これは東京マーケットにおいて、“郷土料理”“ご当地グルメ”といた地方ブランドへのニーズが高まっており、ヒットしやすい土壌があること。地方の事情としては、地元エリアではすでに出店する余地がなく、東京へ出て行かざるを得ないといった背景があるようだ。今年も、早いところでは東京の初出店からすでに2号店目を立ち上げる企業も現れるなど、いま“地方ブランド”の東京進出が大きなトレンドになってきた。なかでも、トップトレンドエリアでの出店は、東京マーケットで勝負をかける意気込みが読み取れる。東京の中でもとりわけ飲食激戦地の恵比寿に出店したのは、大阪で9店舗を運営している宮崎地頭鶏の炭火焼業態「播長」。2009年11月に1号店をオープンしたばかりだが、今年の5月10日、同じ恵比寿に別館を作るほどのパワーだ。広島から恵比寿に出てきたのは、市内中心に13店舗を展開するスピリッツ。やはり2009年11月、「裏恵比寿 自然生村(じねんじょうむら)」で東京初進出、年明け1月7日には東京2号店となる「恵比寿ビール坂 OLIVE des 京焼野菜」をオープンした。「播長」もスピリッツ2店舗も恵比寿東口エリアで早くも常連客をつかんで人気店となっている。独自な飲食文化でマーケットをリードしてきた名古屋からは、2009年11月に恵比寿駅西口に初出店した「魚もんてっぱつ」。名古屋で居酒屋業態を運営するグループだ。ベタコテ系の大衆海鮮業態でなく、ちょっとおしゃれなスタイルで楽しめるダイニング業態。同じ名古屋発は焼肉業態の「百えん屋」。若者の街、渋谷道玄坂に2009年12月にオープンした。なんと一皿100円牛カルビは売り切れ御免の逸品揃い。それが店のネーミングともなっているように、日本一安くて旨い焼肉屋をうたい、愛知県下で11店舗を展開している。焼肉業態では福岡発七輪焼肉の「HACHIHACHI88」。2009年5月に神田店、8月には広尾店と続けてオープンした。広尾店はTVの人気番組で美味しいお店1位となり、すでに東京でもそのブランド力は浸透。自慢はA5クラスの最高級の国産和牛のカルビをメインに、ホルモン、地鶏、豚などをラインナップ、おしゃれで入りやすく店つくりも女性やカップルに人気でだ。同じ福岡発の注目企業が、海鮮業態で積極的な展開を見せる「ろばた焼磯貝」。玄界灘で獲れる天然海鮮にこだわった海鮮業態は博多でも話題の店舗であり、明太子は地元でも人気ブランドである。2009年年9月に丸の内ブリックスクエアの飲食フロアに出店し大ブレーク、この5月末には目黒に2号店をオープン。魚系居酒屋の注目店舗となっている。大阪発ではユニークな居酒屋業態が渋谷にオープンした。個室居酒屋「6年4組渋谷第一分校」。大阪ではすでに4店舗を運営しているが、“小学校”がコンセプトというテーマ性の高い業態でもある。教室や校長室といった小学校をイメージした環境、小学校6年生レベルの日替わりテストをはじめ、お酒を飲みながら子供時代に帰れる、大阪らしいユニークな店舗である。地方発店舗では、博多発のホルモン業態が多いが、今年5月13日に神楽坂にオープンしたのは栃木県小山発のホルモン焼き業態、小山人生劇場「ゴーゴーホルモン」。小山市を中心に栃木県内でホルモン業態や居酒屋業態など4店舗を運営している。いま話題のエリア・人形町にオープンしたのは「百姓一揆」。大分麦焼酎百姓一揆を扱う大阪の企業で、札幌すすきので立ち飲み業態をヒットさせ、東京進出を果たした。今後、「百姓一揆」ブランドでFC展開を図る。実力派チェーンでは、福井が本拠地の焼き鳥チェーン「秋吉」が東京での展開を加速させているほか、札幌の超人気焼き鳥店「串鳥」も5月12日、吉祥寺にオープンした。地方発の業態コンテンツには、その地元独自の飲食文化や食情報も付加され、東京マーケットへ新しい刺激と魅力を与える。様々なコンセプト軸での業態展開が見られるなか、地方注目企業による地元ブランド業態の東京進出はさらに加速されるだろう。
コラム
2010.05.27
“地方ブランド”の東京進出ラッシュを追う!
東京の飲食企業が地方の食材や郷土料理を打ち出した地産東消業態"を出店することがブームとなって定着したが、一方で地方の実力、人気のある飲食店が"東京初進出"にチャレンジするケースが増えている。"
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。