新日本酒マーケットをリードしてきた銘店として知られる渡邊元康氏の「希紡庵」。今では日本酒専門店の定番となった90ml提供を広げた店でもある。移転前は、池袋東口のバス通り沿いにある雑然としたビルの半地下。バーのような雰囲気の店内に、わずかカウンター8席だけ。足繁く通うファンも多く、連日満席の人気店だったが6月末に閉店。それから3ヶ月後の9月7日、西池袋に移転しリニュアールオープンを果たした。店名は変わらず「希紡庵」。渡邊氏自身も含め、基本的なことやスタイルなどは何も変わらないが、いくつかの新しさが加わり新店らしさを見せている。
移転先は同じ池袋だが、西口の飲食店や事務所の入るビルの6階。地下から空中階に抜けるゆったりした空間は以前の店とは対照的で、天井まで開口した大きな窓も印象強い。窓の眼下には、木々が生い茂る公園があり、四季折々の景色が楽しめる。重厚感のあるカウンター席のほかにテーブル席を増やし、グループ利用が可能となった。
料理にも新しさが加わっている。閉店中に渡邊氏が他店で修行し会得した「貝焼き」(単品で700円前後、お任せ3点焼きは1600円)が新しい看板料理。3、4種類の旬の貝が日替わりで味わえる。前店からの人気メニューも健在だ。「北海道のサフォーク・ラムの串焼き」(400円)。岩手県久慈ファームの「佐助豚の角煮」(600円)や「生姜焼き」(600円)。山形県・スモークハウスファインの「無添加ソーセージ」(450円~600円)など、全国各地からのこだわりの食材でつくる品々。
日本酒は常時80種類、その時期の美味しい銘柄を揃える。ポーションは90ml、180mlと提供の仕方は以前と変わらない。渡邊氏の日本酒との一期一会を楽しんでと欲しいとの想いから、90mlで450円を超える価格の日本酒は60mlで提供。客にとっての嬉しい心遣いも変わらない。生ビールのほかは日本酒のみという潔さも、日本酒ファンのために少しでも多くの日本酒を揃え、楽しんでほしいからと同氏。昼間のランチ営業時も夜と同じ日本酒が味わえ、昼酒を楽しむファンが少なくないという。
駅からも国立芸術劇場やファッションビルのマルイからも近い場所にある新店。周辺には、飲食店が多く、繁華街らしい賑わいを見せる。渡邊氏は日本酒女子の多い「希紡庵」として、女性も安心して通える場所であることにこだわったという。そんな気遣いもまた、ファンを作るのだろう。近隣には同世代の話題の日本酒専門店や日本酒にこだわる店があり、今後はエリアとしても共に日本酒を盛り上げて行きたいと語る渡邊氏。同氏の日本酒と日本酒文化への想いの深さを実感した。