博報堂生活総研が打ち出している「トキ消費」の三要素は以下の三つ。
1、非再現性
2、参加性
3、貢献性
トキ消費は、まさしくその時、その場でしか体験できない「コト」である。「コト消費」が“いまだかつてない体験の提供”を重視したが、「トキ消費」は“二度と再現できない至高の体験”を提供せよ、という。また、その体験は一人ではなく、共有する仲間が必要で、「参加性」の要素も重要だ。さらに、“誰かの役に立っている”という「貢献性」も問われる。ここはいわゆるミッション性消費をあらわす「イミ消費」とも重なる。私は、飲食シーンでは、もう一つ「劇場性」という要素も加えたい。
では、飲食シーンでは具体的にどうのような「トキ消費」の現象がみられるのだろうか。いくつか取り上げてみよう。
・参加者限定レストラン(その日集まった人たちで一夜完結)
・クラフトビール開栓、日本酒蔵元招待デー(イベントではなく定期的に開催)
・クラウドファンディングによる新規オープン(イミとトキを投資者で共有する)
・ファストフードの期間限定キャンペーン(特定商品にイミをつけて期間限定販売)
こうした事例は、スマホとSNS時代だからこそ成り立つ。その集客手法は、FacebookやLINEで呼びかけることが必須条件だ。従来の広告手法とは異なる。
実例として、私が最近注目しているのは、以下のような動きである。
・“赤肉ムーブメント”をつくった「肉山」の光山英明さんのケース。いまやグルメの世界では“肉のカリスマ”といわれる光山さんだが、彼のFacebookでの一言がSNSと口コミであっというまに広がり、席が埋まる。「肉山」に“登山”することは憧れのトキ消費だ。最近は「肉山」が全国にライセンス展開で広がり、各地で“登山”がムーブメントになっている。光山さんがプロデュースした「肉と日本酒」(千駄木)は店主の呼びかけでその日の予約(人数限定の貸切型)が埋まる。
要町から広尾に移転した永島健志シェフの「レストラン 81」。その日のゲストが入店するとシャッターが閉まり、ステージのようなキッチンを鑑賞しながらコース料理の“公演”が始まる。ここはまさに「劇場型」のトキ消費の実例だ。神田駅ガード下の2.2坪の「六花界」で飲食デビューした森田隼人氏は、かなり前から「トキ消費」型で店舗を増やしてきた。「クロッサムモリタ」「トライリウム」などは、森田氏が声がけしたゲストだけが入れる仕組み。住所はもちろん、連絡先すらわからない。恵比寿にオープンした「東京おでんラブストーリー」。おでんを囲む屋台で男女が出会う。“その日限りの出会い”というトキ消費をを演出した店だ。「恵比寿横丁」の爆発的な賑わいも、出会いを求めて集まる「トキ消費」の一例かもしれない。あなたの店も「トキ消費」を先取りして、仕掛けてみてはどうだろうか。