成長を支える秘策「SCM理論」と「エリアカンパニー制度」
—2008年に設立されて、いま国内外に74店舗展開されていますね。まず創業の経緯からお聞かせいただけますか。
大塚誠氏(以下、大塚) もともと会社を起こす意欲は強くはなかったんですが、自分の未来を変えたいと思って、ベンチャー・リンクに入りました。そこで、飲食店の業績改善指導を担当していました。12年間の在籍中にのべ1000店舗以上は手掛けましたが、会社の業績が悪化して僕のいた事業部門を売却することになったんです。そのタイミングで自分でやろうかな、と思い会社を設立しました。
—事業部門売却のタイミングで独立されたんですね。それで、1店舗目を高田馬場に出店して独立されましたね。もともと飲食事業をお考えだったんですか。
大塚 創業メンバーの5人は、全員営業が得意だったので、当初は営業会社を作ろうと思っていたんです。ただ、タイミングよく前職の同僚が物件情報を持ってきてくれて、一度見に行ったら、すごくイメージが湧いたので、飲食店をやろうという話になったんです。それが高田馬場でした。
ー2008年の設立から8年で現在74店舗を展開と急拡大ですね。出店を決める際のポイントは。
大塚 創業当時、一番大事にしていたのは、物件の選定です。居抜きでそのまま始められて、投資が低いことが絶対的な条件でした。
ー当時と現在では、戦略をどのように変えられたんですか。
大塚 戦略は毎回変えていますが、環境が変わったということがありますね。それが2012年あたり。
一つはウェブのアルゴリズムが大きく変わったということ。グーグルがすごく進化していました。それに合わせて、いろいろな媒体系企業のアルゴリズムが変わったので、戦い方が全く違ってきた。
それと、お客さんのスマホ利用のリテラシーが上がって、お店を探す方法が急激に変わったということも大きいですね。
—いち早くウェブのアルゴリズムの変化を察知して戦略を合わせていったんですね。具体的にどのように店側は対応したんですか。
大塚 以前は情報が限られていて、お客さんは本当に見つけたい店を見つけられなかった。今は本当に見つけたい店を見つけられる。以前僕は、感覚的には“立地8割”と思っていました。要は知ってもらえる場所にWEBページもリアル店舗もあるかというので8割勝負が決まっていたと思います。そこに自分の立ち位置を持っていかなければほぼ勝てなかった。それが、今は、感覚的にはWEBも含めて“立地5割”。見える場所にいるというのは、まだ5割必要だと思います。あとは、内容がマーケットニーズにマッチしているか、ということがとても大切です。マーケットマッチングが半分くらいになってきたと思います。
—マーケットニーズはどのようにリサーチされているんですか。
大塚 もちろん現場を目視しに行くこともあります。営業がスタートした後は、WEBと店舗内でマーケティングを行います。“SCM”という発想に基づいて進めています。この言葉は、一般的に“サプライ・チェーン・マネジメント”という言葉の略なんですけど、僕らは“ストア・チェンジ・マネジメント”として使っています。
飲食店は、とても気持ちの移り変わりの早いビジネスです。僕らが創業した頃は、いい場所に出せば、勝てる可能性はそれだけ高くなりましたが、これからはいい場所に出したとしても、お客さんが求めているものに対してきちっと応えられている、ということがより重要になってくると思います。一度出した店が20年30年40年変わらずにいることよりも、変わりゆくお客さんに対して店も変わっていく必要があると創業の頃から感じていました。
だから、投資を低くしたのも投資回収をどれだけ早くできるか。流れが変われば、店もすぐに変えるんだ、というのが前提でした。それがこれからの飲食ビジネスの勝ち方の鉄則だと思っています。
一方で「変える」と一口に言っても、「どう変えるの?」「誰が変えるの?」という問題がありますよね。一つ目の「どう変えるの?」についてですが、今70店舗以上お店を経営していて、社長の僕がその中の一店舗をどう変えるべきかなんて、分かりません。一番どう変えるべきかをつかんでいるのは、そのお店で、その街で、お客さんと触れ合って、毎日街を見ている現場のスタッフです。環境の変化が加速化しているので、スピード感が大切です。僕の指示を仰いで、決済を待っていたら変化に対応できない。お客さんが変わることに対して、僕らが変わる。僕らが変わるためには、その変える方向性は、現場の人間が決めるべきです。お客さんを一番近くで見て、自分たちで考えていくマーケティング能力と、自分たちで決断する権限を持たせるしかない。それが、これからの飲食ビジネスの唯一の勝ち方だろうと思っています。
—現場スタッフが育っていないと、なかなか難しいことですね。拡大のスピード力とスタッフの育成のバランスはどのようにとられていますか。
