ツイッターやブログを見ていると、「今回の食中毒事件で、もう伸び盛りのチェーン店や若い経営者の店では外食したくない」という意見が増えている。たしかに死者4名を出したフーズ・フォーラスの罪は重い。企業の成長が最優先課題にあり、焼肉激安競争を勝ち抜くために「一皿100円」「280円ユッケ」などの戦略商品を打ち出した結果、粗悪な生肉を仕入れて提供するという“魔のサイクル”に突っ込んで行ってしまった。勘坂社長はディスコのバイト出身、飲食での起業を目指して節約ながら商社で働き資金を貯めたという。宅配便会社で働き、起業資金を貯めたワタミ創業者の渡邊氏のような美談ではないか。勘坂氏の創業期の焼肉店は安売りではなく、客の評判も悪くはなかったと伝えられている。では、どこで間違えたのか。それは、多店舗展開へ舵を切るときに、収益至上主義に走り、仕入れや調理、衛生管理をおろそかにしたことである。同社には、外食チェーンストア理論で有名なコンサルタントも入っていたという。焼肉のプロが不在のまま、“究極の効率化”を目指してコックレスオペレーションを導入したのだろうが、ここに「多店舗展開の罠」が潜んでいたに違いない。しかし、フーズ・フォーラス問題の露呈によって、すべての「外食ベンチャー」が危険であるという論調が広がるのは非常に残念だ。外食企業の成長には「3・10」の法則があるという。3店舗、10店舗、30店舗、100店舗、300店舗、1,000店舗へと多店舗展開していく過程で、それぞれに「成長の壁」があり、それを破って乗り越えるための「マネジメントの転換」が必要だという法則である。ベンチャー用語で言えば、3店舗までは「スタートアップ」、30店舗までは「アーリーステージ」。100店舗、300店舗、1,000店舗を目指すならば、このアーリーステージの10~30店舗の過程で、個人商店から企業組織へのマネジメントの転換が必要になる。人材、資金、食材調達などトータルな企業戦略を再構築しなければならない。大事なのは、その企業戦略構築にあたっての「企業理念」であり、目指すべき「ベクトル」である。トップがどういう理念で成長を目指し、どういう姿勢で経営にあたるのか、そこが問題なのである。フーズ・フォーラスに限らず、この成長のポイントで道を間違える経営者が少なくない。では、この時代の成長企業にとって、何が必要なのか。トップはどうあるべきなのか。それはやはり、徹底した「現場主義」だろう。「現場」とは、店であり、厨房であり、仕入れ業者の工場であり、生産者の農場であり、卸市場である。しかし、「物件視察」や「銀行回り」「IR対策」が現場だと勘違いしているベンチャー経営者があまりにも多い。それらももちろん必要ではあるが、食の安全・安心が改めて求められている現在、トップ自ら「食の現場」に足を運び、厨房やホールに立ち、そして客と同じ目線で自分の店を見つめなおすことが必要なのではないだろうか。多店舗展開をすることは、外食ビジネスの醍醐味である。しかし、顧客の支持があるからこそ店を増やせるのあって、カネや物件の力ではないことを思い知るべきである。トップは店を増やすごとに「謙虚な姿勢」にならなければならない。200店舗を超えてきた「鳥貴族」の大倉社長は、いまでもオープンごとに店の前に立てかける看板に「うぬぼれ中(営業中)」と自筆で書く。謙虚な姿勢を忘れないためだろう。「外食ベンチャー」の灯を消してはならない。
コラム
2011.05.19
「外食ベンチャー」は“悪”なのか?
「焼肉酒家えびす」フーズ・フォーラスが引き起こした「ユッケ食中毒事件」を機に、短期間で急成長を目指す「外食ベンチャー」すべてが悪"のような論調が一部にある。しかし、問題の本質は個々の企業体質やトップの経営姿勢にあるのではないか。"
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。