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スペシャル企画

人事労務カンファレンス「SmartHR Next 2018」 パネルディスカッション「サービス産業が抱える課題と変革推進のポイント」レポート

株式会社SmartHRが開催した「SmartHR Next」は、人事労務の働き方改革をテーマにしたイベント。超高齢・人口減少社会で生産年齢人口が減少する中、「働き方改革の推進」や「生産性向上」が推し進められ、舵取りを担う人事労務業務の効率化が重要となっている。そんな中、今年初開催となった「SmartHR Next」は、有識者のパネルディスカッションや、参加型ワークショップ、来場者の交流・情報交換によって、明日から取り組める施策を学び、活かし、働き方改革の明日を創る”等身大”のイベントだ。

【概要】
日時:2018年9月11日(火)12:30~
場所:東京都中央区京橋3-1-1 東京スクエアガーデン 5F 東京コンベンションホール
※入場無料
https://smarthr.jp/next/


今回は、「SmartHR Next」内で開催されたパネルディスカッション「サービス産業が抱える課題と変革推進のポイント」の様子をレポートする。

■スピーカー
・スープストックトーキョー 取締役 兼 人材開発部 部長 江澤身和氏
・ベイクルーズ 人財統括 取締役 CHRO 梶村 努氏
・元 エー・ピーカンパニー 取締役副社長 大久保 伸隆
■モデレーター
・リクルートワークス研究所 研究員 城倉 亮氏

城倉:本日モデレーターを務めさせていただく、リクルートワークス研究所の城倉です。リクルートワークス研究所は、働き方や雇用に関する研究機関でして、2016年度からサービス産業の働き方に着目した研究プロジェクトに取り組んでおります。本日はどうぞ。よろしくお願いいたします

江澤:スープストックトーキョーの江澤です。2005年にスープストックトーキョーに、アルバイトとして入社しました。その後、正社員となり、店長、マネージャーなどを歴任したのち、現在は取締役と兼任しながら人材開発部に所属しています。本日は働き方がテーマですが、現場出身の視点からお話ができればと思います。

梶村:ベイクルーズの梶村です。私は大学卒業後、コンサルティング会社で7年ほど勤務した後、サービス業およびIT企業で人事・経営企画の仕事を経て、2013年ベイクルーズに入社しました。2014年より役員として人財統括の責任者をしております。ベイクルーズは直近5年で店舗数が150増え、売上も300億円以上伸びました。そのように会社が大きく成長するなか、試行錯誤してきた内容をお伝えしたいと思います。

大久保:「塚田農場」などを展開するエー・ピーカンパニーにいた大久保です。エー・ピーカンパニーは7月で退職し、現在は独立しています。私は大手不動産会社からエー・ピーカンパニーに入社し、同社がベンチャー企業から大手企業になるまでを見てきました。店長や取締役、副社長を経て独立し、会社の中ではさまざまな立場を経験してきましたので、いろいろな側面からお話ができると思います。

サービス産業における働き方改革に必要なものは?

城倉:パネルディスカッションに入る前に、私から、現在のサービス産業における働き方の課題を皆さんと共有したいと思います。

す近年、全職種で求人倍率は高まっていますが、特にサービス産業の求人倍率の高さには目をみはるものがあります。厚生労働省の一般職業紹介状況のデータによると、サービス産業の代表的な職種である「接客・給仕の職業」の有効求人倍率(パートタイムを含む常用)は、2013年は2.26倍だったのに対し、2017年には3.85倍にまで上昇しました。2017年の全職種の求人倍率が1.35倍であることを考えると、サービス産業は深刻な人手不足の状態であると言えます。

またリクルートワークス研究所の調査では、、飲食業界では約6割が、「人手不足が事業に影響が出ている」と感じているというデータもあります。

このような人手不足の要因の一つとして「働きやすさ」が阻害されてしまっている状況決があります。サービス産業は労働時間が長くなる傾向があり、飲食業界の人の約6割が週45時間以上働いているという調査結果もありました。

一方で、サービス産業で働く人ので「働きがい」はどうなっているのか。働きがいのひとつのカギとなるのが「自己裁量」の有無です。同じくリクルートワークス研究所の調査では、「自分の仕事には自己裁量がある」と思う人は、サービス業の職種では3割と、全体、と比較して低い数値にとどまっています。す

