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コラム

飲食店も「個質の時代」が来る!

飲食マーケットが価値軸"へシフトするなか、カジュアルなワイン、日本酒の業態が増えてきているが、注意しなければいけないのは、品質を軽視する店が少なくないこと。「個」が重視される時代は、「質」が問われる時代でもある。"

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。


希少な銘柄のワインや日本酒を趣味的に飲むスタイルではなく、カジュアルに楽しむ時代が到来した。ワインブームが再来したからといって、高級ワインが飛ぶように売れるわけではない。低価格に慣れたいまの顧客は、1本のボトルに5,000円以上はなかなかおカネを払わない。最近増えているワインバルやカジュアルビストロなどの“がぶ飲み系”の店は、ボトル1本2,000~4,000円がボリュームゾーンだ。先日も料理をガッツリ出す某「ワイン食堂」へ行ってきたが、2,800円のボトルを中心に品揃えしていた。白を1本、赤を2本飲んだが、どれも美味しくない。品質の問題なのか、管理の問題なのか、いずれにしてもガッカリさせられた。私が想像するに、おそらくその店は取引先のビールメーカーや酒屋、もしくは質のよくないインポーターから、仕入れ値を基準に勧められるままに銘柄をセレクトしたに違いない。居酒屋からワイン業態に参入したり、ワインブームに乗ろうとして安易に開業した店に多い傾向だ。原価率だけを考えてワインを仕入れると、こうした粗悪なワインが出回ることになる。しかし、だからといって、ソムリエを置かなければならないということではない。最低限、オーナーなり、店長はワインを勉強し、試飲を重ねて、自分が旨いと思う品質のものを揃えないと、客はいずれ離れていく。「あの店はワインは安いんだけど、なんか美味しいモノがないんだよね…」といったレッテルを貼られてしまいかねない。日本酒もそうだが、ワインはあらゆる国のあらゆる種類のモノがあるだけに、そのなかから何を選んで出すのか、それがその店の質への評価に直結する。逆に言えば、ワインの品揃え次第で、その店の個性をつくり上げることができる。「個」と「質」がシナジーする「個質」を追求するというアプローチが有効になるのである。ソーシャルネットワークの普及によってますます「個」が重視される時代になる。そして、「個」が問われれば問われるほど、「質」が重要になるのだ。「個」と「質」は切り離せない「個質の時代」が来ているのだ。そんな時代に、ぜひベンチマークしたい店がある。ワインでは、西新宿のイタリアバール「ヴァンカーレ」。レストラン「タンガ」出身の大久保マネジャーはまだ27歳だが、ソムリエの資格をもっている。1階はスタンディングと奥のテーブル席、2階は個室の小さな店だが、ここのワインは安くて、本当に旨い。驚くのは300円、400円、500円のグラスワインでも絶対外れがないことだ。大久保さんのワインへの深い知識と愛情、そして優れた選択眼には感動すら覚える。そして、「ヴィンガール」から徒歩5分の西新宿七丁目にある日本酒の店「日本酒 兼ネル」。伊東氏が常にお客様との軽快な会話を心がけている。初めての人でも楽しく飲めるよう、会話のなかから得るイメージや印象によって嗜好傾向を考えて、その人に合った銘柄をおすすめしてくれる。清潔感のある小さな店のカウンターに立つオーナーの伊東さんは、証券会社に6年、その後、青山のレストランを経て、荻窪の日本酒の老舗店「いちべい」で約3年に渡り勉強を重ねた。「兼ネル」のコンセプトは、お客さんにとにかく楽しく日本酒を飲んでもらうこと。伊東さんの日本酒の特徴を表現する言葉がユニークで、力強い濃い味わいの日本酒なら“マッチョな体格、ゴリラのようなガタイ”の“おとこ酒”とか、“グラマラス、エレガント、スリム”系のしなやかな日本酒なら“おんな酒”というように、訪れる客を独特の表現で楽しませる。初心者のみならず、日本酒のファンも、その独創的でユニークな表現に、飲む前からイマジネーションに期待が膨らむ。伊東さんは語る。「日本酒とは、個々の感性で楽しみ、親しむもの。ですから、飲む前から先入観を持ってしまうような、典型的、画一的な印象表現には頼らないようにしています」。伊東さんが言うように、「個々の感性」で楽しめるのが日本酒やワインの特徴である。値段は安いほうがいいけれども、やはり一人ひとりの個人の感性を満足させる品質が求められる。「個質の時代」は小さな飲食店が復権する時代なのかもしれない。 

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