コラム

いま、アジアの飲食マーケットが熱い!⑦ ジャカルタ編

アセアン10ヵ国のなかで、2億4000万人という人口最大の国インドネシア。首都ジャカルタも人口1000万人を抱える大都市である。マレーシアと並ぶアセアン域内イスラム教信者(ムスリム)大国(人口の8割がイスラム系)だけに、「豚肉とアルコール禁止」というイメージが先行し、日本の飲食、外食ビジネスの進出、展開には壁があるといわれるが、逆に現地での競争は少なく、しっかりとローカライズ(現地化)でできればリターンは大きいマーケットといえるかもしれない。

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。


■初めてのジャカルタ到着

3月27日、私が初めてジャカルタのスカルノ・ハッタ国際空港に降り立ったのは、23時を過ぎていた。14時半にプノンペン空港を発ち、ホーチミン・タンソンニャット空港、シンガポール・チャンギ空港と乗り継いで10時間の旅。シンガポールからジャカルタは1時間45分の距離。成田からの直行便だと8時間で着く(3月30日に就航した羽田・ジャカルタ便だと7時間30分)。

インドネシアは、アセアン10ヵ国のなかで2億4000万人と最も人口が多く、首都ジャカルタでは中間層の人口が増え、外食やサービス産業などの進出先として極めて有望になってきたという情報は、ここ1~2年あらゆるメディアや情報機関を通じ伝えられていた。同時に、「ジャカルタ市内の渋滞は地獄並み」「イスラム系が80%を占めるためハラルの壁がある」という難点についても予備知識があった。それと、「タクシーはブルーバードグループしか乗ってはダメ。他のタクシーに乗ると料金をぼられたり、強盗まがいの危険な目に遭う」と聞かされ、漠然と「治安が悪いんだなぁ…」というイメージを抱いたままの初入国だった。

空港で「ブルーバード」の係員を探し、ホテル名を告げてタクシーに乗った。たしかに、空港にはさまざまのタクシーが客待ちをしていた。しかし、客引きの波をかき分けてブルーバードが乗りつける場所を探すのはそんなに難しくはない。「下手をすると渋滞で空港から市内のホテルまで1時間かかりますよ」と聞いていたものの、深夜なら大丈夫と踏んでいた私の予想は当たった。渋滞なくフルスピード(ゆうに100キロオーバーでちょっと怖かった)で高速を駆け抜け、30分ぐらいでホテルに着いた。初日のホテルは、市の中心街「TTHAMRIN(タムリン)」の三ツ星デザインホテル。24時間営業のカフェがあり、チェックインしたあと深夜2時ぐらいまでこのカフェでビンタンビール(インドネシア産)を飲みながら、翌日からのリサーチコースを練った。できたら、近くの店で軽く仕上げ飲みをしたかったが、中心街とはいえホテルの周りにはなにもなく、ポツンとコンビニ「ミニストップ」の灯りが点いているだけだった。

翌朝9時ぐらいにホテルの周りを散歩した。ホテルからすぐに大きなタムリン通りに出られる。たしかに車は多かったが、大渋滞というほどではない。交差点から、富裕層向けのショッピングモールの「プラザインドネシア」や「グランドインドネシア」のある高層ビルを仰ぎ見ることができた。近くにはローカル向けのショッピングモール「サリナ」があった。しかし、モールの看板店の「マクドナルド」まで行くには“近くて遠い”。歩いて行くに車道を無理やり渡り、駐車場を抜けて行く必要がある。ビルの構造が歩行者にはやさしくできていないのだ。
「なるほど、歩けない街か…」
1時間の散歩も、かなり疲れるものだった。この街は、たしかに車がないと動けない、そう聞いていたことは予想以上に的中していた。

■「歩けない街」ジャカルタ

11時、事前にガイドを頼んでおいた小松邦康さん(インドネシアを中心に活躍する作家、通訳家)とホテルで合流、小松さんにチャーターしてもらったワゴン車で3日間、ジャカルタ中を見て回ることにした。小松さんは20年近くジャカルタに在住し、『インドネシア全二十七州の旅』『インドネシアの紛争地を行く』などの著書を出している。小松さんはたまたま私と同じ香川県出身。讃岐人同士の最初の話題は、「『丸亀製麺』、ジャカルタで流行ってますよ!」だった。小松さんは在留邦人向け日刊紙「じゃかるた新聞」でちょうど1年前の2月14日にオープンした「丸亀製麺」ジャカルタ1号店を取材していた。

