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コラム

「都中(となか)繁盛店」成功の秘密

東京都心でもない、都下でもない都中(となか)エリア"で大繁盛店として注目されている店がある。それらは小商圏マーケットの中で独り勝ちし、圧倒的な地域一番店となっている。"

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。


東急線、JR南武線、横須賀線が交差する武蔵小杉駅前に6月にオープンしたイタリアン家庭料理・居酒屋「ナチュラ」。日曜日17時前に訪問したが、ビニールテントで表を覆った店の前にはすでに行列が。店内からはスタッフたちの威勢のいい掛け声が聞こえる。並んでいても、そのパワーが自然と期待感を高める。店に入ると、入り口でスタッフが魚介類、野菜など今日の食材と調理法を説明する。17時開店と同時に席が埋まり、19時頃を過ぎるとまた長い行列ができる。15坪25席ほどの店内はフル回転、当然2時間制だ。人気料理は鮮魚のカルパッチョやバーニャカウダ、アンチョビポテトなどのイタリアン定番料理だが、そのポーション、盛りつけ、値段とのバランスが絶妙。シラスをどっさりと盛ったパスタはサプライズメニューだ。生ビール2杯にワインデキャンタを飲んでで客単価4,000円ぐらいか。「ナチュラ」は新丸子に既存店があり、武蔵小杉店は向河原店が物件の取り壊しで移転したという。取材を受けないのか、ネットでもあまり情報はないが、業界ではいま密かな話題になり、連日同業者が訪れているらしい。私の印象では、食材の産地を打ち出しているわけでもなく、ボリュームが圧倒的というわけでもない。しかし、活気あふれる店内の空気感がちょっとしたトリップ感を与えてくれる。オープンキッチン内でフライパンを振る調理スタッフと席と席の間をキビキビと動き回るホールスタッフとの一体感。その流れるようなオペレーションが見ていて気持ちいい。イタリアン業態を打ち出してはいるが、そのオペレーションは活気ある居酒屋のテイストだ。小商圏マーケットで突出するには、こうした「店が生きている!鼓動している!」といった雰囲気をかもし出すことがポイントになる。スタッフたちの本気度が客に伝わり、それが口コミで広がるのだろう。やはり東急線の元住吉駅。ブレーメン通りの奥のビル2階にひっそりと営業しているのは「オリエンタル」。木の看板には“さかなの台所”とある。店に入ると、これがまた凄い活気。雑然と並んだテーブル、天井からは紐にぶら下がった手書きのメニューがずらっと並ぶ。都心で店を増やしている「竹ちゃん」グループのような印象を受けたが、料理が違う。看板に掲げたとおり、鮮魚類の豊富さ、ボリューム感は新橋「魚金」グループをも凌ぐパワーだ。この店はオープンして10年になる。一説には、「魚金がベンチマークした店」という未確認情報もある。店主の渡辺さんは、マグロ問屋に勤めていたという。その経験から「とにかく魚では負けたくない、売上げは席数×客単価ではなく、席数×満足度だと思う」と語る。客を満足させたいという、そのひたむきな姿勢が地域の固定客を確実につかんでいるのだろう。渡辺さんは手がすけばすぐに空いたテーブルを自ら磨いていたりする。客への心配り、店への愛情を感じざるを得なかった。近く、2号店を同じフロアに増設する。飲食で成功することは、都心で繁盛店をつくることだけではない。“都中”にはアンテナの高い客も少なくない。小商圏ではあっても、そこで地域一番店になれば、大きな成功である。口コミも広がりやすい。その地域で「このあたりで一番人気の店はどこですか?」と聞かれたら必ず名前があがるような店。家賃などのランニングコストが都心部よりも低くてすむ。最近流行りの“お手軽居抜きビジネス”のように、その部分で利益を取るという発想ではなく、食材や人材におカネをかけることだろう。客に「原価割れだろう?」と思わせることがポイントだ。まだまだ競争の少ないブルーオーシャンマーケットとしての「都中繁盛店」、これから注目していきたい。

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