
【お話を伺った株式会社BIRCH 代表取締役の高橋 光基さん】
大山:高橋さんは、どういう経緯で飲食業に入ったんですか?
高橋さん:2019年の6月に創業したんですけど、その創業する前は先輩が独立されていて4店舗ぐらいの頃から70店舗ぐらいのところで2年間経験させてもらったんです。
大山:どこの会社ですか?
高橋さん:「酔っ手羽」を買収したS.N.H株式会社ですね。僕が入社時に「2年後に独立したいです」って話をさせてもらっていて。その後、社内か社外かって話だったんですけど、僕は自分の仕組みでやりたかったので「社外でやらせてください」っていう話をして、コロナ前に創業したっていう感じですね。
大山:S.H.Nさんにいらっしゃったんですね。「酔っ手羽」の買収は、コロナ直前でしたもんね。
高橋さん:そうですね、直前でしたね。
大山:では創業は(「酔っ手羽」買収と)同じくらいの時期だったんですね。
高橋さん:そうですね。2019年6月に創業したタイミングで3店舗やらせてもらって、その年に2店舗オープンして合わせて5店舗できたんですよ。初年度に5店舗ぐらいできたんですけど、そこでコロナになってしまって、赤字になるっていうストーリーはありました(苦笑)。

大山:その時は、まだこの業態(テルマエ)はできていないんですか?
高橋さん:できてないです。この業態ができたのが2021年の11月15日オープンの名古屋店なんですよ。2019年の12月に会社として1000万ぐらい利益出て「あ、これいけるな」と思ってたんですけど、いきなりコロナになっちゃって、マイナス1000万の赤字になって(汗)。融資受ける直前3ヶ月ぐらいで倒産するぐらいまではいきましたね。なんとか融資を受けられて、その後にテルマエができるまで、やっぱり半年~1年ぐらいは僕ら時間がかかったんですけど、今隣にいる門田取締役が途中からジョインしてくれて、彼が福包酒場のFCに入るということで加盟したりして、徐々に徐々に回復していったという感じでしたね。
大山:福包酒場なんですね。どこの店舗ですか?
高橋さん:渋谷店です。
大山:おー!渋谷店上手ですよね。写真に女性スタッフを映り込ませたりとかキャチーですよね。ああいうイメージがお上手ですよね。
高橋さん:それで、その後テルマエができたのは京浜東北線に門田と乗ってる時に『蛇口からお酒が出てきたら面白いんじゃないか。本物の蛇口から』っていうアイディアがあって。当時ときわ亭も加盟してたんですけど『サーバーじゃなくて、リアルな蛇口をくっつけて飲み放題を出したら面白いんじゃないか』っていう話があって、従来の他の企業さんとはやり方が違う『店の一角に集めて出すっていうことを突き詰めると、面白いことができるんじゃないか』っていうのにストーリー性を入れて出来上がったのが、2021年ですね。電車で話してから1ヶ月後ぐらいにはオープンまで行けたので、そこから300万円ぐらいだったお店が1000万円ぐらい今日も生み続けていってます。
大山:とんでもないアイデアを形にするのが、すごいですね(笑)。テルマエの創業店はどこですか?
高橋さん:名古屋ですね。名古屋で当時空中階の6階で飲み放題だったんですけど、それを変えようっていう話になって、それをテルマエに変えました。
大山:そのスタイルにしたのはどういう経緯だったのですか?
高橋さん:安いけれども、ストーリー性がある業態を作りたいと思って。エンターテインメント性が高いものを、と。コロナ後にコト消費と体験消費が増えるだろうという予測を僕らが立てていて、体験消費で安いものをやるとブルーオーシャンだってことに気づいて。なので、2500円ぐらいの客単価でストーリー性があって、機能的便益が高い業態を作りたいと考えたのがテルマエのスタートなんですよ。そこからストーリー性を作るために蛇口っていうものがある。蛇口でお酒が出てくる。『温泉みたいにお酒の泉を発掘した』っていうストーリーにしようっていう話が出て。
大山:素晴らしい!まさにペルソナ設定ですね。ペルソナ、ストーリー設定から入ったのですね。
高橋さん:そうですね、ペルソナ設定は若い子ですね。コロナ中に飲み歩いている子は若い子しかいなかったので、当時は若い子を狙ってって感じですね。
大山:そうすると、ちょうど新時代さんのような低価格居酒屋とも被らないし。新時代と真っ向勝負したら勝てないかもしれないけどストーリー性があれば・・といううまいところに入っていったんですね。
高橋さん:そうですね。僕らは空中階みたいな業態を作るっていう要件を入れていたんですけど、名古屋店が6階で、老舗があんまりなかったので、やっぱり当時はSNSで集客するっていうことが本当に必要だろうって話になったので、集客の方法だったりとかは結構違うと思っているのと、うちの推しは飲み放題が日本最安値ぐらいでいけているのかなと思っていて。そこの訴求です。なので利用動機も客層も新時代さんだったりとか、とりいちずさん、鶏ヤローさんともまた違うというか。
大山:1号店が2021年の11月で、そこからどういう展開になってくるんですか?
高橋さん:そこからテルマエができて2022年〜2023年で9店舗ぐらい出したかな。ここから2~3年でとにかく出さないと、赤字が1000万円あったので減らないじゃないですか(苦笑)。1店舗1000万円売っても、残り600万円ぐらいいるなみたいな。
大山:名古屋の後は、どのような場所で出したのですか?
高橋さん:まず名古屋で、その後は所沢ですね。所沢、渋谷、池袋、栄、川崎、大阪、金山、大宮、すすきのと出しましたね。
大山:すごい。立て続けにオープンしていくわけなんですけど、立ち上がり、業績としてはどうなんですか?
高橋さん:うまくいかなかった店でというと、既存店の海浜幕張にお店があったんですけど、かなり低コストでテルマエの蛇口だけ付けて作ったんですけど、世界観は洋風居酒屋でそのままなんですよ(笑)。かなりケチっているのもあって苦戦したんですが、なんとか千葉店が出た時に同時にバズって、売り上げが黒字にはなったんです。今年漏水工事が起きてしまってそれで、ついにもうこれ無理だと。このまま投資してしまうと回収ができないかもしれなくて、業態を居酒屋に変えるっていう海浜幕張ぐらいですね。他はうまくいってないところでいうと、今はないですね。
大山:すごいですね。だからほぼ開けたらドンといけたっていう感じなのですね。
高橋さん:ここ(下北沢泉)が比較的伸びが遅くて、2月か3月は多くなったんですけど8月時点の売り上げが28坪で600万ちょいちょいなんですけど利益が100万円ぐらい出るんですよ。テルマエの業態の強みって、フードとレイバーコストの安さなんですよね。蛇口に自分でお酒を注ぎに行ってくれるので。だから利益がしっかり出るというところがポイントですね。
大山:具体的にこのメニューの特徴、システムを聞きたいんですけど、まず飲み放題は1時間〜ですね。
高橋さん:1時間、90分、2時間も選べます。398円だと完全セルフ。セルフ以上のプランは鍵付きの蛇口が捻れる。一番上のプランはビールとか銘柄のもの、八海山とかも全部飲み放題でついてますという感じです。


