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コラム

「食中毒問題」と外食産業

日頃からブログやツイッター、有料メルマガなどで顧客蔑視ともとれる強気発言をしていたエムグラントフードサービスの井戸実社長が経営する「ステーキハンバーグ&サラダバーけん」でO-157による食中毒事件が起き、波紋を呼んでいる。

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。


食中毒事件が発生したのは、同社直営の鵜野森店(神奈川県相模原市)。10月23・24日に訪れた2組5名のうち3名にO-157の感染が認められたという。同社によると、カナダ産のハンギングテンダーを使用したハラミカットステーキの調理過程に原因がある可能性が高いとしている。幸い感染者は回復に向かっているが、この問題に対して、同社が発表を遅らせたのではないか(神奈川新聞のネットニュースが報じたあと8日にHPで報告と謝罪)との疑惑や、事件発生直後も井戸社長がツイッターで不適切な発言を繰り返していたことなどが問題視され、ネット上で大きな物議を醸しているのが現状だ。井戸氏については、私はかねてからその言動に疑問を呈し、ビジネスモデルについても「マネーゲームだ」と批判してきた。居抜きによって初期投資を抑え、店舗を増やしていく手法は間違いではないが、売上げ伸び率を最優先するあまり、外食チェーンの基本であるQSC、人材の育成をないがしろにしてきたのではないかと見ていた。優良なフランチャイジーが経営する店舗はともかく、一度訪問したある直営店の質の低さは目に余るものがあった。
だからといって、同社に「食中毒が起こるべくして起きた」とは言わない。外食産業において「食中毒」はいわば“宿業”のように付いてまわり、無くならない。今年は、4月に死者まで出した「焼肉えびす」が大きな事件になったし、6月には「牛角」も0-157感染を、9月には「ガスト」が赤痢感染を引き起こした。完成された調理マニュアル、徹底した衛生管理が行なわれているはずの大手チェーン店でさえ、「起きてしまう」のが食中毒問題なのだ。ただ、大手の場合はその対処法、危機管理体制が出来上がっている。そのための投資も教育も行なっている。しかし、売上げ、店舗数の拡大を掲げて突っ走るベンチャーチェーンは、利益を生まない「安全・安心」への投資をしないし、その意識も低い。そこが問題なのだ。外食チェーンの運営、展開には常に資金需要が伴う。もともと低い利益率の店舗ビジネスで収益を上げるには、店を増やすしかない。そのためには自己資金だけでは無理で、資金調達を銀行融資に頼るしかない。あるいは加盟金収入でセントラルキッチンや物流網を作るなど本部機能を整備拡充するためにFC展開をするしかない。
一方で、食材原価と人件費をいかに下げるかという効率経営を迫られる。店を増やしながら、徹底したローコストオペレーションを同時に行なわなければならない。人件費を下げるためには、厨房も職人を雇うわけにはいかず、アルバイト・パートに依存することになる。つまり、外食チェーンの顧客は「食の安全」をアルバイト・パートオペレーションに委ねていることになるのだ。そこに疑問を差し挟んではならない産業なのである。だからこそ、なお余計に「安全」についての徹底した投資や教育が必要なのだ。それは、店舗の現場でのマネジメントの問題ではない。最も問われるのは、その企業の経営トップの意識ではないだろうか。「食中毒を起こしてしまうかもしれない仕組みを内在している産業」であるということを前提に、外食企業のトップは「顧客の命を預かる産業」であるということを自覚し、「収益より顧客の安全を優先」というミッションを再度、確認すべきではないだろうか。その自覚とミッションをもてない経営者は、外食産業から去るべきだ。でなければ「外食産業=危険産業」というイメージが増幅されるばかりだ。

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