「働きやすさ」と「働きがい」の2つのアプローチ

このことから、サービス産業での働き方改革には、「働きやすさ」と「働きがい」の両面からのアプローチが必要であると考えられます。長時間労働を是正して「働きやすさ」を整備し、自己裁量を高めて「働きがい」を作り出すことの両方が必要なのです。

では、ここからは各社の働き方に関する具体的な取り組みについて聞いていきましょう。

エー・ピーカンパニーの「権限移譲」と「就活支援」

大久保:私が以前勤務していたエー・ピーカンパニーが運営する「塚田農場」では、主にアルバイトスタッフに向けて、働き方に関する2つの大きな取り組みを実施していました。それが、「権限移譲」と「就活支援」です。

「権限移譲」とは、社員・アルバイト含め、スタッフ全員で一組のお客さまに対して400円分、“何かしらを自由にサービスしていい”という権限を与える取り組みです。

スタッフにとって、店舗の、内装デザインからメニュー構成、接客応対など、すべてが他の誰かに決められている状態では、自分が仕事の主役だという意識がうまれない。そこで、400円分は、自分の裁量で自由にサービスできる権限、通称“ジャブ”を与えたのです。

しかし、ただ権限を与えるだけではうまく機能しません。遊び心が必要です。少しずつお客さまに近づき感情を移入させて、ここぞ、というところでジャブを打ちます。

ジャブにも6つの基準を設けました。自由度がありながらも、自分たちの会社らしいサービスになるように仕組みを整えたことで、この「権限移譲」はうまくいったのではないかと思います。

就活支援で大学生スタッフを確保

そしてもうひとつ、私が在籍時に発案したのが「就活支援」です。これは私が店長だった際、大切な戦力である大学生アルバイトが、就活の時期になるとシフトに入れなくなってしまうという悩みから発案した制度です。

この制度ができる以前にも、私は個人的に就活をしているスタッフのエントリーシートの添削や面接の練習に付き合っていました。そのときは、「必ず内定が取れるように手伝うから、代わりに週3回シフトに入ってね!」とお願いしていたんです(笑)。「就活支援」は、それを全社に拡大した取り組みです。会社ぐるみで就活生を支援するシステム「ツカラボ」を作りました。

その結果、大学生アルバイトの在籍期間が1.87倍伸び、離職率が半分近く減りました。会社にとっても嬉しいし、就活生にとってもアルバイトで稼ぎながら就活できるのは嬉しいことですよね。

さらに、「塚田農場」のアルバイトを優遇する企業と就活生のマッチングの場所も設けました。企業の採用コストは削減され、就活生も効率的に就活をすることが可能になる、win-winの仕組みです。

城倉:素晴らしい取り組みですね。梶村さんはこの「ツカラボ」の取り組みについて、どう思われますかが?

梶村:数年前にテレビの特集で、エー・ピーカンパニーの就活支援の取り組みを見たときはとても印象的でした。この仕組みのすごいところは、企業と学生のマッチングまでモデル化したこと。一体どのように実現したのでしょうか?

大久保:実はある上場企業の人事の方から提案をいただいたんです。「塚田農場」でアルバイトしている子をぜひ採用したいと。それがきっかけとなって、この制度を立ち上げることができました。

城倉:ありがとうございます。続いて、スープストックトーキョーの取り組みについて江澤さんより、お願いします。

江澤:まず、当社の企業理念は「世の中の体温をあげる」なのですが、現場も営業も人事も、この理念をすべての取り組みの物差しとしています。

私はアルバイトから入社しましたが、上司から見たら、なんでも”イエス”というタイプではなく、当時から現場目線で「ああしらたいいのに」「こうしたらいいのに」と考えていました。色々な立場で働いてきましたが、現在は人材開発部を任される中で、店長一人が悩む悩みを、会社全体で改善していくことが大切だと思っています。

課題解決の方法として、当社では「どうありたいか」を具体的に描きます。足元のできていないことではなく、理想や描きたいシーンを第一に考え、そこに行きつくための方法を考えていきます。

私が取締役兼人材開発部部長に就任したこの2年半で、人事制度(等級・報酬)、教育制度、コミュニケーション、採用企画、複業制度……など、いくつかの施策に取り組んできました。その中の一部を紹介します。

