この春最大の注目施設は、東京駅丸の内口の「KITTE」だろう。日本郵便(JP)の威信を賭けたプロジェクトだけあって、最もコンセプチュアルといえる。日本全国のご当地コンテンツを集めたテナントリーシングやイベントの展開は、非常に今日的。これまでは有楽町交通会館や銀座エリア各地の“地方物産アンテナショップ”的な展開だったものが、「KITTE」ではクールな“地方ブランドマルシェ”に進化していた。地方活性化のステージとして、大いに可能性がある商業施設といえるだろう。京橋の「東京スクエアガーデン」は、「KITTE」のある丸の内口、あるいは開発が進む八重洲エリアから銀座をつなぐ導線の真ん中に位置する。これまでは、地味なエリだったが、これからは東京駅と銀座をつなぐ中継点となる。そういう意味では、“伸びしろ”のある商業施設といえるかもしれない。夜の溜まり場としての環境をどうつくるかが課題となろう。その意味では、御茶ノ水「ソラシティ」から「ワテラス」につながる広大な商業施設エリアもそうだろう。昼間のオフィスランチ需要はかなり旺盛に存在するに違いない。しかし、問題はディナーマーケットである。逆に言えば、「夜を制した者が勝つ」というジンクスがここで生まれるかもしれない。マーケットがなかったところに新たまマーケットを創造する。これが新商業施設のミッションである。これらの商業施設が街をどう変えるか、注目したいところである。ディナーマーケットの活性化という点では、開業10年を迎える六本木ヒルズのテナント入れ替えにも注目。ヒルズのメトロハット地下2階にオープンした人気ワインバー「MARUGO」を展開するワルツや日本酒新時代の発信基地となる「人形町 田醉」などの誘致は、多分に夜のシーンを意識したものだろう。しかし、現実には「昼4回転、夜はまだ弱い」(「田醉」笹田オーナー)という。メトロハットは広場を囲むように店舗が並ぶ。その広場を各店舗のテラスとして開放するなどの仕掛けがあれば、面白いと思う。一方、開業6周年を迎える東京ミッドタウンは4月25日、42店舗を一挙にオープンしてリニューアル。しかし、ファッションやインテリア、雑貨などにウエイトを置き、「伊賀の里モクモク手づくりファーム」(伊賀の里モクモク手づくりファーム)や「Obiká Mozzarella Bar(ワンダーテーブル)」など飲食はわずか7店舗のみ。開業以来、厳しいとされてきた飲食テナントだけに、今回にリニューアルも引きずられてきたと言わざるをえない。空間的にはポテンシャルがないわけではない。巨大な“大人のバールモール”をつくるなど、大胆なリーシング提案が欲しいところだ。話題性では、東京よりもJR大阪駅北側のうめきた「グランフロント大阪」が勝る。4月26日オープンで、「日本初」や「関西初」のテナントが多数出店。飲食関連でも「午前4時まで営業」や「常設オープンカフェ」など独自のコンセプトを打ち出す店やエリアがめじろ押しという。どうやら、この春の大型商業施設の話題は“西高東低”ということになりぞうだ。
コラム
2013.04.25
春の商業施設オープンラッシュ!
2013年春の大型商業施設オープンがラッシュを迎えている。それぞれ施設コンセプトを掲げてはいるが、「まずテナンリーシングありき」という無難な着地となっており、さほどのサプライズは見られない。
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。