんのスピーチにもありましたが、特に有機農家さんは皆さんホントに「一生懸命作っても販路がない」と言うんです。確かに、スーパーの特売品と比べればオーガニックのものは高いわけですが、そういうものを頑張って自分達が選んでいかないと、この日本の状況は変えられないんじゃないかと思い、僕達は頑張っている農家さんたちとタッグを組んでいこうと考えています。
利益・循環・共存共栄
実際弊社ではいま6つの有機農家さんと取引させていただいているんですが、皆さんすごくいい農家さんたちです。値段は高いですが、本当にいい方たちで、行くと「あんた元気なの?これ食べていきなさい」といつも沢山野菜を食べさせてくれます。
僕は自分の店を自分の家と同等に思っているので、こうした方々が自分の家族のことを考えて育てているような野菜、そういう想いの籠ったものを、高いことは高いのですが、自分のお店に来てくださるお客様に提供できるなんて、こんなに素晴らしいことはないなと思っています。
こうした農家さんというのは、種を買わないのでJAさんとの繋がりがなかったり、外食の皆さんに向けた販路がなかったりする。販路が広がれば、日本はまだまだ土地はあるので、生産量を増やして人を雇って循環していける可能性はある。なので、いかにこういう農家さんたちを自分側から見つけて、タッグを組んで、いいものをお客様にお届けできるかというのが、僕達の使命かなという風に考えています。
体にいいものを頑張って作って下さっている農家さんたちが泣くことのない世の中を作っていきたい。そういう努力を今後も頑張っていくつもりです。
もちろん儲けるということは大事なんですが、お互いに利益を出しながら循環していく共存共栄が自分のテーマです。店に来てくださるお客様が身体の中から綺麗になる。農家さんは沢山野菜が売れて生活が潤う。そして地域や街は活性化していく。こんな素晴らしいことをやっぱり外食は実現できるんだなという風に今は感じています。
今後の目標は、このビジネスモデルを首都圏だけで終わらせるのではなくて、北海道から沖縄まで土地土地の農家さんとタッグを組みながら全国に展開していくということです。当社では現在2種類のお店をやっているんですが、BIODYNAMIEというのはターゲットを働く女性、VANSANはファミリーとしていまして、今後は両店を全国に同時展開していきます。
オーガニック=自然との調和
最後に、僕のお店は「オーガニックイタリアンレストラン」を標榜しているんですが、この“オーガニック”というのは単なる有機農法というだけではなくて、とても奥の深い言葉なんです。その考え方が僕はすごく好きで、それこそがつまりは“イートグッド”だと認識しているのですが、要するに“オーガニック=自然との調和”ということなんです。人間が本来あるべき生き方とか、本当に素晴らしいものを後世に伝えていくことを含めて、この考え方を僕はこの先ずっと自分のテーマにしようと思い、“オーガニック”を掲げていくことを決めました。
現状、お店のメニュー全てがオーガニックかというと、100%は実現できていないです。なるべく使いたくないという想いはありますが、実際化学調味料も使っています。ただ、この先もブラッシュアップを続け、自分や家族に食べさせたいと思うものを、これからも胸を張って提供していこうと思っています。
今日は非常に簡単な話ではありましたが、ご清聴どうもありがとうございました。
(拍手)
(構成 中村結)