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野方に「野方 たん純」が開業。ベイシックスの系譜をひく三鷹の焼鳥店「鶏や まると」出身の店主が、敢えて焼鳥を封印し界隈に少ない牛タン一本で勝負をかける

2019年11月16日にオープンした牛タン専門居酒屋「野方 たん純」は、三鷹の人気焼鳥店「鶏や まると」で修業を積んできた粕谷純氏による独立第一店舗だ。当初は焼鳥と牛タンの二枚看板で業態を構想するも、先輩のアドバイスや立地面を鑑みて、焼鳥の看板を外して牛タン1本に路線変更するという紆余曲折を経てオープン。結果、この界隈で希少な牛タン専門店として注目を浴び、オープンからわずか3カ月ながら、毎日多くのお客で大賑わいとなるサクセスストーリーを歩んでいる。

野方の街の中でも、帰宅する地元民が最も多く往来する、商店街の通り沿いに立地。ファサードは、やや高級感を出しつつも、窓を広めに作り、入りやすくなるよう工夫している
事前に通りの交通量調査を行っていた粕谷氏は、ファミリー層が多いことに気付き、カウンターとテーブルのほか、店の奥に個室も設けた

オープン直前に完成した名物「熟成 厚切り牛たん焼き」。熟成の技術は、牛タン専門店で働く友人からの情報や、他店舗の技術などから研究した
もうひとつの名物「タンシチュー串」と「瀬戸田レモンサワー」。「タンシチュー串」は、お客の注文意欲を誘うべく、鍋をカウンターに置いている
右から粕谷氏、スタッフの松田梨沙子氏、杉元邦弥氏。スタッフTシャツのロゴは、粕谷氏がデザインしたものだ

(取材=高橋 健太)


ベイシックスの人気店を目の当たりにして、飲食の道へ

山形県出身の粕谷氏は、高校卒業後、しばらくは地元で大工の仕事をしていた。「僕自身、うっすらと『将来、飲食店をやってみたい』という思いはあったんです。そんな時、友人が『東京の面白い居酒屋で働いている』という近況をよこして。やっぱり、飲食店をやるなら東京で修行すべきだ!と思ったんです」と、粕谷氏。上京し、杉並区高円寺での暮らしを始めた。

友人の勤務先は、当時、ベイシックス(東京都港区、代表取締役:岩澤博氏)が運営していた「おけやの鈴太郎 表参道店」。「地元のチェーン居酒屋しか知らなかったので、料理やサービスのクオリティ、繁盛している店のエネルギーなど、全てが衝撃的でした」。将来こんな店を開きたい、というビジョンを抱き、自身の生活エリア圏内の杉並区や中野区のさまざまな飲食店を巡って、修業先となる店舗を探した。敢えてベイシックスを選ばなかった理由については、「すでに友人が二人も働いていたからです。せっかく東京に出てきたんだから、全く知らない人たちから色々学んでみたいと思って」と語る。そして、創作料理のクオリティや、店内の雰囲気に惚れ込んだ阿佐ヶ谷の居酒屋「おいしい研究所 伊達」で修業を始めた。

「鶏や まると」では立ち上げから10年、店主の右腕として活躍

6年間勤めた「おいしい研究所 伊達」では、独立を目指している熱意を買われ、店長職を任されていた。「飲食店で働くことすら初めてだったので、オペレーションやサービス、お酒と料理の知識など、色々なことを吸収することができました」と、語る。その後、友人づたいに、ベイシックスOBが三鷹で焼鳥店の開業準備をしているという情報を耳にした。「独立を考え、開業準備の段階から携わって、勉強をしておきたかったんです」と、粕谷氏。「おいしい研究所 伊達」を退職し、その店の立ち上げから参画。それが現在は人気店となった「鶏や まると」だ。店主の吉野友康氏の右腕として10年間勤務し、オペレーションや仕込みのみならず、数字の管理に至るまで、店舗に関わる全ての業務を任されるようになった。粕谷氏は当時を振り返り、「調子が良い時だけでなく、芳しくない時期も体験できたのが大きかったですね。その都度、吉野さんと必死に対策を考えたりして、店を持つことの責任の大きさや、大変さを学ぶことができました」と語る。

店舗の方向性を変えた、開店1カ月前の先輩経営者の言葉

16年の下積みを経て十分に実力をつけた粕谷氏は、独立の準備を始める。最初は中央線沿いで物件を探し、高円寺や中野でいくつか候補を見つけてはいたが、立地条件や人通りなどが想定よりも悪く、なかなか決断できずにいた。「そんな中、飲食店仲間に相談したら、野方も悪くないと聞き、下見に行ってみたんです」と、粕谷氏。商店街の交通量を調べてみると、中野の繁華街とほぼ変わらないが、家賃相場は安いことがわかり、物件探しを開始した。

