そもそも勝手に“東京の中心街”と名付けられたミッドタウン。 施設全体のコンセプトが「新しい価値、感性、才能を世界に発信する」こととあって、飲食テナントも“東京初”“日本初”の店や“食×アート”スタイル提案 の店が厳選された。今回、テナント選別はかなり早くから決まっており、筆者が昨年の今頃問い合わせたときにはすでに「募集は終わっています」とシャットア ウトされた。それだけディべロッパーサイド(三井不動産)が“銘柄選別”にこだわり、門戸を狭くしたのはなぜか。 その背景には、六本木ヒルズとの棲み分け、三菱地所グループとの“都心制覇最終戦争”への狼煙的な意味があるのはもちろん、西麻布、麻布十番、広 尾、恵比寿、中目黒、青山など周辺の街場の店と使い分けができる“話題性”がどうしても必要だったのではないか。ただ有名ブランドだけを集めたのでは、丸 ビルや六本木ヒルズにように“観光地化”してしまいかねない。それでは価値や感性は売れない。それが分かる大人、クリエーターたちが「使える街」でなけれ ばならないのだ。その点、どこの商業施設に行っても見かける“毎度お馴染み”の店は少ない。仮にあっても“旗艦店”を謳っている。 さらに、広大な敷地に比較して、一店一店のスペースが意外と狭い。スケール感があるのはソルトコンソーシアムのフードコート「okawari.jp」ぐらいで、レストランにいたってはこじんまりとした店がほとんど。ただ、奥の「ガーデンテラス」に出店したレストランには敷地の4割を贅沢に使った庭園が見渡せるテラス席がある。席数を抑え、ビューを含めた空間の価値を売るマジックである。庭側に入れなかった「可不可」は“食×アート”という付加価値を売るが、今いちピンと来なかった。話題性で言えば、4階のコンランプロデュース「Botanica」、ワンダーテーブル「Union Square Tokyo」、タリーズ社長の松田氏がナパバレーにワイナリーを持つ友人のフランシス・コッポラにプロデュースを依頼したという「COPPOLA’S vinoteca」、原宿「上ル下ル西入ル東入ル」のアト・ワンズ細川氏経営のモダンメキシカン「La Colina」などが“業界的に”注目されそう。 「名より実」を取ったのはゼットン・稲本健一氏の“シャンパンとオレンジの店”「オランジェ」である。六本木交差点から最も近いオフィス棟の角地に出店。「ゴージャスをカジュアルに使いこなす」というメッセージ性、大地真央と結婚したばかりの森田恭通氏デザインという話題性。「imoarai」「GRACE ROPPONGI」に続く森田氏の“Hopping zone”が出来たということか。ここが丸の内TOKIAの「P.C.M.」的な存在になるのは間違いない。「オランジェ」は朝5時まで営業だが、2階に入った空間プロデューサー・角章氏のバー「SALON BAR YOL」 はなんと朝9時まで営業する。オフィス棟の1~2階で朝までアルコールの臭いを通りに放つ大胆さ。安藤忠雄氏の建築物を眺めるガーデンテラスが“聖”だと すれば、ここはミッドタウンが提案する“俗”といえる。あるいは森田氏流に言えば“ツカミ”と“オチ”であろうか。26日の内覧会の夜の部。業界人たちが ほとんど「オランジェ」に集まって閉会時間過ぎても帰らなかったシーンがそれを物語っている。
コラム
2007.03.29
東京ミッドタウンの聖”と”俗””
3月30日、いよいよ「東京ミッドタウン」がオープンする。飲食ゾーンを一回りしてみて感じたのは、ディベロッパーサイドの「情報発信」「話題喚起」への意欲と言うか、下心"である。 "
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。