今は昔、ハンバーガー59円の時代に染み付いた「内的参照価格」
商品の価格をいくらにするか――「価格設定」は飲食店の売上を左右する重要事項です。先日、書店で見かけて手に取った「買い物の科学:消費者行動と広告をめぐる心理学」(実務教育出版、越智啓太 著)という本が、飲食店にとっても参考になりそうな内容でした。
この本では「内的参照価格」というキーワードが紹介されています。「その商品はいくらであるかという消費者の認知している価格、いわば消費者が勝手に思い込んでいる価格」ということで、要は何かを買おうと思った時に「この商品の価格は、相場はだいたいこれくらい」という基準が人々の中にあり、それよりも高いか安いかで商品を購入するかどうか判断しているということです。
本書の中で例として挙がっているのがハンバーガーの内的参照価格。インフレで値上げラッシュが叫ばれる現在からするともはや遠い昔の話ですが、デフレが蔓延していた平成の時代、マクドナルドは徹底的にハンバーガーの価格を下げることでシェアを獲得していました。現在、マクドナルドのハンバーガーは240円ですが、90年代には最安値の59円にまで値下がりし、その記憶から「ハンバーガー=安いもの」というイメージをいまだ持っている人も少なくないはずです。ですので1000円や2000円を超える「グルメバーガー」が流行り出した時には、驚きや拒絶反応を見せる人もいました。お祭り屋台のイメージがあるかき氷も同様で、屋台なら数百円で売っていたかき氷が1杯1000円前後する専門店が登場したときも驚く人はいたと思います。
消費者はその商品が内的参照価格より安いと思えば買いますし、高いと思えば買いません。オープンセールと称して開店から数日間は本来よりも安い価格で集客にスタートダッシュをかける店がありますが、結果的にお客に内的参照価格を低く意識づけてしまい、その後の集客に響く可能性も本書では指摘されています。値付けに悩む飲食店はぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
話題の低価格うなぎ専門店も「内的参照価格」のギャップを利用
しばしば飲食業界ではこの内的参照価格をうまく利用してヒットしている飲食店が登場しています。最近の事例ですと「うなぎ専門店」でしょう。店舗数を急速拡大中の「鰻の成瀬」や、フードスタジアムでも取材したグローバルダイニング卒業生の「うな重(しげ)」など、ここ数年で低価格うなぎ専門店がかなり増えました。
もともとうなぎと言えば、ハレの日に食べる高級品のイメージが根強くあります。老舗の専門店でしっかりしたうなぎを食べるとしたら、だいたい2000円や3000円からのイメージでしょうか?これがうなぎの内的参照価格となりますが、先述したような低価格うなぎ専門店は仕入れやオペレーションの面でさまざまな工夫を凝らすことでコストを圧縮し、多くの人が思う内的参照価格よりも安い価格での提供を実現しています。実際に「鰻の成瀬」は1600円から、「うな重」は1210円からうな重が食べられます。このように内的参照価格と実際に提供できる価格に大きな乖離を作ることに商機があります。基本的に商品の価格は原価等のコストに基づき決まることがほとんどですが、中にはブランドイメージ等によってコストの実態を伴わずに内的参照価格が高く膨らんでいるものもあります。そうしたアイテムに着目するのもヒット業態を生み出す一つの手かもしれません。