【1時間698円プランからは鍵付きプレミアムドリンクも飲み放題という工夫がおもしろい】

大山:これでドリンクのコストっていうのは、全体のどれくらいなんですか?
高橋さん:ドリンクのコストは10%ぐらいですね。
大山:すごいですね。何杯想定みたいなデータは取れてるんですか?
高橋さん:取れないんですよ。多分、一般的な飲み放題が4.4杯だと思うんですよ、1時間で。うちの滞在時間が90分から2時間の間が平均的に多いんですよ。渋谷だと短かったりするんですけど、3~4杯ぐらいだと思うんですけどね。
大山:でも、このウケている理由っていうのが、昔の居酒屋だと宴会プランは決まっていては2時間は閉じ込められるみたいな感じがあったけれど、こうして1時間からにしたっていうのは、気軽に利用できていいですよね。
高橋さん:1時間にしたかったのは、単純に安く見せたかったからっていうのはありましたけどね。90分の方が利点は正直ありますね。でも安く見せたいからですかね。うちのメニューもそうですけど、細切れで安く見せるっていう。株式会社FS.shakeの遠藤社長はかなり参考にしていました。「ここのお店はすごく細かく売ってるな、唐揚げとか一個あたりから売ってるな」とかっていうのを勉強させてもらったりしています。
大山:他メニューのこだわりや特徴を教えてください。
高橋さん:ここ(下北沢泉)が、最新バージョンなんですよ。

生で食べれるハンバーグを開発しまして。馬肉でできているんですけど、隠し味が色々入っていて原価が安くてうまい状態で、生で食べれるっていう。

あと、温泉っぽい風呂桶を使ったメニューがかなり人気で、こういった頼むだけで楽しくなるようなワクワクするようなメニューっていうのは意識していますね。

なので、いろいろ去年までのメニューは土建屋さん出身のうちの本部長が作ってた感じでしたが、今年から知り合いのミシュラン一つ星レストランの友達がいるんですけど、本部長と一緒に作ってくれたメニューですね。半年ぐらいかかりましたね。
大山:商品開発の力を得たのですね、それはいいですね。
高橋さん:前回までのメニューはかなり素人感満載でしたけど、今回からはだいぶ良くなります(笑)。あと、ストーリー性の漫画を書いているんですけど。

大山:こういうのが、面白いですよね。
高橋さん:彼(初代テルマエ)はお父さんが死んでしまったときの約束から始まって、今も生き続けてますよっていうライブ感。彼がたまにLINE配信したりとか、酒泉見つけてきたよって月替わりメニューやったりとか、あとは最近力入れているのは、ご当地酒泉。ここでしか飲めないお酒っていうのをどんどん地方に作っていくことにしていて。
大山:それはいいですね。
高橋さん:神戸でやっているんですけど、甲子園タイガー酒泉で、黄色いお酒なんですよ。広島に行ったら赤いお酒出そうとか、そういった地元の人たちに愛されるような企画を1つ作っています。

