コラム

2009年「飲食トレンド」を予測する!(後編①)

今週は、2009年の飲食トレンド予測の後編。その①(マーケット予測)を掲載する。2009年は後から振り返って、外食産業にとって大転換期"の年になるだろう。激動の年をどう読むか、その鍵となるマーケットを捉えるための5つのキーワード。"

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。


①「3000円マーケット」の台頭と「ミシュラン系」との二極分化リーマンショックに端を発した世界同時不況は個人消費を直撃、「節約する ためには外食回数を減らす」という傾向が顕著に出てきた。そのため、「家庭では体験できないサプライズ要素のある3000円マーケット」が台頭してきた。 財布のヒモが硬いオヤジ族がたむろする新橋では、ストーブ料理を出すビストロや個性的な郷土料理、ちょっと粋な料理やサービスを提案してくれる「こだわり のあるベタ業態」に人気が集まっている。恵比寿では「恵比寿横丁」が大人気だ。 その一方で、グルメ族には「ミシュランガイド」や新しく出版された「ルイヴィトンガイド」などに出てくる高級店に行って、ブログを書くというような ことが、一種のステータスとなってきている。「フードアナリスト協会」がレストランアナリスト資格を乱発したり、覆面調査ビジネスの横行で“誰でもグルメ 評論家”現象が起きている。スイーツのパティシエや星系のオーナーシェフ人気はとどまるところを知らない。来年もヨーロッパから“ブランドシェフ”が輸入 されるに違いないし、先年の「カンテサンス」岸田周三氏、今年の「なすび亭」吉岡英尋らの星を取った若手料理人が時代の寵児になるだろう。 こうしたなかで、4000円~7000円の和食ダイニングやディナーレストランは厳しい選別の時代に入った。元気なところはマーケットの変化に強い「マルチコンセプト」「個店主義」のニューチェーンだ。 ②「個店主義」と「マイクロ店舗」マーケットニーズの多様化と高度化によって、単一カルチャー的な店舗拡大主義をとる大手チェーン店が軒並 み既存店の売上げを落としているなかで、「個店主義」「マルチコンセプト」を打ち出した“ニューチェーン”が元気だ。変化に機敏に対応し、顧客を飽きさせ ないサプライズを送り続けているからだ。また、既存大手の代替マーケットをフォローアップする新型モデルのチェーン店も好調。3000~4000円のカ ジュアルダイニングゾーンを埋める業態展開。飲食業界のユニクロや無印良品といっていい。そして、「マイクロ店舗」の台頭。1フロア10坪~20坪だが、複数階の一戸建てや一棟ビルを借り上げ、インパクトのあるフェイスをつくっている。また、同じエリアで多店舗多業態展開する“ドミナント出店”でそのエリアの顧客をまるごと吸い上げるような企業が勝っている。 ③本物の「AN・KEN・BI(安全・健康・美容)」「食の安全・安心」「健康と美容」「アンチエイジング」「デトックス」をコンセプトに 掲げた食材、メニューを打ち出す店が増えている。背景にはBSE問題から始まった「食の安全・安心」へのニーズ、イタリアから巻き起こった“スローフード 運動”、それに一部雑誌メディア(『ソトコト』など)が仕掛けた“ロハスブーム”がある。それがライフスタイル全般に影響を及ぼし、飲食の分野にも押し寄 せ、MD(商品開発)の重要なキーワードとなった。しかし、食の安全・安心と言われ続けるなか、食材産地偽装、食品の偽造問題が後を絶たず、顧客心理に大 きな影響を与えている。ごまかしのない本物の食材を使った「健康・美容」の提供と、仕入れ、管理体制の確立が強く求められている。 ④「専門から専科へ」「品種から品番へ」業種から業態へという流れから、今は専門から専科へ。例えば、和食店という業種のなかで、魚を売り にする業態が出てきた。それが、これからは「どんな魚を売りにするのか?」という「科目を問われる」時代になる。かつての「いわし家」「かに道楽」のよう に、「新宿イカセンター」「日本カキセンター」などの専科業態に進化を遂げ始めた。「ほや家」や「のどくろ屋」などが出てきてもおかしくない。 こうした素材の見直しや再編集による素材専門性の特化は、生産履歴表記だけでなく、生産者と一体になったMD開発の動きも盛んになってきた。生産 地、生産者表記は当たり前で、今は「品番表記」をする店も登場。外食が産地でファームを起こす動きも増えてきた。また、鍋の料理の多様化や蒸し、炭火焼、 鉄板焼など、調理方法の専門性を進化させた店も出てきた。「野菜の蒸し鍋」「野菜の鉄板焼き」「鮮魚の蒸し鍋」「専門鍋」「火柱焼き」などの業態も出てき た。 ⑤「地産地消化」と「グローバル化」エコ意識、食料自給率の底上げ、輸入食品の安心低下などにより、国産食材に対する注目が高まり、最近で は、地方出身者の多い東京にも、各地の「郷土料理店」が百花繚乱。農林水産省が「郷土料理百選」なるキャンペーンを張れば、全国の“ご当地B級グルメ”を 競い合う「B-1グランプリ」というイベントも盛り上がりを見せている。こうした動きのなかで、地方には“地産地消”をテーマとする農家レストランや一流 シェフの店も増えている。今後は、「東京から地方への“逆上陸”」なども見られよう。 一方で、外食企業のなかでは“日本脱出”するところも目だってきた。とくに日本での展開に限界を迎えた大手チェーンは海外進出するケースが増えてき た。ただ、一時の中国本土進出ブームは落ち着き、いまはシンガポールや香港、タイ、韓国、台湾などが人気。なかでも、来年、再来年と大きなカジノ付きの商 業施設が開発されるシンガポールは大手に限らず新興のベンチャー企業の間にも進出の気運がうかがえる。ミュープランニング&オペレーターズの吉本隆彦氏が その先導役を担っているが、吉本氏によると、「アジアでは日本食へのリスペクトが高く、寿司やラーメンだけでなく、居酒屋や専門店への関心も高い」とい う。また、日本で流行ったデザイナーズレストランも、向こうでは歓迎されている。ここ10年で起きたレストラントレンドがアジアで繰り返されるかもしれな い。日本で“賞味期限”の切れた業態でも、アジアでは「新しい」のだ。ファミレス、居酒屋などの大手チェーンはアジアに出るべし?

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