阪和興業株式会社 取締役常務執行役員 松岡良明氏
■水産物は「日本が買い負け」している!
国内では「日本人は魚を食べなくなった」と言われていますが、世界的に見るとまだまだ日本人は魚を食べる国民です。世界的な水産物のマーケットでいうと、最近は大きく変化しており、中国などの海外マーケットから日本が買い負けるということが起きてきました。
これは日本の長年のデフレの影響もあり、日本の買い手市場だった魚が、徐々に他の国に流れるようになってきたのです。以前は日本が最高値を出して買い集めるという感じでしたが、東南アジアなどがどんどん経済水準が上がってきて、物価水準も高くなったので、売り手から買い手になり、潮流が変わってきました。アジアが消費国になってきて、もともとは自分たちが獲った魚介類を日本に売る側だったのが、自分たちも買う側になったということです。以前からそういう動きはありましたが、特にここ5~6年はそういう動きが強くなっています。日本よりも高い値をつける東南アジアの国々が登場しているのです。デフレの影響もあり、日本は高品質よりも値段が安いものを求めているのに、中国や東南アジアは富裕層が高品質なものを求めてくるので、そうすると値段をどんどん上げてきます。魚を食べている量は日本が世界有数なのには変わりがないのに、今は「魚は日本の専売特許」という感じではなくなってきています。< /p>
魚が日本の専売特許ではなくなったのには、世界的な健康志向もあると思います。エビやカニは、以前は日本が中心でしたが、最近は好調なアメリカに流れることもあり、今では海老はアメリカの方が日本よりも輸入量が2倍くらいになっています。
東南アジアは周囲を海に囲まれていますので、エビ、イカ、タコ、イワシ類など魚介類は豊富に獲れます。ただ、日本との取引ではサイズが限定されたりするので、そこがネックです。彼らは獲ってきたら丸ごと販売したいので、日本と取引するよりは地場の市場で売った方が早いということになります。食品に限ったことではありませんが、日本人のオーバースペックといえるかもしれません。高い値段を出している時はオーバースペックで要求しても供給側がついてきてくれていたのですが、値段が変わらないのならそんなややこしいところに売る人はいません。それは日本の消費者の要求なので、それが日本のスタンダードを非常に高いところに維持している理由でもあります。そうは言っても、最後は世界レベルの競争なので、食べ物が日本人の口に入りにくくなる可能性はないとは言えないでしょう。
■アジアで人気なのはラーメン、豚カツ、焼肉
総合商社というと、あまり飲食店とは直接関係がないと思われるかもしれませんが、みなさんが食べているものは、実は世界中を飛び回って最終的に日本に来ています。例えば、カナダで獲れたカニをインドネシアやベトナムの工場に持って行ったり、ノルウェーで獲れたサバが中国で切り身に加工されて日本に入ってきたりしています。
アセアン諸国は反日的なところがほとんどなく、親日派なので、ビジネスがやりやすいと思います。食品は生ものなのでサプライチェーンやロジスティックスの問題などはあるのですが、すでにタイで展開している日本の大手外食チェーンには、当社のアジの開きが登場しています。1食あたりの値段は日本と変わらないので、タイの所得からいうとかなり高いのです。でもお客さんは9割くらい地元の人ですよ。
アセアン諸国全体でいうなら富裕層は中華系です。同じアセアンでも、シンガポールのように日本よりもお金を持っているような国になると、高い寿司屋に日本人はいません。以前は我々も接待で使っていたのですが、今では1人当たり3万円くらいの店もあって、とても接待では使えません。そういう店の客はほとんど地元の人で、外にはフェラーリやベンツが停まっている。そういう国もあります。
シンガポールには日本の大手ラーメンチェーンなども進出していますが、値段が高いです。ラーメンが1杯1500円、そしてさらに税金で17%プラスになるのに、いつも満席。シンガポール人がなぜあんなに日本のラーメンが好きなのかわかりませんが、私が親しくしているシンガポール人も日本に来ると、天ぷら屋でも料亭でもなく「豚カツとラーメンが食べたい」と言います。安上がりでいいんですけどね (笑) 。日本人だとついステレオタイプで、天ぷら、寿司、すき焼き、しゃぶしゃぶなどと考えますが、案外もっとB級的なものの方が浸透しているのかもしれませんね。
また、別の友人は「インドネシアには美味しい焼肉屋がない」と言っていました。彼はもともとレストランを経営していたので「自分でやればいいのに」と言ったら「肉が手に入らない」と言うんですね。国ごとに規制がいろいろありますから、日本の肉を現地に持っていくのは大変です。そういうところは当社の仕事になるのですが、そう簡単にはできることではありません。焼肉店もタレなどがきちんと作れれば、松坂牛ではなくてオージービーフなどでも美味しく食べられると思うのです。韓国は世界中に食のネットワークがあるので、韓国バーベキューというのはどこにでもあるのですが、外国人から見ても日本の焼肉はそれとは違うようですね。日本の焼肉屋さんはチャンスかもしれません。
■同じアジアでも文化や宗教による違いが
