コラム

“原点回帰”見せる「魚業態」に注目!

野菜、肉、魚と食材を軸にする業態は進化している。魚業態は、「浜焼き」「鮮魚居酒屋」といった業態が大きなトレンドとなったが、ここにきて「魚本来の味を楽しもう」という原点回帰の動きが出てきた。

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。


トロ箱を並べ、大漁旗が掲げられたベタコテの内装。テーブルの上では客がコンロで魚介類を焼いて楽しむ…。こういった浜焼きや海鮮居酒屋がここ数年、急速な勢いで増えたが、そろそろ飽和感が出てきた。パフォーマンス的演出やスタイルよりも、気負わず、シンプルに魚を味わい楽しむという原点を明確にした傾向が強まっている。とはいえ単なるトラディショナルな和風業態への回帰ではなく、素材の特性を見据え、食材のあるべきポジションを追求した原点回帰といえる。東京駅向かい、八重洲のビル地下に出店した「魚屋の居酒屋 魚錠」。創業102年、業務卸部門、仲卸部門、外食事業部門、小売部門と4つの事業部を持つ愛知県の魚専門業・魚錠株式会社の東京初出店の店舗となる。魚専門の会社らしく、魚づくしのメニューが楽しめる。2~3人前で8種類の鮮魚が乗る「本気の刺し盛り」は980円から。その日のおすすめカマ焼きなど、各地で水揚げされる旬の焼き魚、煮魚、揚げ魚、寿司が並ぶ。同店は「本当の魚の美味しさ」をコンセプトに出店し、「魚の鮮度」「魚の旨さ」で関東NO.1を目指している。
オープンしたばかりの「魚真 四谷店」。専門性にこだわりながらも、カジュアルに魚料理を楽しめる海鮮業態を仕掛けた魚真グループの最新店。やはり、鮮魚の卸売を営む魚のプロである企業らしく、旬の魚にこだわり、刺身、焼きもの、煮ものといった、シンプルに魚を味わうことに徹した魚業態だ。四谷店では、従来の日本酒、焼酎に加え、ワインを充実するなど、ドリンクのバリエーションを持たせ、新しい魚ファン導入へと間口を広げている。鮮魚卸業といったような海鮮のプロばかりでなく、コア食材として魚を打ち出すことによって業態の付加価値アップを狙う次世代のオーナーや企業も少なくない。渋谷で若い世代に絶大の人気を誇る海鮮居酒屋「漁十八番」を運営する株式会社グッドスパイラルは、同じ渋谷に姉妹店「道玄坂 漁」をオープンさせた。「漁十八番」はトロ箱や大漁旗など、演出性も高めたタイプだが、こんどの新店は、環境も落ち着いた雰囲気で、じっくりと魚を味わうスタイル。メニューテイストは和に留まらず洋テイストへも広げ、ドリンクは日本酒に加え、ワインを強く打ち出している。
吉祥寺の「魚秀」。2010年8月にオープンしてから、まだ1年満たない店ながら、すでに予約なしでは入れないほどの話題店。魚真出身の次世代オーナーの頑なまでの魚へのこだわりが人気に反映されている。大磯で水揚げされる地魚をはじめ全国各地漁港から届く新鮮魚介類は、オーナー自ら漁船に乗り込み仕入れてきたレアものばかりだ。新鮮な刺身は当然として、炭火で焼く魚をはじめ、素材の良さをそのまま活かした魚料理が楽しめる。魚をキラーコンテンツとしながら、メニューに広がり持たせることで進化を見せる店もある。横浜の人気店「地鶏と相模湾の魚の店 湘南茅ヶ崎 道」が広尾に出店してきた。湘南名物の生しらすをはじめ、相模湾で揚がる魚と各地の魚介を組み合わせた魚を軸に、湘南の有機野菜、青森シャモロックなども売りにしている。マグロをコンセプトにした中野富士見町「城ヶ島マグロマート」もそのユニークさで話題となっている。ブランド三崎マグロの赤身、中トロ、ホホ肉、脳天といった部位を刺身で味わうマグロづくしの店だ。ホホ肉や脳天は岩盤焼で炙るといった技を見せる。川崎にはグローバルダイニング出身者が「雑魚マニア」をオープンした。築地に入らない地方の珍しい鮮魚を「鮮魚の達人協会」という組織の協力によって築地のルートで仕入れを可能にした業態だという。
魚業態といえば、急成長しているAPカンパニーの新業態の動向にも注目が集まる。同社は宮崎地頭鶏で自社養鶏場をつくり、店舗では商品開発を徹底するといった川上、川下の両面作戦で鶏業態の差別化に成功したが、こんどは魚業態でそれをやろうとしている。築地仲卸しブランドを手に入れ、朝獲れの鮮魚を提供する「日本橋紀ノ重」に続き、近く新しいブランドの業態をリリースする。乱獲や海洋汚染で生魚が消えるという「2048年問題」を見据えた業態だという。定置網漁の船ごと買い上げる仕組みのようだが、その仕入れや流通の革新に加え、「最高の魚を最高の方法で調理し、最高の味で提供する」ための商品開発に向けて試作に取り組んでいる。どんな魚料理が出てくるか楽しみである。魚という食材は奥が深い。私も最近、魚真出身者の恩地さんが経営する中目黒「魚哲」を訪ねた。旬の魚介が最高の調理法で出てくる。そのこだわりは徹底しており、まさにプロの技としか言いようがない。新世代のプロたちの手によって、魚本来の魅力を最大限に引き出した業態。それは古くて新しい「価値の満足」を追求する業態でもある。「おいしい魚の店、あります!」という原点回帰の動きに注目したい。

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