【下北沢泉限定はキウイ味。古着の街らしく名前はヴィンテージ酒泉】
うちの業態コンセプトは、昔の大衆銭湯のように「ALWAYS三丁目の夕日」を思い出してほしいんですけど、映画では小銭を握りしめて銭湯に行ってて、僕らはそれを経験してないですが、おそらくあそこは社交場だったのかなと。
近所の人たちに出会って、たとえ小さいお金でも、人と関わることができなかった人がそこに行くとさまざまな人に会ったり、地域の社交場になる。それを銭湯×大衆居酒屋の業態で再現したいっていうのもあって席が狭かったりとか。仕事の出会いでもいいし、男女の出会いでもいいですし。蛇口にお酒を注ぎに行くことでそんな事が起こりやすくなったりすることがあったので、そういった体験価値っていうのはかなり重要視しています。風呂桶でお酒を作ってもいいですよ、だったり。

【店内に一歩足を踏み入れるとそこは老舗の温泉にトリップしたかのようなこだわりの店内(下北沢泉)】

【たくさん飲みたい人は風呂桶にお酒を注いでテーブルで飲むことも可能】
大山:今で客単価は、どれくらいですか?
高橋さん:2500円です。最初すごい悩みました。このシステムにするか。けど他になかったので、とにかく楽しくさせようって考えたのがストーリーですね。焼酎しか出てこないとかってお店はあるかもしれないですが、それはちょっと悲しいなみたいな。
大山:高橋さんは、ブランドとか業界を作るのが得意なのですね。
高橋さん:僕、アイディアを出すのは好きですよ。得意だと思います。僕が今ブランドを作っていますので、まず直営で成果を出して「利益率が⚪︎%以上出る」とか、一定のラインになったら「フランチャイズさんに落としても大丈夫だよね」とかになってきたらやろうかなと思います。あとは外交的なとこですかね。役割で言うと、僕はもっぱら外ですね(笑)。
大山:パッションですね!
高橋さん:僕、パッションキャラではない気がしますけど(笑)、結構アイディアが好きです。結局、アイディアって何か×何かの集合体でしかないと思った時に、定義に分けて僕は構造的に思考することがすごい大事だと思っています。仕掛け合わせたらこういうことになるようにっていう組み合わせを結構考えます。
大山:意識している業態とか、会社はありますか?
高橋さん:この業態のコンセプトっていうのが表になってるんですけど、銭湯やテーマパークの可処分時間じゃないですけど、それを奪い合ったりとか、テーマパークみたいな体験価値を意識して作っています。もちろん居酒屋さんもベンチマークしてます。
大山:あんまりじゃあ同業の飲食店とか、別に意識はしていないのですね?
高橋さん:被るは正直ないですね。今のところ。あれ(蛇口サーバー)がないので。広義で言うとあるのかもしれないですが、この客単価で、飲み放題の値段をこの価格でっていうところは多分ないんじゃないかなって。
大山:ただの大衆酒場じゃない、自分たちで価値をつけているところがポイントですね。
高橋さん:そうだと思っていますね。『居酒屋に行こう』じゃなくて『テルマエに行こう』と言われるように目指しているんですよ。
大山:素晴らしいです。最後に、これからの目標として数値的に定めてるものあるんでしょうか?
高橋さん:はい。テルマエは3年以内に121店舗にしたいっていうのが目標です。日本全国でです。海外展開の可能性も一応ありなのかなって話が出てきたので、進めています。国内で121店舗に戻ると30店舗前後が直営店で、90店舗ほどはフランチャイズ、パートナー企業さんに出店していただきたいと思っています。僕らが新しい業界をどんどん作っていった時に『BIRCHと組んで良かったな、高橋君で良かったな』と思ってもらえるようなフランチャイズ事業を理念に据えていて、僕らが業態をどんどん作った時に『やりたいです』って言ってもらえるような業態を作っていって、それをパートナーさんと一緒に世界中に店を出すっていうのが目標ですね。あとは、飲食業界の社会的地位を向上させる事ですね。そのためにも生産性の高い業態を作っていく必要があると考えています。
大山:ありがとうございました!
編集後記
穏やかな語り口調でとてもクレバーな印象の高橋さん。テルマエが大ブレイクしていますが、コロナ禍で大ピンチに陥ってからの大逆襲とは全く知りませんでした。ただ安売りをするお店ではなく、業態に価値をつけるためにペルソナ設定をして、さらにストーリー設定をすることで「テルマエに行こう」、そうお客様に選ばれる業態へと成長しています。新時代の外食経営者としてこれからも応援していきたいと思います。(聞き手:大山 正)
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