JR中野駅の南口から徒歩1分、ここ数年でお洒落なバルや日本酒酒場などができているレンガ坂に、またひとつ個性的な店が今年1月オープンした。スタッフ全員が世界一周旅行の経験者という店「たびはちCAFE & KITCHEN root(ルート)」は、2階建ての古い民家を改装した居心地の良いカフェのような空間で、2階には1つの大きなテーブルを囲むテーブル席とちゃぶ台を囲む小上がりがある。「世界を旅してみて、食卓を囲んでみんなでご飯を食べてお酒を飲み交わすというのはいいなと、改めて思った」と話すのは同店のオーナー、原田信広氏だ。
原田氏はブレイクダンスやエクストリーム一輪車で日本人の代表になったという経歴の持ち主で、現在は秋葉原発信のフィギュアとトレーディングカードの店「ハビコロ玩具」を都内で8店舗経営しており、飲食業界には初出店となる。原田氏自身も1年間かけて42カ国を巡り、世界一周旅行をした経験者だ。「世界遺産などの景色も見てきましたが、結局、一番の思い出は人とのつながり。これは一生ものです」という原田氏は、これまでに音楽やトークのライブイベント「たびはちフェス」を開催して1200人以上を集めるなど、人とつながる場を創って来た。しかしイベントでは限界があると感じ、「いつでも誰が来てもつながれる場」として同店をオープンさせた。
料理の腕を振るうシェフは、世界を巡る豪華客船やスペインにある日本総領事館公邸で料理人を務めた後、自身も世界を旅し、縁あってこの店にたどり着いた。オーナーの原田氏によれば「旅をしていると日本食を食べたくなる。各国にある日本人宿では、現地の材料を使って何とか日本食を作っていました」という。このため、料理は日本の家庭料理が中心で、「ポテトサラダ」(380円)、「だし巻き卵」(580円)、「油淋鶏」(780円)、「熟成塩豚のオーブン焼き」(1180円)など和洋中華にこだわらず、四季折々の豊かな食材を使った白飯に合う料理を提供している。
また同店では、料理に「古来種」という野菜を使っている。これは日本各地で昔から作られてきた野菜で、時代とともに画一化された野菜が支持されるようになり、徐々に作られなくなってきたものだ。色や形は不揃いなものもあるが、味は個性的で美味しく、ここ数年で再び脚光を浴びるようになっている。3種類の塩と味噌マヨネーズで食べる「古来種と季節の野菜盛り合わせ」(680円)、自家製の出汁醤油で食べる「古来種と季節の野菜のお浸し」(580円)があり、いずれも野菜は日替わりになる。同店のスタッフは「今まで社会のレールに乗り、型にはまって生きて来ました。旅に出て型から外れ、いい意味で個性的になって。古来種と私たち自身がリンクする」としみじみ語っている。
「root」という同店名は、「o」が2つで無限大のように見えること、旅の「ルート」という言葉にもつながること、そしてこの場所に「根をはる」という様々な意味が込められている。オーナーの原田氏は「中野は住む人もたくさんいて『ただいま』と帰って来れる街。地域密着の店にしたかったから、この街を選んだ」と中野を出店場所とした理由を語った。今後は、帰宅途中の人などが気楽に立ち寄ってくれる大衆食堂のような店を目指したいという。中野に登場したこの新たな場が、人と人とを結ぶ架け橋となっていくだろう。