大塚 できるようにするためには、チャレンジさせるしかないんです。それ以外は、勝てないと思っています。今は週一回のエリア毎のミーティングや、隔週の全社員向けの朝礼を行って指導をしています。他にもマネージャーや個別ミーティングなどを頻繁に行っています。
—意識統一のためですね。
大塚 そうですね。あとはスキルアップですね。それがSCM発想です。お客さんとの瀬戸際に立って、その人間が自分で考え自分で決めるというマネージメントスタイルです。僕らはそれを“個店戦略・個店経営”と呼んでいます。一つの店舗に、経営と戦略があるという意味です。新店ができたら、社内や関係者向けのプレオープンというのをやるんですが、僕はそれまでどんな店なのか知らないですからね。(笑)
どのあたりに出すか、いくらぐらい投資がかかっているかは、だいたい把握しているんですが、細かな部分はその日に初めて知ります。
—新規出店の判断はどのようにされているんですか。
大塚 国内の直営部門はうちの副社長の大石が責任者として進めています。社内で「エリアカンパニー制度」というものを作っています。エリアごとに一つの会社があるというイメージですね。各々が担当するエリア内で、店舗数を増やしていこうと頑張っていますよ。投資回収の計算もすべて担当者にさせています。
また、ルールとして出店基準を設けています。担当エリアの既存店業績がちゃんと全店黒字かどうか、基準数とする業績をクリアしているか。あとは衛生基準と、CS(顧客満足度)基準ですね。この基準をクリアしていると出店権利を得られます。僕はそれらをすべて投資家的な視点でチェックをしています。
経営権と頭脳を持つ現場を本部がサポート
—国内外でエリアカンパニー制度をとりながら出店を増やしていくということですね。店舗数はどれくらいを目指していますか。
大塚 300店舗ですね。
—多業態を300店舗というと、かなりパワーがかかりますね。
業態開発もエリアスタッフに一任されているんですか。
大塚 基本はそうですね。コンセプトを現場で練り上げて、それに対してマーケティング、メニュー開発、店舗デザインのサポートを本部がかけています。僕が入ると現場が考えなくなっちゃうので、口を出さないようにしています。
—現場から上がってくるコンセプトが一番信頼できるということですね。
大塚 そうですね。うちは一つのブランドを展開していくという考え方が根本にありません。「マーケットイン」の発想でやっていますが、狙うマーケットがとても小さいんです。「上野の北口の……」みたいな。(笑)
狭いエリアで、毎日お客さんと会っているので、そういったことができるんです。そこに本部のマーケターや、料理人などのプロがよってたかって形にしていく、という感じです。
74店舗で65業態ありますが、まったく同じ店は一つとしてありません。例えば、「魚バカ一代」という名前の店は3店舗ありますが、メニューも価格も全然違います。結局は、全店が全部違っているんです。
今後さらに重要性を増してくるのは、プロデュース力です。“プロデュース”というとコンサルティングっぽいですけど、そうではありません。SCM発想で店舗を増やしていこうとすると、一人ひとりが頭脳であり、経営者でなくてはならないんです。例えば、フランチャイズ形式でマニュアルを渡しても、その人間は経営者ではあるけど、頭脳ではない。自分で考えて、決断するという両方を持たせないといけない。プロデュースする力をつけていかなくちゃいけない。それができるようになれば直営も広げられるし、FC店舗のオーナーさんも自分でプロデュースして育てていけるようにならなくてはいけないと思っています。
—なるほど。現場に経営権と頭脳を持たせて、本部がサポートで固めていくという形ですね。
大塚 そうですね。お店を企業として成長させようとすると、段階的にいろんな壁がありますよね。僕らが4〜5店舗くらいの時は、収益性もよかったし、余剰人員もいないので、アットホームで、ファミリー的で、僕と社員の距離も常に近い。ですが、成長を志すとそこを超えていかなくてはなりません。中間管理職や間接部門、本部機能が必要になってきます。例えば、WEB集客をするにしても、インターネットの世界はすごい勢いで変わっているので、1〜3店舗規模の店が持てる機能ではありません。ほかにも採用や立地開発など、すべての機能は持ち得ないと思うんですよね。そうすると、負け戦になってしまう。お客さんの瀬戸際に立って自分たちで考え、自分たちで決めるというのが彼ら現場の最も大事な役割です。それは本部にはできません。彼らがやるべき役割と僕らがやるべき役割をきっちり認識することが大切です。直営店も子会社のように独立度を高めていってほしいですね。完全に独立して出店するという道もありますし、社員のままエリアカンパニーの実質的責任者になるという道もあります。
—余剰人員がなくて、収益性がいいという創業間もない4~5店舗の規模を増やし、本部でサポートしていくという体勢ですね。
大塚 そうですね。そうあるべきかなと思ってます。