小松さんに車の中で聞いた。
「ジャカルタは“歩けない街”なんですね…?」
「そうですよ。中心街のオフィスビルやショッピングモールに行くには、車がないと不便です。歩いて10分ぐらいで行けるモールとモールの間も、ぐるぐると車で移動します。渋滞にハマると30分以上かかることはザラですよ」と小松さん。
シンガポールやバンコクのように地下鉄やBTSがまだないジャカルタは、車が生活交通の手段になっている。中間所得層が増え、自動車保有数はうなぎ上りとなっており、渋滞はもはやこの街の風物詩。緩和されるどころか、さらに酷くなることが目に見えていながら、経済の発展は続いていく。それがいまのジャカルタの素顔だ。
「ブルーバード以外のタクシーは危険というのは本当ですか?」
「いや、それは違います。私は白いタクシー、Expressをいつも利用しています。ブルーバードは最近驕りが出てきて、運転手によってはサービスが悪い。その点、Expressはいいですよ。日本から来た方はみんなブルーバードと言いますが、それは誤解です」とのこと。
いずれにしても、「歩けない街」ジャカルタで生活するためには、自家用車かタクシー(初乗り料金は5000~6000ルピア=50~60円と安い)かバス。しかし、バス利用は慣れるまでは不便で危険)。私は小松さんに頼み、ワゴン車を一日10時間55000ルピア(約5000円)で借りることができた。もちろん運転手付き。そのおかげで、効率のいいリサーチができた。

■ジャカルタの主なショッピングモール

ジャカルタの飲食マーケットを見るには、まずショッピングモールを回ること。市内にはざっと大小70のモールがある。エリア別(中心街、東西南北各エリア、日本人街、華人街など)、客層クラス別(富裕層、ミドルアッパー層、中間層、ローカル庶民層など)に分けて、比較しながらその特性、属性を分析する必要がある。客層クラス別に代表的なショッピングモールを挙げると、以下の通りだ。

・高級層向け
プラザインドネシア(タムリン地区)
グランド・インドネシア(タムリン地区)
プラザ・スナヤン(スナヤン地区)
スナヤン・シティ(スナヤン地区)
パシフィック・プレース(スナヤン地区)

・中級層向け
ウィスマンケイアイ(スディルマン地区)
タマン・アングレック(その他)
クラバ・ガディン・モール(クラバ・ガディン地区)
ポンドックインダーモール(ポンドック地区)
リッポーモール・クマン(クマン地区)
ガンダリアシティ(その他)

・庶民層向け
ソリヤモール(タムリン地区)
ロッテショッピングアベニュー(スディルマン地区ウォークロウワー)
コタカサブランカ(スディルマン地区ウォークロウワー)
アンバサダール・モール(クニンガン地区)
スマンギ・プラザ(スナヤン地区)
マンドゥア(コタ地区)
シティー・ウォーク(スディルマン地区)
ブロックMクスエア(ブロックM地区)
…など。

これらのモールには、日本から「吉野家」「大戸屋」「ペッパーランチ」「モス(カフェ)」「ココイチ」「味千」などの大手チェーンが出店、昨年3月には讃岐うどんチェーンの「丸亀製麺」がタマン・アグレックに1号店を出し大人気に。その後1年の間にガンダリアシティ店、コタカサブランカ店ほか6店舗まで展開している。また、ラーメンの「山頭火」「まる玉」がプラザインドネシアに、立ち食いそばチェーンの「富士そば」がロッテショッピングアベニューに、さらにロサンゼルス発日本人経営の「JINYA(炉端&ラーメン)」がガンダリアシティに出店し、話題を呼んでいる。ほかに多店舗化展開している外食チェーンは、クレープの「MOMI&TOY」がプラザ・スナヤン、リッポーモール・クマン、ロッテショッピングアベニューに3店舗を展開中。