欧米の人は朝から外食なんてあまり聞きませんし、屋台もないです。夜もイギリスのロンドン辺りは電車で通勤している人も多いので、会社帰りにパブなどへ飲みに行く人もいますが、たいていの欧米諸国では仕事が終わると車で家に帰ります。外食はアジアの文化なのかもしれません。
同じアジアでも国によって事情がかなり違います。中国は日本と同じで高齢化が進んでいますが、ベトナムなどはこれから若い人たちがどんどん伸びてきます。そうすると嗜好も変わってくるでしょう。当社はベトナムのホーチミンとハノイに会社がありますが、ベトナムは若い人たちが外食やファッションにお金を使います。ベトナムはコーヒー文化で、ベトナムのコーヒー生産量は世界でも1、2を争うくらいです。韓国のコーヒーチェーン店もアジア全域に増えています。歴史的にいうと各々の国は、例えばインドネシアはオランダ領でしたし、ベトナムはフランス領でしたので、今でも普通にフランスパンを食べたり、屋台でも売られています。フレンチやスパニッシュのバルがあったりして水準が高いので、もしかするとちょっとオシャレな方が受けるかもしれません。それにタイは独立国ですが、ドイツ人やイタリア人が住んでいたりして、ヨーロッパ人が来るところですね。
イスラム教ではご存じのように豚肉等、宗教上で食べることを禁じられているものが有ります。インドネシアもイスラム教の国で、以前、日本の大手調味料メーカーが「豚を使った粉末が使われていた」というのでインドネシアで訴えられたことがありました。スーパーやコンビニのように誰でも手に入れられる場所ではイスラム教の人が誤って宗教上禁じられているものを食べない様に、認可シールを張った物も通常品とは別に販売しています。レストランでもイスラム教の人が多い国ではメニューに豚肉等の使用の有無を記載している店が多く見られます。
アルコールについては、イスラム教では飲酒は禁止なので、イスラム教の方々は飲みません。ただし華僑の方は飲みますから、レストランでもゴルフ場でもたいていアルコールはあります。イスラムの断食の時期には自粛することもあるようですが、それも多くの東南アジアの国では問題ないでしょう。日本のように飲み物のバリエーションは多くはなく、ほとんどビールで、ビールの次に何を飲むかと言うと、最近はワインです。コテコテの華僑の人はブランデーの水割りで、最近はスコッチの人もいますね。お土産を持っていくならへネシーが喜ばれます。日本の焼酎や日本酒は、今は珍しさで飲まれる程度で、高級日本食レストランなどにはあります。日本人はお寿司にブランデーという組み合わせはナイと思いますが、私たちがそう思っているだけで他の人はアリと思うかもしれない。あまり決めつけない方がいいと思います。
■2020年の東京オリンピックを見据えた海外展開を
和食が世界文化遺産になったこともあり、今注目されていると思います。これからもアジアはいろいろな意味で日本の大切なパートナーになりますから、食の文化から現地に入っていけるのはとてもいいことです。一番親しくなれますからね。
よく知られていますが、中国では2種類の日本食があります。「日式」といわれる現地の人が作る日本食。これは日本人にとってはあまり美味しくないので、日本人は食べに行きません。それともうひとつは日本の資本が来て日本式に作っている日本食。「日式」のようなものを入れると、現地の人にとっても日本食はポピュラーかもしれません。東南アジアの国に行くと「こんなところに日本食レストランが?」と思うようなところにもあります。それもたいては「日式」なのですが、そういうところと競争しない方がいい。ものすごい低コストでやっていますから。
当社はこれまでは飲食店の方々と直接深い関わりはありませんでしたが、まさに今、大手チェーン店の方々と一緒に仕事に取り組んでいます。日本の外食産業としては大手でも、海外での事業展開はしていないところは多いですよね。当社は今、国内外合わせて60社くらいあり、そのうち半分くらいは海外に会社があるので、例えば会社設立や運営、人材派遣なども当社がご案内している状況です。外食以外では、海外に拠点を移した会社もありますので、そういう情報や会社設立のお手伝いなども我々ができればと思っています。今後、その海外のネットワークでチェーン展開する場合、当社が食材を提供するなどということもできると思います。
2020年には東京オリンピックが開催されますが、それを見据えて海外展開を考えるのもいのではないでしょうか。オリンピックでは、選手団や国の関係者などがやって来ます。そういう人たちが日本に来た時に「この店は自分の国にもある。日本が本店なんだ」ということがあるといいと思うんです。日本のものを押し付けるのではなく、今のうちから現地で展開して少しづつモディファイ (修正) し、より現地に合った展開をしていくには2~3年では短すぎます。オリンピックが開催されてから海外展開を考えたのではもう遅い。先を見据えると今がちょうどいい時期だと思います。
阪和興業株式会社 海老沼凌治氏
私はインドネシアに4年3ヶ月ほど駐在し、2013年4月に帰国しました。現地ではエビの日本向けとアメリカ向けの輸出、及び他の国で獲れた原料をインドネシアに運び、インドネシアで加工して輸出する業務を担当していました。駐在期間中は、まさにインドネシアが経済発展をしている最中で、どんどん状況が変化しました。