運よく、物件を見つけることができた粕谷氏は、「鶏や まると」で培ってきた焼鳥に加え、串焼にした牛タンの炭火焼きを看板にしようと考える。牛タンを扱うことにした理由は、シンプルだ。「『単純』という言葉が好きなんです。だから、牛タンの『タン』と自分の名前を合わせてしまおうと思って」と笑う。

粕谷氏は、店舗の工事などを進める傍ら、山梨県甲府市の牛タン居酒屋「たん焼 与平」へ、牛タンの扱いを学びに行った。しかし、そこで店主の岩崎洋平氏から意外な言葉をかけられる。「『焼鳥と牛タンの両方が並んで、結局どっちが看板なんだ。俺なら、そんな店には絶対に行かない』と、言われました。ハッとしましたね」と、粕谷氏。その言葉を受けて、改めて野方の街を見てみると、周囲には焼鳥店が数多くあり、さらに、二枚看板では訴求力が薄まってしまい、売上が伸びない可能性も想定できた。時期はすでにオープンの1ヶ月前。悩みに悩んだ末、長年培ってきた自分の武器と言うべき焼鳥を看板から取り下げ、牛タン一本の専門店として、勝負をかけることを決意した。

オープン直前まで試行錯誤を重ねたメニューが、見事お客の胃袋を掴む

看板メニューを牛タンに絞ると同時に、今まで決まっていたメニューも全て書き直した粕谷氏。もともと串打ちを想定していた牛タンも、オープン日直前まで試行錯誤を重ね、熟成した厚切りの牛タンを炭火でじっくり焼いた「熟成 厚切り牛たん焼き」(1280円)を開発。串打ちした牛タンをデミグラスソースで煮込んだ「タンシチュー串」(1本450円)とともに、名物メニューへと昇華した。さらに、「ネギばかタン塩」(680円)や「たん塩煮込み」(500円)など、牛タン好きを唸らせる品書きが並ぶ。粕谷氏は、「少しお高いイメージのある牛タンをリーズナブルに食べてもらえるように、仕入れ業者を厳選して、いいものを安く仕入れるようにしています」と語る。

また、「ロメインレタスのベーコン巻」(1本240円)や「モッツアレラチーズズッキーニ巻」(1本240円)、などの野菜巻き串、「レンコン塩辛バター炒め」(180円)など、牛タン以外のアイディアあふれるメニューは、さまざまな飲食店を食べ歩いた粕谷氏が編み出したものだ。

ドリンクは、牛タンの付け合わせにはレモンが必ずついていることをヒントに、レモンサワーを名物にしている。一番人気は国産レモンの産地として名高い広島県瀬戸田町産のレモンを使った「瀬戸田レモンサワー」(450円)だ。「塩レモンサワー」(450円)や「トマレモサワー」(400円)、「蜂蜜レモンサワー」(400円)などのアレンジも加えて、お客を楽しませる。また、日本酒は旬のものを中心に常備10種類ほどを揃え、100cc(500円)と、飲み比べがしやすい量で提供。その他、生ビール(480円)やワイン(グラス450円、ボトルは2500円)、梅酒(各500円)、焼酎(各500円)と、酒のラインナップは豊富だ。

大胆な方向転換で専門店の強みを発揮。柔軟な思考と探求心で、新たな展開も模索

看板を絞って勝負をかけた結果、界隈では珍しい牛タン専門店として注目を浴び、オープンしてからの売り上げは、予想の2倍近くをたたき出すことができたという。「あの日、岩崎さんに指摘されていなかったら、こんなにうまく行ってなかったと思います」と、粕谷氏。「僕は、周りの人たちに恵まれていると思いますね」と、続ける。自身が困ったときには、先輩経営者や同業の友人といった仲間たちが、知識やノウハウを授けてくれた。それらを吸収し、自分の現状に合わせたアイディアを加えて、オリジナルに昇華していく行程が、楽しいと語る。頭の中には、これから形にしたいと思うアイディアが、数多く浮かんでいると言う粕谷氏。今後の展開が楽しみだ。

店舗データ

店名 野方 たん純
住所 東京都中野区野方6-24-10野方ビル1F

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アクセス 西武新宿線野方駅から徒歩3分
電話 03-5356-8475
営業時間 18:00~24:00
定休日 不定休
坪数客数 13.7坪 40席
客単価 3500円
オープン日 2019年11月16日
関連リンク 野方 たん純(Instagram)
※店舗情報は取材当時の情報です。最新の情報は店舗にご確認ください。

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