飲食ビジネスの原理原則「QSC」。品質、サービス、クレンリネス。市場が右肩上がりに拡大していく時代には、これを金科玉条のように守っていればよかった。そして、「FL管理」。原価率と人件費を一定以下にコントロールするのがマネジメントの基本だった。しかし、市場が縮小するなかで、顧客は「圧倒的な差別化」や「究極のオリジナリティ」を求める“高感度ニーズ”時代には、これまでの「QSC」「FL管理」だけでは生き残れない。この壮絶な椅子取りゲームに勝つには、どんな新セオリーが求められるのだろうか。5つのキーワードで解説したい。1、エクスペリエンス~顧客に対し、これまで体験したことのなかったメニューやサービスを妥協することなく提供することで、APカンパニーの養鶏場経営や朝どれ鮮魚の提供などは、その典型。産直仕入れは今や当たり前だが、どこにも真似できない常識破れのバーチカル(垂直的な)流通革命を成し遂げることによってエクスペリエンスを実現した。最近では、「いかセンター」を展開するスプラウトインベストメントの高橋社長の仕事も注目される。2、バナキュラー~昔からある固有のカルチャーやコンテンツ、作りモノではない根のあるストーリー、真のオリジナリティーを創りだすことで、浜倉的商店製作所の浜倉社長のつくる「ネオ横丁」は、まさにその例といえる。古民家を活かした日本酒居酒屋やワインビストロなどをつくり続ける夢屋の小林社長にも注目。3、セレンディピティ~本来求めようと思っても得られないものが、人のつながりや縁から思いがけずもたらされるということ。偶然と見えて実は顧客や市場が求める必然的なコンテンツだったりする。数年前から高円寺の「阿波踊り」を見ていて、漠然とそれをコンセプトにした飲食店をやりたいと考えていたエイチワイシステムの安田社長は、地方活性化業態をビジネスモデルをビジョンにするようになって、その思いを具現化するチャンスが人のつながりから偶然もたらされた。徳島県知事のお墨付き、本場の阿波踊り協会の幹部たちとの出会いが生まれ、そこから「銀座阿波おどり」という究極のオンリーワン業態が誕生した。4、リゾナンス~共鳴、共感という意味。店が提供するコンテンツ(料理、サービス、経営哲学など)が顧客の共感を得る「共鳴力」があるかどうかが重要だということ。いま急速に増えているワイン業態、日本酒業態は、オーナーのワイン、日本酒への徹底した愛情、こだわりをもった銘柄選定や提供方法が顧客の共鳴を呼び、口コミやソーシャルメディアを通じて評判が広がっていく。5、バリューシェア~共鳴=価値の共有。ソーシャルネットワーク時代には、その店の価値を共有するリピーターたちの「つながり」が大事だということ。ツイッターやフェイスブックでつながっていく新しいコミュニケーションの時代が到来した。これらの5つのキーワードが、これまでの「QSC」と次元を異にする「ネクストQ(クオリティ)」を生み出すヒントになるだろう。それが次世代マーケットを切り開く高付加価値時代のセオリーである。
コラム
2011.03.03
これからの飲食ビジネス「5つのキーワード」
「繁盛店をつくる」ためには、何が必要か?飲食ビジネスの原理原則は「QSC」だが、縮小するマーケットのなかで、高度化する顧客ニーズに応えていくには、これまでとは次元が異なる切り口が必要だ。これから求められる新しい要素を5つのキーワードにまとめてみた。
佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。
現在、フードスタジアム 編集主幹。商業施設リーシング、飲食店出店サポートの株式会社カシェット代表取締役。著者に『イートグッド〜価値を売って儲けなさい〜』がある。