餃子酒場ブームを取り込む
餃子専門店「大阪王将 渋谷駅前店」
「食の大きなトレンドは機能性食品、クラフトビール、和食の3つにあります。この大きな流れに逆らうことはできません。現在、中華+和食の『餃子食堂』の開発に取り組んでいます。ラーメンも和食なのですが、和食系食堂であれば高齢者の来店も期待でき、親、子、孫の三世代や家族連れも集客でき、客層が広がります。新店舗は主に関東地方に展開したいと思っています」(文野)
文野は昨年12月末、東京・渋谷駅から徒歩3分の道玄坂に餃子専門店「大阪王将 渋谷駅前店」(1~2階47席、年中無休、24時間営業)を開店した。ここ2~3年の餃子酒場ブームを意識した、餃子バル風の店舗だ。餃子は看板商品の「元祖焼餃子(6個)東日本240円(税込)」「名物 鉄鍋餃子(12個)560円(同)」「海老餃子(5個)300円(同)」「大阪名物 生姜天水餃子(4個)380円(同)」(価格は15年3月末現在)など10種類のバリエーションを取り揃えた。
またアルコールメニューもビール、ハイボール、チューハイ、サワー、ワインなどを取り揃え、餃子をつまみに飲める店にした。
「現在、冷凍餃子もよく売れていて餃子及び餃子酒場ブームがやって来ています。餃子というのは人気商品であり、大体6~7年のサイクルでブームがやって来ます。けれども、餃子というのは素材も同じなら味も同じ。色々な創作餃子などを作っても味の差別化が難しく、2~3年もするとブームが終わる傾向があります。今のブームがいつまで続き、餃子酒場が定着するのかどうか。当社は夜だけ営業する餃子酒場のような店を志向するのではなく、ランチタイムにも使える店づくりを行なっています」(文野)
「大阪王将 渋谷駅前店」は餃子の味に特長を持たせてビールやハイボールがすすむようにした。一方、年中無休・24時間営業で人手の確保が大変になることが予想された。その場合、厨房のオペレーションを簡略化する必要もあり、既存店では重い中華鍋を使うが、「渋谷駅前店」では軽いフライパンに切り替え、作業が少しでも楽になるようにした。今後、使い勝手を見て新店舗でも導入する計画だという。
リモデルの継続が
「大阪王将」を強くする
筆者はこれまで、「日刊ゲンダイ」と「夕刊フジ」で文野に3回インタビューしてきた。今回の「フードスタジアム」のインタビューで4回目になる。前回、「夕刊フジ」でインタビューしたのは13年2月のことだった。文野は首都圏戦略を本格化させるために、本社機能を東京ヘッドオフィス(港区虎ノ門)に移し、役員全員を集結させた。
当時文野は坪単価3~4万円する首都圏立地でも採算の取れる「新二毛作業態」(昼は中華食堂、夜は中華居酒屋となる餃子専門店「大阪王将」)の開発に全力を傾けていた。11年12月には実験店舗の性格も併せ持った「大阪王将」飯田橋店をオープンした。飯田橋店はカジュアルで高級感を持たせた内装、アルコール類メニューとそれに合う料理メニューなども充実させ、客単価2000円以上を目指した。実現すれば賃料の高い東京・山手線内での路面店にも出店でき、比較的賃料の安い空中階や地階への出店も楽になる。
「けれども大阪王将というと餃子専門店、中華食堂のイメージが強く、客単価が2000円以上超すのはなかなか難しい。どうしても客単価1200~1300円程度で止まってしまうのです」
文野は「大阪王将 飯田橋店」での様々な実験的な試みを経て、都内に出店する「大阪王将」は収益構造、店舗デザイン、メニューなど異なる業態を採用するのだ。文野にいわせれば、「ゆらぎ(揺らぎ)の業態開発」ということになるが、その新業態開発の執念は半端ではなかった。食料品販売事業への参入など、全く新しい独自の「総合フードビジネス」の創造にカジを切って来た。「大阪王将」のDNA(遺伝子)によるところが大きいのかもしれない。
文野はこの時期を経て13年6月には「大阪王将 赤羽店」(29坪68席)を開店した。新しいロゴや店舗デザインを採用したばかりでなく、厨房を圧縮し客席数を増やした。厨房・店舗オペレーションを徹底的に効率化しスピード提供した。これによって、「厨房圧縮・高原価・高回収」の新コンセプト店を実現、営業利益15%以上を確保したのだ。この「赤羽店」の成功は、文野が首都圏で「大阪王将」を展開する自信を掴んだ店舗といえる。
