第1部
「『外食市場調査』から見る市場の最新動向と競争環境」
ホットペッパーグルメ外食総研 上席研究員 稲垣昌外食市場調査宏氏
稲垣昌宏氏 「ホットペッパーグルメ外食総研」では、夕方以降の外食および中食の実態の把握を目的に、2012年10月から、「外食市場調査」を実施しています。これは首都圏・関西圏・東海圏の20~69歳の男女1万人の個人消費者を対象に、毎月インターネットで食事内容の記録モニターを募集し、提出してもらうというものです。性別・年代別、さらには相手別や業態別、街別などの区分で夕方以降の外食・中食の消費動向をうかがい知ることができる、価値ある調査です。
2016年度は飲酒を中心に外食規模は縮小
まずは2016年度の外食についての調査結果を報告します。2016年度の外食市場規模は前年比-3.6%。調査対象である3大都市圏の人口減少率が0.6%ですが、それを下回る数字となってしまっています。
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「食事主体」・「飲酒主体」・「軽食主体」という3つの大分類の業態別で見ると、すべてのカテゴリーでマイナスとなっていますが、とくに減少幅が大きいのが「飲酒主体」で、前年比95.1%。また、外食で飲酒する場合、前年比で予約をせずに来店する場合は減っているのに対し、予約ありでの来店はほとんど減っていないというデータがあります。ここから言えるのは、ふらっと飲みに行くような、“普段飲み”の外食が、中食などに浸食されたといえるかもしれません。
外食市場の最新の状況ですが、先ほど申し上げた通り、2016年度全体は前年比マイナス、月ごとに見ても2016年5月から、毎月マイナスの記録を続けていましたが、2017年6月に、ついに14か月ぶりにプラスに転じました。6月に続き、7月もプラス。これからの見通しに明るい兆しが見えてきました。
また、当調査では「首都圏外食タウン伸び率ランキング」も実施しており、街ごとの外食の伸び率がわかるのも特徴的な点です。2016年度は、外食をする相手として「会社・学校関係」「友人」が減り、「家族」「1人で」が増加傾向にありました。そのため、職場の人と集まりやすい都心部よりも、自宅近くの縁辺部での伸び率が著しく、タワーマンションの開発が進む武蔵小杉が近い自由が丘や、新横浜などの郊外の伸び率がとくに高くなっています。
次に中食について見ていきましょう。中食も外食ほどではありませんが、2016年度の市場規模は縮小し、前年比-2.5%となっています。性別・世代別で見ると、おおむねどのカテゴリーでも減少していますが、唯一、単価と回数の両方が前年比プラスなのは50代女性でした。業態別には前年と同様なのですが、「スーパーマーケット」、「コンビニ」、「百貨店」の順に多くなっています。また、中食についての考えについて調査したところ、過去3年間と比較し、対内食と対外食についてイメージ向上が著しいです。中長期的に見て、中食は外食の脅威となり得ると言えます。
以上のように、基準人口-0.6%に対し、外食・中食ともに減少傾向。ということは、相対的に内食率が増加していることが考えられます。そこで、我々は内食についての追加調査を実施しました。さらに、朝食・昼食についても内食の増加傾向が見られるのかどうかについても調べました。
2017年8月に実施した追加調査では、内食、すなわち自炊率は増加傾向にあるとの結果になりました。また、今後も自炊率を上げたいと考える人も多いようです。その理由としては、「家計が厳しく、食費を減らしたい」「家で作る方がおいしい」「家で料理をすることが家族のためになると思う」「健康やダイエットのため、外食・中食を減らすようになった」などの回答が目立ちました。
一方、外食が増えたと回答した人の理由としては、「仕事で忙しく、なるべく簡単に済ませたい」「人付き合いが増えた」「家族や友人とワイワイ食べるのがレジャーになっている」との理由が上位となっています。
外食を取り巻く環境はますます複雑化
従来から言われている、飲食店VS飲食店の競争、外食VS中食の競争、さらに外食・中食VS内食の競争と、それらに加えて、食フェス、新宅配事業者、ネットスーパー、高級冷食スーパーなどの新興プレイヤーが登場し、外食を取り巻く環境はますます複雑化しています。
さらに消費者側の心理としては「日常消費モード」と「非日常消費モード」の二つの側面があります。“日常”である「コスパ軸」と、“非日常”である「付加価値軸」、この2軸での戦いとなります。
「この1年、外食で予定外にお金をかけてしまった経験がある」という調査を実施しましたが、それに対して63.5%の人が「はい」と答えています。理由には「季節物、限定品など希少なメニューがあり、予定外にお金をかけてしまった」「惹かれるお店を見つけて、予定外にお金をかけてしまった」など、店側の工夫が功を奏したものもあがりました。このように、衝動的な消費が多いのも事実。外食業界としては、消費者が「食費」のお財布ではなく「レジャー費」のお財布を開けるスイッチを探すことが求められています。
稲垣昌宏氏プロフィール
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