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コラム

【シリーズ】地方の飲食店動向を追う(2)京都、金沢、富山編

9月4日から、京都一泊、金沢一泊、富山一泊の取材旅行を行った。「地方の進化系業態を見に行く旅」を続けています。東京トレンドがどう地方に移植しているのか、または地方発の新業態の息吹はないか、などが取材テーマだ。多くの飲食店オーナーたちとの出会いも地方取材の醍醐味だ。

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。


京都は伏見、日本酒のメッカである。今回の京都をアテンドしていただいたのも日本酒の品揃え、蔵元とのネットワークでは定評のあるいなせやの高田佳和さん。高田さんは京都市内で「いなせや」「馳走 いなせや」「おすし 魚戸 いなせや」「旬・炭火焼 んまい」「日本酒専門店 いなせや六角店」の4店舗を経営。バリ島のホテルで和食店をプロデュースするなど海外でも活躍している。その高田さんが「いま京都の日本酒専門店で最も斬新なスタイルの店」として案内してもらったのが「益や酒店」だった。白を基調としたシンプルモダンな内装。変型三角形のスタンディングテーブルの先にはコの字型カウンターがある日本酒バル。そのカウンターの中に立つのがオーナーの益田藍さん。高田さんの店で日本酒を学んだという。壁一面に架けられた黒板には、日本酒の味のマトリックス表、日本酒用語の英語訳などが白いチョークで描かれている。インバウンド外国人客を狙ったわけではなく、そのままニューヨークのマンハッタンやブルックリンにあっても不思議ではないスタイルの日本酒バル。和食文化、料亭懐石文化が根付き、日本酒ブームが来ても新しい波には保守的だった京都の日本酒スタイル。そこに飛び抜けたネオ日本酒バルの登場。私も驚かされた。非常に印象に残る1店舗だった。200銘柄を常時揃える「壱」もカウンターは立ち飲みスタイル。やはり日本酒文化は京都から、という矜持が感じられる店。日本酒ブームは、京都飲食人の日本酒愛を呼び覚ましたのかもしれない。

京都から金沢までは特急サンダーバードで2時間10分。金沢駅は3月の北陸新幹線開業がどう飲食マーケットに影響を及ぼしているか見たかった。新幹線開業とともにオープンした駅ビル内の飲食、食物販のモール「あんと 100bangai」。飲食は、“ザ・金沢”が揃って出店。「ゴーゴーカレー」「8番らーめん」「まいもん寿司」。「まいもん」は、席数14席で1,500万円を売っているとか。金沢で有名なおでんの「黒百合」。アッパー系ではひがし茶屋街で人気の鮨屋「みつ川」が「鮨 歴々」を出店。石川県の地酒が有料試飲できる「地酒蔵」もあった。金沢をアテンドしてくれたのは、石川県最大のローカル情報誌「月刊Clubism」「月刊金澤」などを発行する「金澤倶楽部」の北山惣一さん。北山さん曰く「新幹線開業で変わったのは駅ビルの飲食と近江町市場の観光客増。近江町市場の海鮮丼の価格と内容のバランスをぜひ見てほしい」。地元客の日常的な買い物の場所としても賑わってきた近江町市場。いまはインバウンド含めた観光客で昼間から人で溢れかえっていた。目当てはもちろん新鮮な魚介類。それを扱った「海鮮丼」もこの市場の名物だ。しかし、確かに一杯2000円平均と強気な価格帯。北山さんとしては、もう少しリーズナブルに金澤の名物を味わってほしいという気持ちが強いようだ。

そんな北山さんが「いま金沢で人気沸騰中の新しいご当地めしがある」と連れていってくれたのが「のど黒めし本舗 いたる」。金沢では人気の居酒屋「いたる」の新業態だ。のど黒の切り身を贅沢に持った釜飯スタイルで、まずはそのまま、次に薬味をかけて、〆はのど黒出汁をかけて食べるというストーリー付き。名古屋のひつまぶしのような食べ方だ。これがいま大人気にで、開店前には長蛇の行列ができる。私も試食したが、これは東京に持っていっても通用するだろうと思った。金沢発ご当地めしとしてチェーン化も可能だろう。金沢ソウルフードに「おでん」がある。発祥は50年前ほどで、老舗の大衆割烹が出し始めたところ大流行したことから、おでんの店も急増したという。いまでも名店といわれるところがいくつかある。タネは金沢らしく高級感とこだわりがある。小さなかにの殻に、かにの身やカニミソを詰めて蒸した「蟹面」や「「バイ貝」「車麩」「ふかし」「たけのこ」「赤巻」「里芋」など。そんな昔からあるおでんを進化させたニュースタイルのおでん店「ちくわ」に北山さんが案内してくれた。オレンジカラーの暖簾をくぐると、ロングカウンターが広がる。内装はシンプルでバルのようなイメージ。カウンターの中でおでんを扱うのがオーナーの平田賢太郎さん。平田さんの名刺には「温故知新」とある。「新しいけど、懐かしい味の提供」がコンセプト。出汁はもちろん、練り物を始めとしたネタも手作り。日本酒の提供法もワイングラスで出すなど新しい。ニュースタイルの「おでんバル」といったところか。京都と同じく保守性の強い飲食マーケットのなかで、ネオ金沢スタイルを発信していく、若きオーナー平田さんのそのポリシーに感動した。