13年10月には東急東横線の代官山駅前に「大阪王将 代官山店」がオープン。大衆中華食堂・餃子専門店のイメージを覆すオシャレな店舗で、女性の常連客がつき繁盛している。
文野が首都圏戦略に集中する中で最も成功したのが14年4月に開店した餃子専門店「大阪王将 品川店」(直営)であった。品川駅港南口の駅前広場の1等地にあり、約30坪54席。路面店で初の24時間営業、及びデリバリーに踏み切った。「大阪王将 品川店」は当時ブームになりつつあった餃子酒場・居酒屋のコンセプトを活かし、飲み客に対応したアルコール比率の高いメニュー構成にした。注文にタッチパネルを導入、「餃子でちょい飲み」需要を開拓することに成功した。客単価はランチが940円、夜は2000円を超えたのである。「品川店」は開店4ヵ月後の14年8月には月商1780万円を超え、「大阪王将」グループの国内全店舗で売上高トップを記録した。
この成功体験をバネに文野は24時間営業の「大阪王将 渋谷駅前店」を開店、首都圏での新しい餃子専門店「大阪王将」を展開しようとしている。
急激な進化を続ける
コンビニに勝つ新業態開発
外食チェーンは長年トップに君臨してきた企業が期限切れ鶏肉使用問題や異物混入事件で、またブラック企業問題で複数の企業が苦境に直面するなど、経営の転換期に突入している。
「これまで多くの外食チェーンはデフレを追い風に『自宅で調理するよりは手間暇もかからずに、安くておいしい』という消費者のコンセンサスに乗って成長して来ました。けれども高齢化の進行、アベノミクスによるデフレからインフレへの転換など大きな変化が起こる中で、外食チェーンの従来のビジネスモデルが通用しなくなってきました。代わって外食チェーンの役割を担い出したのがコンビニです。コンビニは豊富な経営資源を活用、生産・流通技術を進化させ、弁当、おにぎり、サンドイッチなどの品質をブラッシュアップさせ、外食チェーンの顧客を次々に奪い出しました。外食チェーンはコンビニの商品力や価格に負けるようになってきたのです。今や外食チェーンのビジネスモデルは古くなり、時代に対応できなくなってきたのです」
コンビニはヒト、モノ、カネの豊富な経営資源を投入、地域に密着した店舗を作って来た。高齢者家庭に弁当や牛乳などデリバリーするサービスもいち早く導入、時代に対応したビジネスモデルを構築した。そして、100円コーヒーの大ヒットによってファストフード業界から客を奪い、今度はコーヒーのついで買いを誘うドーナツを投入した。コンビニは100円コーヒーを入口に、朝食需要にとどまらず、おにぎり、弁当などの昼飯需要を喚起することに成功した。最近では「ちょい飲み需要」を取り込む夜型のコンビニも開発されれば、定食チェーンと一体となったコンビニも出現し、コンビニと外食チェーンの垣根はなくなった。
外食チェーンの多くは、このようなコンビニの進化、地域に密着した店舗作りから取り残され、コンビニに負けるようになったのである。
「これまで外食チェーンの経営者はプライドに賭けても、コンビニの進化の影響で顧客を奪われ経営が悪化してきたとは口にしなかったのですが、今やコンビニの影響を認めざるを得ない段階に入ったと思います」
文野は外食チェーンに吹き荒れる逆風を飛躍のチャンスとするために、「大阪王将」と和食業態の長所を取り入れた新業態「餃子食堂」などを投入する。
「今後2~3年先で見れば屋台ラーメンの『よってこや』のリモデルをはじめ、味噌ラーメンの専門店、油そばの専門店など10店舗程度新業態を投入。反転攻勢に出るつもりです。外食チェーンがコンビニに勝つためには店の活気、商品のライブ感、シズル感、エンターテイメント性などを打ち出した、コンビニでは味わえない店づくりが大切になると思います」
文野はイートアンドの新しいビジネスモデルを構築するために外食、中食、冷食を含めた「総合フードサービス業」を志向する。今年はイートアンドの予想外の新業態が出現、外食業界に旋風を巻き起こしそうである。
(文中敬称略)
外食ジャーナリスト 中村芳平