蒸し暑い梅雨の鬱陶しさを吹き飛ばすのは、ビールしかない。ということで、7月10日、ハイネケン ジャパンが「オーバカナル赤坂店」で開催した新しいビールスタイル「ハイネケン アペ」 のイベントを覗いてきた。「アペ」というのは現地のイタリアンバールなどで定着している食前酒スタイルのことで、正式には「アペリティーボ」。18時から 20時ぐらいまで、レストランに行く前に“軽く一杯”という慣習である。もちろんイタリアでは、ビールというよりスプマンテ、スペインではカヴァなどのス パークリングワインでフィンガーフードやタパスをつまむのが主流である。 ハイネケンとしては、そのスタイルを日本流にアレンジ、増殖している立ち飲みバーやイタリアンバール、スペインバルなどで仕掛けていこうというわけである。当面、ブランドの「オーバカナル」、展開急な「バール・デルソーレ」、ビジネスマンに人気の「ドランクベア」11店舗で展開、10月からは70店舗に増やし、「来年は東京350店舗、大阪150店舗の500店舗に増やしていきたい」(マーケティング・ディレクター・多木幸夫氏)と息巻いている。キリングループでは有名人・島田新一氏が「バーホッピングのスタートは緑の瓶・ハートランド」を仕掛け、大成功を収めている。「ハイネケンで夢よもう一度!」というわけか。 同じ10日、帝国ホテルで酒販店、料飲店600名を招待したサントリーの「ザ・プレミアム・モルツ」 のパーティーがあったので、潜入してきた。さすが、勢いが違う。3年連続モンド金賞受賞と矢沢永吉起用のCMヒットで意気上がる常務の丸山紘史氏(ビー ル・RTDカンパニー長)率いるサントリーはプレミアム市場を席巻。その“協賛力”でも他社を圧倒しているようだ。このパーティーでも「参加いただいた全 員にビール1ケースをお送りします!」と主催者が挨拶していた。しかし、“宣伝の神様”丸山イズムは一般マス向けには有効だが、確実に飲食店を堕落させて いることに気づくべきだろう。宣伝力ではなく、業態提案力やスタイル提案力で勝負するのが、長い目でみれば飲食業界のためになるのではないだろうか。 私としては、恵比寿「17番」の“290円生ビール”(サッポロビール)が好きだ。原価170~180円、所詮ビールで儲けても客は喜ばない。それこそ、夜のスタートを切るための一杯、安いに越したことはない。アトレ上野(「バニュルス」も近く開店)にオープンした立喰酒場「buri」はアサヒビールと組んで「300円生」を仕掛ける。ビールが進めば、次にワイン、焼酎、日本酒と飲み替えていく客が増える。300円ビールは客単価が3,000円に化ける“導火線”の役割を担う。日商90万円を上げる乃木坂「魚真」は一般席ではサッポロビールだが、立喰い寿司コーナーではキリンの一番搾り生を出す。そのサーバー提供方法がユニーク。客が自分で注げるロボットサーバーを常置している。そんな遊び心が客を呼ぶのである。
コラム
2007.07.12
「とりあえず、ビール!」の新しいかたち
梅雨が明ければ、ビールの夏。夜はビールで始まり、ビールで終わる私としては、この夏のビール各社の飲食店へのビールスタイル提案"は興味あるテーマである。"
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。