新・編集長コラム

「28歳以下は予約不可」「ワイン飲めない人お断り」「値段を気にする人は来ないで」賛否両論?飲食店で進む“客の選択”その背景とは

「28歳以下は予約不可」「ワイン飲めない人お断り」ここ最近、こんなことを謳う飲食店を見かけないだろうか?あえて排除を含む物言いでお客を選択するのは、何が狙いなのだろうか?

PROFILE

大関 まなみ

大関 まなみ
1988年栃木県生まれ。東北大学卒業後、教育系出版社や飲食業界系出版社を経て、2019年3月よりフードスタジアム編集長に就任。年間約300の飲食店を視察、100軒を取材する。


料理の値段は記載ナシ、その意図とは?

まずは具体例を見ていこう。2024年12月、赤坂にオープンした「赤坂 港かっぽれ」。同店は「港区の大人のための居酒屋」を謳い、「28歳未満は予約不可、違反の場合は罰金3万円のち退店」というルールを設けている。このルールが意図するのは、ある程度飲食店慣れしており、上質なものを知っている「大人」に来てほしいということだ。

「赤坂 港かっぽれ」。こうは謳うものの予約時にしっかりと説明を行い、実際に罰金を取ることまでは想定していないという

さらに特筆すべきが、同店では料理のメニューに値段の記載がない。その心は、料理の値段を気にしながら食事をする人ではなく「好きなものを好きなだけ楽しみたい人」をターゲットにしているからだという。値段を記載しないのは、お客ひとりひとりの好みや気分、腹具合を見て内容や量を調節した料理を出したいから。だからこそ一律価格にはできず、都度価格を設定する必要がある。もちろん、そこに不当な価格をぼったくる意図はない。

料理は一人一皿の個々盛りで提供。少量ずつで多種類が楽しめる、いま流行りのスタイルだ

名古屋にも「値段を気にする無粋な人」お断りの店

名古屋の焼酎立ち飲み「セイハロー」も、Instagramのプロフィールに「値段を気にする無粋な方はご来店をお控え下さい」と堂々と書いてあり、なかなか攻めている。「値段を気にする無粋な人」とはどういうことなんだろうか?実際に訪れてみると、同店のメニューにはやはり値段が記載されていない。値段ではなく本当に食べたいもの飲みたいものを頼んでほしいということだと理解した。

細い路地に佇む「セイハロー」。名古屋の人気立ち飲み「忘」の系列のようだ

先日、私もサクッと飲もうと一人で入ってみた。ドキドキしながら会計を頼むと、本格焼酎1杯とアテ1品で1450円。接客や雰囲気込みで考えれば十分に適性価格だと感じた。激安とは言えないが、高くもない。焼酎への愛を感じる店で、焼酎好きにはぜひオススメしたいと思った。

「排除」を伴う「選択」だから気になってしまう

他にも「ワイン飲めない人お断り」を謳うワインの店が増えている。これにはお客側・店側でそれぞれ賛否両論があり、ときどきSNSで物議を醸していたりする。「ワインを売りたくてやっているのだから飲めない人を断るのは当たり前」や「ワインが飲めなくても料理を楽しみたい人もいる」などそれぞれの言い分があるようだ。

昨今、こうしたお客を明確に「選択」するような事例が増えている。ただし、この選択はただの選択ではなく「排除」が伴っていることがポイントだ。店が来てほしいお客を選択するのみならず、その裏に「こんな人は来ないで」と、ある層を排除するメッセージを含んでいる。だからこそ排除された人はムッとしてしまうし、選択された人は強く興味を持つ。

SNSでバズって客数増でも利益は減る…!?

なぜ排除を伴う選択が起こるのか。

昨今のSNSの発達により、良くも悪くも情報が多くの人に届くようになった。時には届く必要のない層にまで情報が届いてしまうこともある。例えば、店がたまたまインフルエンサーに取り上げられてバズることもあるだろう。実際にはお客が増えて大喜びと思いきや、店が想定していない客層までが押し寄せ、儲かるどころか売上が下がってしまうなんてことも珍しくない。例えばワインをウリにしているバルなのに、お冷やと料理一品で数時間ねばるお客で席を埋められてはたまったものではない。が、昨今のSNSの拡散力はそうした層まで呼び寄せてしまうことが往々にしてある。だからこそ互いに不幸なミスマッチを防ぐため、店はあえて「○○な人お断り」といった排除のニュアンスを含む物言いをするようになった。

そうして望まない層を排除して「選択」した結果、その選択されたお客に「集中」できる。そうすることで店は価値を発揮し、利益につながっている。

先述の「赤坂 港カッポレ」で言えば、28歳未満は予約不可という「選択」を行うことで大人の客層だけになり、それ以外が排除される。だからこそ、値段を決めずにお客の食べたいものを出すというサービスに「集中」できている。

「ニセコ化」する飲食店

こうした「選択と集中」は飲食店に限らず世の中のあちこちで起こっている。

今、北海道のニセコがすごいことになっている。ニュースなどでたびたび報道されるが、外国人観光客でにぎわうニセコは、びっくりするような値段でモノやサービスが提供されているというのだ。日本人の庶民はもはや近づけない場所になっている。

「ニセコ化するニッポン」(著・谷頭和希、KADOKAWA)によれば、これこそが「選択と集中」の最たるものだという。ニセコは外国人富裕層を自分達のお客として「選択」し、彼らが喜ぶサービスに「集中」している。その裏で、ニセコの値段なんて払えない!という庶民を「排除」しているのだ。

同書は、この「選択と集中」を「ニセコ化」を呼んでいる。このニセコ化は、先に述べたように街場の飲食店でも起こっている。

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