インドネシアのローカルフードは「ゴレン」と言って、油で揚げたり炒めたりしたものが多いです。油っこいものが多く、それから有名なのはサテですね。地域によってはよく食べられています。日本食レストランは日々増えていて、人気があります。駐在している時は、現地に在住している食品業界の日本人の方ともお話しをしましたが、外食のターゲット層としては富裕層を狙う人と地元のローカルを狙う人と二極化している状況で、ターゲットによって値段の設定も全然違ってきます。私が駐在していた時に大手牛丼チェーンがジャカルタに進出して行列ができ、2時間待ちでした。そのくらい新しい飲食店には関心を持っているし、並んででも食べようと思っています。値段は280円で日本とあまり変わらなかったので、現地では決して安い値段ではないのですが、300円以下というのはローカルの人にとっても抵抗なく買える値段です。
現地は貧富の差が激しく、一食当たり数十円で生活しているような人もいれば、我々よりも裕福な人もたくさんいる。東南アジアの国々でも少しずつ状況が違います。日本で展開している飲食店が現地で展開した場合、日本の駐在員の家族が来ていますので、そういう人たちが最初のお客さんになります。そういう意味では開店しやすいのかなとは思います。貧富の差が本当にとても大きいので、説明しづらいですが、富裕層の方々は我々と感覚が近いので、美味しいものや人気のあるものを食べたがっています。有名店が進出する時は、着工した時点でもう現地でも噂になっていて「早く来てほしい」とみんな待っています。「日式」のような店は日本語は書いてあるけれども中に入ってみないとわからないということがあるので、差はかなりあると思います。富裕層の方々は日本人が資本のお店のものを食べたいと思っているようで、一般の人たちは「日式」の方で満足なんだと思います。
インドネシアの家庭で日本と違うのは、冷蔵庫の中にあまり食材が入っていないこと。冷蔵庫は飲み物を冷やすものです。食品は屋台もたくさんありますから、外で食べるか、外で買って来たものを家で食べます。「趣味は外食」という人が8割くらいいるともいわれるくらい、外食が好きです。みんなでワイワイガヤガヤ食べるのが好きなんでしょう。いつも人だらけなので、単身赴任をしていた時期も寂しいと思ったことはないですね。インドネシアは家族構成も日本と違っていて、子どもがとても多いです。週末は家族で外食という文化ですね。だから特に週末はどこもとても混んでいます。レストランはどんどん増えてものすごい数の飲食店がありますが、来店客数もどんどん増えているので、どこも満員なんです。店の外にもテーブルを出している状態です。そういう意味では日本の企業がどんどん進出するのもわかりますね。
インドネシアの人口は2億4000万人で日本の約2倍います。国民の90%くらいがイスラム教で、宗教的に気になることもあると思いますが、そこはメニューで対応できます。華僑の割合はそれほど多くありませんが、5%でも1000万人いますから、ターゲットとしては十分に採算がとれるくらいの人数はいると思います。インドネシアはイスラム圏の中でもあまり厳格ではない方です。イスラム教だから豚を食べてはいけませんが、他の宗教の方も多く、豚骨ラーメン店も大繁盛していますので、マーケティングさえしっかりしていれば、全然問題ないと思います。水産物についてはそういう決まりはありませんが、もし養殖の餌などに豚関連のものが使われているという情報があったりすると問題でしょう。そういうことにはとても敏感です。
東南アジアの状況というのは言葉では説明しにくいので是非現地を実際に見てほしいと思います。現在それぞれの国がとても勢いがあります。僕は学生時代にタイに行っていたことがあるのですが、以前はタイの人たちはチーズなんて絶対に食べなかった。でも今では普通にピザを食べています。ですから、もともとの食文化もあると思いますが、どんどん変化して行っているのが事実で、いろいろな可能性を秘めていると思います。インドネシアでは若い人がファッションとしてお金を使っているので、例えば大手コーヒーチェーン店などはいつも若者でいっぱいです。そういう店のコーヒーは決して安くないのですが、たくさんの人が集まっています。日本でも景気のいい時はみんな流行りの店に行ったのと同じような感覚だと思います。そういう人たちがこれからどんどん経済成長を担っていくことになりますから、可能性は大きいと思います。
ASEAN市場進出セミナー
~第1弾 商社マン(現役駐在員)から見たASEANでの和食~
期日:2014年2月3日(月)
(16:00より懇談会を予定)
会場:阪和興業株式会社 東京本社5F
(東京都中央区銀座6-18-2)
アクセス:各線東銀座駅6番出口より徒歩2分
参加費:5,000円(懇談会費込) ⇒ フースタから申し込みで無料!
募集定員:100名
締切:2014年1月30日(木)
詳細:http://www.food-stadium.jp/pdf/hanwa_G-FAC
※定員にあり次第締め切らせて頂きます。
お申し込み:desk@food-stadium.jp(こちらからメールご応募、または下記フォームよりお申込みください。)
→http://www.food-stadium.jp/seminar/
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