休日・休暇増&複業解禁で進める「働き方開拓」

そのひとつが、「生活価値拡充休暇」です。営業時間が長い特徴があるなかで、メリハリをもって生活してもらうことが目的です。休みを増やし、長時間労働を脱却したい。そのため、社員の休みを取るための特殊部隊を社内に結成しました。特殊部隊がヘルプとして出動する仕組みです。結果として人件費は増えましたが、社員の年間休日・休暇を120日に増やすことができました。

さらに、「ピボットワーク制度」も実施しています。この制度では、スープストックトーキョーでの仕事を軸足に、複業をすることを解禁したんです。当初、複業によって人材の流出が懸念されましたが、万が一辞めてしまったとしても、その原因は(複業ではなく)そもそも会社が魅力的ではないからであると考え、実施に踏み切りました。

「生活価値拡充休暇」と「ピボットワーク制度」、このふたつをセットで取り組むことが重要だと考えています。単に休みを増やすだけでなく、そこで生まれた余裕を活用し、社員一人一人がスキルや経験を伸ばし、自分の「働く」を拡げていくチャンスにして欲しい。

そのため、弊社では、「働き方改革」ではなく「働き方開拓」と銘打ち、新たな取り組みを行っています。

梶村:スープストックトーキョーさんの取り組みは、たどり着きたい理想から現実を逆算して見据えている点が非常に素晴らしいですよね。また、制度ひとつひとつのネーミングが印象的で、現場のスタッフに浸透しやすそうです。どうやって決めているのですか?

江澤:制度とは、決して堅苦しいものではなく、身近に感じてほしくて、社内でよく使われている言葉を用いたり、専門用語を使わないという縛りを付けたりするなど、社内で揉んで考えました。

城倉:ありがとうございました。ネーミングは制度やルール設計を浸透させていく上で重要なポイントですね。続いてベイクルーズの取り組みについて、梶村さんお願いします。

梶村:当社ベイクルーズは創業40周年を迎えます。全国で447店舗を展開し、「衣食住美を通して人生の楽しみを提供」という企業理念を掲げています。行動指針は、「おしゃれにこだわり楽しもう!ついでに仕事も楽しもう!」「Joy for creation,Joy for challenge!」です。社員のち66%が女性。女性役員は7名在籍するなど女性が多く活躍しているのも当社の特徴です。

先ほど江澤さんのお話に、「まずは理想から考える」というものがありましたが、当社はあるべき姿を描くことと同じくらい、まず動いてみる、やってみるということも重要視しています。その結果を積み重ねながら、あるべき姿や理想を更に描き追求することが重要と感じています。

「働き方改革」ならぬ「働きがい創造」

実は、数年前に働き方改革を実施しました。当社では「Early Bird Project」という、本社を20時でクローズし早出を推奨する制度や、無駄な業務の削減、定員・採用数の見直し等に取り組み、20時以降の残業が約50%削減されたほか、平均残業時間は15%減となり、1人あたり生産性を10%UPすることができました。

もちろん生産性はとても重要なのですが、そればかり追っていると社員が疲弊し組織の活力が失われることも多いにあります。本当に「社員に活力をもたらすものになっているのか?」「社員の可能性を見出し活躍の場を与えられているのか」「1人1人が仕事を通じた機会を活かし、キャリア未来を描けているのか?」働き方改革を進めていくなかでそうした疑問が何度も頭に浮かんできました。そうした過程を経て、今、私たちが重要だと考えるたのは、「働き方改革」ではなく「働きがい創造」です。ファッション業界で、仕事を通じたキャリアを描き、長く輝き働き続けられる企業を目指し、「働きがい」を創造していこうと、取り組んでいます。

大久保:僕や江澤さんはそれぞれの会社で現場の叩き上げなのに対し、梶村さんはキャリア採用で本部に入り、そして制度を企画し実際に成果を出されているのが凄いなと思います。自社の現場を経ること無く、現場を巻き込んで制度を進めるのは簡単なことではないと感じ、梶村さんはどのように進めていったのかをとても聞きたいです。

梶村:おっしゃるとおりで、私1人では現場の理解を得られません。ですので、現場を巻き込むため、例えば「BAY☆FA制度※」を立ち上げる際には、実際に店舗で長く活躍してきたファッションアドバイザーに、企画に携わってもらいました。また実際に制度化後も実行委員会をつくり現場のリーダーを巻き込んで、現場で浸透するよう工夫しています。
※BAY☆FA…販売のプロフェッショナルとして社内で認定する制度