私たちは、3日間で上記のショッピングモールをほとんど見て回ってきたが、率直な感想として、以下の点を挙げたい。

1、いずれも巨大だ!ジャカルタは、外では「歩けない街」だが、モール内は一日かけて「歩きたい街」であること。物販、飲食はもちろん、映画館やゲームセンター、ボーリング場、ライブハウス(JKB48も有名!)などアミューズメント、カルチャーセンター、スポーツクラブなども充実している。
2、クルマ社会ゆえに、渋滞に影響されずに車を乗り付けることができるモールが有利。「あのモールは渋滞に巻き込まれやすい」というイメージをもたれると人気が落ちるという。「プラザ・スナヤン」は駐車場が広く便利、ロッテショッピングアベニューは渋滞がひどく不便といったように。
3、高級モールはシンガポールの影響を受けている。というか“シンガポールスタイル”の店が多い。シンガポールも商業施設のパラダイスだが、このままいくとジャカルタも“ミニシンガポール化”するのではないか?
4、ショッピングモールにも、流行り廃りがあり、やはり最新のデザインを導入した新しいモールに人が流れている。これはしかたのないことだが。
5、中級、庶民層ターゲットのモールは中国人系の顧客が多い。最近、ローカルエリア(クラバ・ガディンなど)にも、中国系富裕層のコンドミニアムが建ち並び、大きなマーケットになっている。
6、モール内飲食店はチャイニーズインドネシアン(中国系インドネシア人)をターゲットにすれば、豚肉もアルコールも出せる。イスラム系インドネシア人を取る場合には、もちろんハラル対策が必要。
7、出店する場合、業態コンセプトによって客層クラスとエリア特性、属性がマッチングするところを選ぶべき。いい条件のモール物件でも、業態コンセプトとミスマッチで失敗しているケースをいくつか見た。たとえばロッテショッピングアベニューの「富士そば」は、隣のラーメン「麺屋桜」に比べ苦戦が目立っていた。シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズから来た高級和食レストラン「HIDE YAMAMOTO」も、ロッテにはふさわしくないような気がした。

■ジャカルタの主なマーケットエリア

ここで、エリアについて整理すると、ジャカルタは以下の8地区+αをマークしておくといい。

1、タムリン地区(プラザインドネシアやグランド・インドネシアがある中心街、タムリン通り沿い)
2、スディルマン地区(タムリン通りより南側の日系企業のオフィスビルが多いスディルマン通りの両側。日系の飲食店が多い)
3、スナヤン地区(スディルマン地区より南側のショッピングモールや高級レジデンス街が集中するエリア。客層がいいといわれる)
4、ブロックM地区(スナヤン地区よりさらに南側の古くからある日本人街。在留邦人が通う日本料理店やスナック、カラオケが密集する歓楽街。日系スーパー「パパイヤ」が目印)
5、クマン地区(ブロックMの少し南東側にある欧米人街。クマン通りには路面のレストランやカフェ、バーが並び、深夜まで欧米人で賑わう。「MOMI&TOY」「大戸屋」が入るリッポーモール・クマンが目印)
6、クラパ・ガディン地区(中心街から東側に車で1時間ほど走ったエリアにある中国人街。チャイニーズインドネシアン富裕層が住む高級コンドミニアムを背にしたロードサイドの飲食街は圧巻。ここに「博多一幸舎」「田ぶし」「山小屋ラーメン」「麺王」「らーめん富士山」「ラーメン凪」などが軒を連ね、“ラーメン戦争”が展開中)
7、カプックエリア(中心街から西側に車で1時間ほど走った国際空港手前の「ダマイインダーゴルフ場」を囲むようにして広がるロードサイド飲食街。ざっと50軒の世界の料理が食べられるグルメ街だ。背後にはチャイニーズインドネシアンの富裕層が住む豪邸が並ぶ。日本人経営の店もいくつかあり、大箱の「博多一幸舎」は大人気)
8、コタ地区(オランダ占領時代の建物が残るローカルエリア。観光客も多い。「俺の家ラーメン」「俺の餃子」「炭火庵」など、日本人経営の店が少しずつ増えている)

このほかに、注目の新しいエリアとして、ブロックMの西側に「韓国人街」ができていること。1軒家をまるごと借りた韓国料理の店が並び、韓国食材スーパーもオープンした。それから、スナヤン地区の東側、スディルマン地区の南側、リッツカールトンホテルを囲むエリア「ウォークロウワー」と呼ばれるエリアも注目され始めている。このエリアの「クニンガンシティ」にあるワインレストラン「LOEWY」で食事したが、この店は「ジャカルタでいま最もホットなラグジュアリーレストラン」といわれている。ローカル富裕層の帰国子女がオーナーで、まるでシンガポールの「ワインコネクション」のような空気感のある店。姉妹店「UNION」がプラザ・スナヤンにある。

■日系企業活躍のシンボル「炎丸」

それでは、日本人経営の飲食店でどこが勝っているのか。3日間の滞在でつかんだ私の印象はこうだ。

高級店では、プラザインドネシアのある高層オフィスビル「ザ・プラザ」に2013年5月オープンした高級居酒屋「炎丸」。プランズ(深見浩一社長)が運営。経営はシンガポール、中国でも飲食店を展開しているPJグループ(高橋世輝社長)。46階ワンフロアを「ALTITUDE」として運営し、オーストラリアの著名シェフ、ルーク・マンガン氏が監修する「ソルト・グリル」と自家製パスタを使った北イタリア料理の「ガイア」も同時にプランズが管理している。

