最初に「関西サードG」(関西エリアの若手飲食経営者の交流会)の主な幹部たちの顔ぶれを紹介すると、幹事長がワイズクルーコーポレーションの山川博史さん。「京都・烏丸つゆしゃぶCHIRIRI」「汐留バル」などを大阪・東京両方で展開、3月には“鉄道バー”の「銀座パノラマ」を中国天津でFC店オープン予定。西麻布では美川憲一の「鉄板みかわ」を運営する。副幹事長の未知インターナショナルの水本弥知秀さんは、和田アキ子の「わだ家」のプロデュースで話題を呼んだが、最近“きのこ料理専門店”「きのこの里」をオープンしたり、大阪北堀江の「CHARBON」でWBC世界フライ級王者の亀田興毅プロデュースの“亀田ロール”を仕掛けた大ヒットを飛ばしている。
この二人のもとで、幹事をつとめるのがトラオムの堀江新一さん。「もう40歳ですからサードGとはいえへんのですが…」が口癖だが、関西サードGでは“兄貴”と慕われるリーダーである。「鳥貴族」のFC展開からスタートし急成長、直営業態の“280円均一”の「ニッパチ居酒屋どやどや」も展開。そして、若手筆頭の成長株がRETOWNの松本篤さん。「炭火焼鳥ちんどん」を直営10店舗、FC7店舗展開するほか、鉄板焼き「LA TEPPANYA」、紀州勝浦生まぐろ「ほんまや」、黒毛和牛焼肉店「犇屋」などの多業態ブランド展開を図っている。今回フィーチャーしたいのは、この堀江さんと松本さんの“低価格へのこだわり”。やはり激安戦争の大阪外食マーケットで勝ちあがるには、「安くなければ罪」である。そして、「ただ安いだけ」でもダメなのだ。
「外食アワード2009」を受賞した「餃子の王将」も「鳥貴族」も関西が地盤。デフレ不況を逆手に、「低価格」で勝っているこの二社に続けとばかりに、彼らは彼らなりの新しいやり方で「低価格」を訴求する。堀江さんは、「鳥貴族」のFC展開が好調で、それをステップに次の事業のビジョンを描く。それが「1,800円飲み放題居酒屋」である。“280円均一”を打ち出している「どやどや」の進化系で、「どやどや」が客単価2,300円だが、堀江さんは「『餃子の王将』の1,300円の客単価との間、1,800円の飲み放題居酒屋をつくることが僕の夢なんです」と熱く語る。「それを可能にするのは、回転率を上げるためのハードを含めたオペレーションづくりしかありません。それをやるには“居抜き”では限界がある。スケルトンからやりたいんです」。ドリンクも10種類程度ではなく、数十種類揃えたいという。“ドリンクの原価率90%で勝てる店”が生まれる日も近いかもしれない。
一方、松本さんは、産直ルートの開拓で差別化を目指す。1月22日に1号店をオープンしたばかりの黒毛和牛焼肉「犇屋」は、松本さんが独自に開拓した岡山県新見市の黒毛和牛ブランド“千尾牛”を一頭買いして提供する。そこまでは誰でも発想できるが、松本さんが凄いのは、それを客単価2,800円での提供にこだわったこと。「A4~A5クラスの肉を私は客単価3,000円以下で提供したかったのです。そのためには中間流通業者を一切通さず、店舗も居抜きで、人件費も徹底的に抑えました。流通業者には申しわけないのですが、大阪のお客さんに満足してもらうためには、しかたがない。それに、いま一番大事なのは生産者を守ることではないですか。いいものをつくる生産者は我々が守らなければならない」。そのために、松本さんは、千代牛の生産農家が売りたい値段で仕入れたという。「生産者を守るとは、しっかり利益をとってもらうことです。その値段で仕入れて、しかも2,800円でお客さんに喜んでもらう。それをやるのが外食の醍醐味ですよ」と松本さん。値段にこだわる“浪花ベンチャー”の真髄を見た思いがする。
コラム
2010.02.18
“浪花ベンチャー”たちの「低価格」戦略に学ぶ
第二回「関西サードG」が開催され、大阪、神戸などを拠点に活躍する若手飲食ベンチャー"たちの真剣な取り組みに触れた。とくに感心させられたのは、「低価格」への徹底したこだわり。激安競争の中で、彼らが掴んだ結論とは...。"
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。