城倉:人事制度を浸透させるうえで、いかに現場の巻き込むのか、非常に大事な視点ですね。貴重な取り組み事例をお話しいただき、ありがとうございます。それでは最後のテーマです。社員の働きがい向上のために行っている取り組みをそれぞれ教えてください。

大久保:エー・ピーカンパニーには、「熱闘甲子園」という、入社したばかりの社員で新店舗を立ち上げる制度がありました。店舗をイチから作り上げていくプロセスを体験してほしい思いから始めた取り組みです。

ある店舗のオープンのとき、その店舗の店長の顔がつまらなさそうだったことに衝撃を受けたんです。私が店長のときは、店がオープンするときには、涙が出るくらい感動的だったのに……。それは、店づくりを本部がすべてを請け負ってしまい、店長は店づくりの過程を体験していなからなんですよね。

「熱闘甲子園」では、みんな自分が店長をやりたいためにもめます。しかしそこからコミュニケーションが生まれる。オープンまでの過程には文化祭の準備のような楽しさとやりがいがありました。

ちなみに名前の由来は、「店長はなんでつまらない顔をしているのだろう」と考えていたときにテレビで流れていたのが、「熱闘甲子園」だったからという理由です(笑)。

自分が納得できるキャリアを選べる仕組み作りを

「ハイブリット社員制度」という、現場をやりながらも本部の仕事ができるという制度もありました。

そのほか、「事業部総選挙」は、内定者が入社後の自分で上司を選べるというもの。上司は、いい事業部を作らないと新入社員が入ってきてくれないので、組織づくりに一生懸命工夫するわけです。一方、内定者も行きたいと言っただけでその通りになるのではなく、事業部の方から選ばれる必要がある。お互いに良い緊張感をもたらす制度でした。

すべて、自分が納得できるキャリアが大切。選択肢をたくさん用意するのが組織づくりだと思います。

イベント&SNSで「体温の高い状態」を持続

江澤:スープストックトーキョーには1,500人以上のスタッフがいます。多くのスタッフをどう巻き込むかが大変でした。そこで始まったのが、SNSとして機能を持つ社内報「Smash」。こちらは、会社からの一方的な発信ではなくスタッフも含め相互にコミュニケーションがとれるものにしました。

ただ、SNS機能付きの社内報を作っても、実際に見てもらわないと意味がない。どうしたら見てもらえるだろうか? と考え、スタッフの写真を使った日めくりカレンダーを盛り込みました。同じ店舗で働くスタッフが出ていれば見たくなりますよね。少なくとも、その日のカレンダーに登場したスタッフを知る人は見る、というきっかけ作りをしました。

また、「Soup Stock Tokyoグランプリ」というものも実施しています。これは成果発表会なのですが、数字的な成果ではなく、「世の中の体温をあげる」という理念をどれくらい体現できているかを発表する会です。全68店舗ある中で、各店舗からエントリーし、みんなで投票して9チームが本選の舞台に立ちグランプリを競います。

これらの取り組みも、セットになっていることが重要です。「Soup Stock Tokyoグランプリ」は、その場では盛り上がりますが、そこで上がったモチベーションも日が経つにつれだんだん熱量が落ちていく。でも、グランプリ後も「Smash」を通しオンライン上で日々発信し続けていくことで熱が冷めない“体温の高い状態”で仕事を続けられる仕組みになっています。

認証制度で50代スタッフが選出

梶村:ベイクルーズ では「BAY★FA制度(プロFA認定制度)」という取り組みを行っています。ファッションアドバイザーとして実績を残した社員が自ら選考にエントリーし、事業部選考と役員選考を経て合格した社員に「プロFA」の称号が与えられるという制度です。これまで4年間でのべ91人を認定しました。今期は初めて50代の「プロFA」が誕生しました。制度立上げの際、年齢を重ねながら「店舗でも長く活躍し続けられる環境づくり」と「ファッションアドバイザーの価値向上」を目指したわけですが、それがかたちになって現れたと感じています。店舗のパートナーにとっても励みになる大きな出来事でした。

「新事業提案制度」も行っており、毎年社員から多くの新規事業アイディアが寄せられます。実際に、この制度を試行した最初の年に5件のアイディアが事業化がされ、さらに現在までに8件を事業化しています。

城倉:各社の働き方についてのさまざまなアイディアや考え方をうかがうことができました。みなさん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

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