このフロアからは、ジャカルタ市内が360度見渡せ、この景観を求めて店に通う客も多い。「炎丸」もオープン当初は、「客単価が2万円でも予約が取れない」といった状況だったが、いまは落ち着いてきており、夜は5000~6000円、ランチは1000円程度。月商で1600~1700万円。ゼネラルマネージャーの冨江貴さんは「目標は月商2000万円、ATITUDE3店舗それぞれ2000万、全体で6000万円、営業利益20%です。これは達成できる数字だと思います」と話してくれた。富裕層から中間層へと客層も広がってきており、今後は柔軟にメニューや価格帯を変えていく予定だ。

そして、「炎丸」にとって、集客アップにつながるグッドニュースが飛び出してきた。ATITUDE運営の新店舗として49階にスカイバー「CLOUD」が2月28日オープン。まだ試運転だが、私が訪ねた3月29日の夜は入り切れないほどの客が溢れていた。ザ・プラザとライバルのグランド・インドネシアに隣接する高層タワーBCA56階にジャカルタ初の「スカイバー」があり、それと並ぶルーフトップバーとして「CLOUD」は今後注目スポットになるだろう。「CROUD」には「炎丸」のある「ATITUDE」のレセプションを通ってエレベーターに上らなければならない。

■現地に根付く日本人経営の店

「炎丸」GMの冨江さんに、ジャカルタでチェックすべき日本人経営の店を聞いた。
それによると、日本食の「紅音(あかね)」「炭家」「中中家」を経営しているグループ、ブロックMにある「割烹 呑」「キラキラ銀座」などが日本人ターゲットで人気を集めているという。「『紅音』の平山恵悟さんという人はジャカルタ日本食の世界では詳しいですよ」という話は、「じゃかるた新聞」社長の中村隆二さんからも伺っていた。

さっそく、私はスナヤン地区のクラウンプラザホテル1階にある「紅音」を訪ねた。しかし、平山さんは不在で、翌日ブロックMにある4店舗目の新しい店「丹波」で会うことになった。「丹波」には看板がない。なんとか探し当てて扉を開けると、オシャレな空間。BGMにジャズが流れる間接照明系のデザイナーズ和食店だった。
平山さんは料理人姿で現われた。聞くと、京王プラザホテル出身で、現在のオーナー植田晃司さんと出会い、3年前の「炭家」立ち上げから「中中家」「丹波」オープンまで、ずっと現場で店づくり、メニュー開発、食材調達、人材教育につとめてきたという。
「ウチの店はちょっとコじゃれていて、高級そうに見えるかもしれませんが、値段は非常にリーズナブルです」と話し始めた。

その秘訣は、「ほとんどの食材を現地調達しているから」という。日本食を出すが、ローカルの方々にも気軽に来てもらえるような値段設定、調味料を含めた食材の現地化。それをやり遂げたのが平山さん。スタッフ教育も、日本的なおもてなし接客術を叩きこんできた。
その結果、同グループは、「カジュアルで美味しい日本の料理が食べられる店」として現地に定着している。定食類から和食、居酒屋料理、名物の餃子から鶏スープベースのラーメンまで、幅広いメニューを取り揃えている。それでいて、チェーン店とは一味違う工夫やオリジナリティが感じられた。
平山さんが現地食材にこだわっている理由はもう一つある。実はいま、インドネシア当局は「インドネシアにある食材、食品は基本的に輸入を認めず」という厳しい外資規制に乗り出しているからである。酒類を含め、食品は一種類ごとにライセンスが必要で、その手続きも煩雑。日本からジャカルタの港まで来ていても、港で止まってしまって、店まで届かないケースが増えているという。平山さんはそのリスクヘッジのためにも現地食材を使うのだ。

もう一人、日本人経営で成功しているのは「割烹 呑」はじめ、「ラーメン38」「キラキラ銀座」「大東京酒場」など10業態25店舗を展開しているダイセイグループの竹谷大世さん。やはりブロックMにある「割烹 呑」でお会いできた。竹谷さんは、メーカー駐在員だった父親が独立した関係で10歳までジャカルタで過ごし、一度日本に戻って高校を卒業、板前となったが2001年にジャカルタに帰って父親の店の手伝いから始め、一時は40店舗まで店を広げたものの、いろいろあって現在25店舗を守っている。
いろいろというのは、こういうことだ。