金沢でもう一人、注目すべき飲食オーナ―に会った。元グローバルダイニング副社長の河村征治さんである。2005年に新川さんの後を受け継いで、28歳にして長谷川耕造さんから副社長に抜擢された逸材。18歳でフレンチの「北島亭」に入り、フランスアルザスにも渡った料理人上がり。帰国後は三菱商事のグループで外食ビジネスを手がけ経営マネジメントを学ぶ。24歳でグローバルダイニングに。バイトからスタートし、渡邉明さんの下で料理長も。ラ・ボエムチームで実績を上げ、新川さんの目に止まる。新川さんの下で沖縄店やマカオ店など地方、海外の立ち上げのリーダーをつとめる。2011年にグローバルダイニングを退社、故郷の金沢に戻り、ハンバーガー店「ワンダフルバーガー」を開業。それが当たり、一時は5店舗まで展開。しかし、そこで一度躓く。4店舗を整理し、ハワイアン業態をオープン。パンケーキやエッグ料理などネオハワイアンを仕掛け、ヒットさせる。そこから、地域、マーケット、物件にマッチした業態を次々に開発し、ハワイアンカフェ「ティキガーデン」、地中海料理「オリーブオイルキッチン」、カフェテラス&ビアガーデン「サブリナ」、ピッツア「サンカルロ」などを着実に育て上げてきた。手作りピッツアの冷凍商品通販「森山ナポリ」の事業もヒット。通販サイトにあえて乗せない戦略で現在、月産1万枚、1000万円を売っている。直近では、“土鍋パエリア”を売りにした「近江町バル」もオープン。「森山ナポリ」のような冷凍パエリア通販事業にも乗り出す。東京駅、新宿や銀座、仙台などでプロデュース案件、業務委託運営案件も手がけ、12月には“小鍋パエリア”を武器に六本木アパホテルの1階にも出店する予定。金沢ローカルを深掘りし、イートローカル、イートグッドをコンセプトに、豊富な料理人人脈を活かし、様々な場所で様々な業態を発信していく。富山にも進出、90坪の「オリーブオイルキッチン」、50坪の和食店舗を出す計画だ。さすが元グローバルダイニング副社長。まだ38歳。河村さんのこれからの活躍からは目が離せない。

北陸新幹線で金沢から富山まではわずか20分。これまで観光は金沢に押されていたが、「20分なら金沢のついでに富山に寄ろう」という観光客や出張族が増えているに違いない。富山駅にも新幹線開通に合わせ、食物販と飲食の商業施設「きときと市場 とやマルシェ」がオープン。名物の「白えび」を出す店や氷見うどんの店、回転寿司の見せに並んで、東京から「方舟」グループが出店していた。「方舟」グループのセオリーの原誠志さんは北陸と新潟の日本酒、農産物、魚介類をコンセプトにした居酒屋、和食店を都内に展開してきた。いわば“逆上陸店舗”だ。富山市内の飲食エリアは「駅前」、歓楽街の「桜木町」、地元に根付いたショッピングアーケード街「総曲輪(そうがわ)町」にわかれる。最近、新しい店が増えているのは駅前エリア。その一角にある大衆酒場「わいわい酒場。あんぽんたん」のオーナーに会いにいくのが今回の富山取材の第一の目的だった。富山飲食オーナーのなかでおそらく一番アンテナの高い布村充司さん。彼の発信する“ネオ大衆酒場スタイル”の店が「あんぽんたん」。オープンしてまる4年目。地酒に加え、ヴァンナチュールも打ち出した“イートグッド”な大衆酒場。「最初は、地元から受け入れられませんでした。こういう楽しさを売るオープンでカジュアルな店はなかったですから…」と布村さん。やはり富山の飲食マーケットも保守的。しかし、あえて地方にないニューウェーブ、ニュースタイルの業態をつくる。その彼のチェレンジ精神には注目したい。2店舗目は新しいスタイルの日本酒専門店をつくりたいと語る。

布村さんの呼びかけで「あんぽんたん」に富山の飲食オーナーたちが次々に集合。焼肉「大将軍」3店舗、富山では珍しいサムギョプサルの店「BUTAMAJIN」ほか、精肉卸も手掛ける本田大輝さん(まだ28歳)。囲炉裏スタイルの日本酒専門店「醸家」の横田裕亮さん。富山湾魚介類を出す「SASAYA」、やきとんと豚しゃぶの「源氏 とん太」などを経営するキトキトカンパニー堀哲也さん。そして翌日には、手羽先居酒屋チェーン「てば壱」、熟成肉を提供する「ビストロマルシェ ゴッツォーネ」など市内に20店舗を展開するビーラインの嶋智弘さん。白えびに特化した水産業、水文の水上剛さんも合流した。水上さんは「じとっこ組合」のFC店、白えびを売りにした居酒屋「こし」も経営している。そんな彼らの間でも、富山新参者でありながら予約の難しい繁盛店として一目置いているのが「吟魚」という店。魚新グループ出身者の小山崇さんが、奥さんの実家のある富山に出店。オープンして2年目になる。店舗デザインはスタジオムーン。福岡と同様、富山でも新世代経営者にはスタジオムーンのデザインが注目されていた。布村さんもスタジオムーンのスタッフと2号店の構想を練っている。富山飲食オーナーたちは「新しいことにチャレンジしたい」というベンチャー精神をもっている。富山弁で「きときと」(新鮮で精力的という意味)している。せっかく集まった飲食オーナーたち。私が「富山きときと会」と名付け、今後も会合を重ね、切磋琢磨して富山飲食を盛り上げていこうという会。私自身も初めての富山取材で、彼らから大きな刺激をもらった。「地方から飲食店オーナーたちが飲食トレンドを発信していく」。そんなネットワークを全国につくりたい。真剣にそう思った。

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