「こちらでは飲食店はインドネシア人が51%以上の株をもってパートナーとしてやらなければなりませんが、上手くいくと乗っ取られるケースが日常茶飯事です。私もやられました(笑)。それから、最近のショッピングモールなどは、平気で家賃を大幅に値上げしてところが多いんです。ジャカルタ進出人気で新しいテナントはいっぱいいるといわんばかりに。ウチの店でも、月35万はいきなり70万になったり…。撤退せざるを得ませんよね」
さらに、平山さんも言っていた食材、食品の輸入規制の強化。これには蔓延る役人の汚職問題が根深く関わっているようだ。いま当局は、汚職一掃を目指して許認可関係の部署を厳重にチェックしているといわれる。さらに、2015年5月にオープンするイオンモールの影響もあるようだ。いま当局は、イオンが輸入する食品、酒類を一つ一つ認可しており、そのあおりを受けて一般の飲食店が仕入れる食品・酒類も規制が厳しくなっているらしい。この騒動は、イオンモールオープン直前まで続くのではないかとさえいわれている。
「いまジャカルタで飲食店の商売をやるのは、そう簡単じゃないですよ。こんどまたゆっくりお話ししましょう…」
と、竹谷さんは最後にそう言って、店の現場に戻って言った。

インドネシアは、いま外資にやさしいどころか、さまざまな輸入規制や投資規制に乗り出しており、進出のハードルが高くなる傾向にあることは、ジャカルタビジネスのデメリット要因として押さえておく必要がある。アセアンは2015年から経済統合に向かい、さまざまな規制がなくなる方向にあるが、「インドネシアだけ逆行している」という声もある。
ただ、インドネシアは今年、5年ぶりに大統領選挙(7月)がある。それによって、政権交代がなされ、「外資規制は緩和されるだろう」という見方もある。

■ジャカルタ進出のメリットとデメリット

今回、ジャカルタ飲食マーケット視察の3日間、矢継ぎ早にショッピングモールや日本人経営者の飲食店を見て回った。ホテルは3泊とも別のエリアに泊まってみた。1日目は中心街のタムリン地区のアートテルホテル。2日目は欧米人が集まるケマン地区のグランドケマンホテル、そして3日目はタムリン北側のエリアにあるアリラホテル。スカイバーも2店舗制覇、ローカルのトレンドセッターたちが集まるレストランやバーも覗いた。ガイドの小松さんのおススメでイスラム教徒が集まる西スマトラのパダン料理店でランチ、テーブルにうず高く積まれた20皿以上の料理にびっくりさせられた。また、チャイナタウンの餃子店では、日本の餃子の原型のような料理と出会った。
ほとんど車での移動のため、街を歩くことは少なかったが、最終日のアリラホテルの通りにあった屋台街を深夜歩いた。治安は悪い気配はない。最後の店、若者たちで溢れていたチャイニーズインドネシアレストランでビンタンビールを飲みながら、私は「ジャカルタに出ることのメリットとデメリット」を頭のなかで整理してみた。

メリットは、
1、インドネシアの政治は混乱なく民主化の道を辿り、経済は順調に成長していて、首都ジャカルタはその牽引役を担っている
2、他のアセアン途上国と違い、政治家・官僚の汚職、贈収賄撲滅の方向に動いており、企業のコンプライアンス意識も高い。
3、国民性はプライドが高く、暑い都市だが、ビジネスマンはスーツに靴。短パン、サンダル姿はめったに見かけない。クルマも手入れが行き届き、途上国には見えない。東京、シンガポールに近いている感じ。
4、ショッピングモールはシンガポールやクアラルンプール、バンコクに次いで充実。人々はいまやショッピングモールで過ごすことがライフスタイルのベースになっている。
郊外含め、所得中間層(年間可処分所得5000ドル~3万5000ドル)が750万人に達しており、消費意欲は旺盛。なかでも外食はファッション感覚で捉えられ、今後も有望な市場だ。

デメリットは、
1、BTS、地下鉄などの公共交通インフラが都市の成長に完全に出遅れ、いびつな車社会となってしまっている。
2、「歩けない街」。どこへ行くのも車がないとダメ。人々が街を歩くことで生まれる界隈性がない。路面文化が育たない。
3、行き過ぎた政治家、官僚へのコンプライアンス監視が、異常なまでの外資参入規制を生んでいる。
4、そのため、海外からの中小飲食企業の進出のハードルが時代に逆行して、ますます高くなる傾向にある
…などが挙げられよう。

魅力的な料理を目の前にしながら、箸がつけられない隔靴掻痒感がある。それがいまのジャカルタの真実かもしれない。しかし、魅力ある市場であることは、間違いない。バンコク、ホーチミン、プノンペンなどのメコン経済圏とは違う、シンガポール、クアラルンプールに並ぶ発展系統をたどるのだろうか。いずれにしても、今後とも目が離せない都市であるとには違いない。

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