飲食店・レストランの“トレンド”を配信するフードビジネスニュースサイト「フードスタジアム」

コラム

シンガポール飲食マーケット最新事情(前編)

ASEAN経済を引っ張る小さくて大きな国、シンガポール。わずか550万人の人口。一人当たりのGDPは56,300ドル(2014年)で、日本の36,200ドルをはるかに上回る。国土も狭いために都市開発も計画的に進められ、経済政策も金融と観光を軸に戦略的に実行され、実に見事な成長を遂げた。2013年6月以来のシンガポール視察(10月25~29日)レポート。

PROFILE

佐藤こうぞう

佐藤こうぞう
香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本工業新聞記者、雑誌『プレジデント』10年の編集者生活を経て独立。2000年6月、飲食スタイルマガジン『ARIgATT』を創刊、vol.11まで編集長。
その後、『東京カレンダー』編集顧問を経て、2004年1月より業界系WEBニュースサイト「フードスタジアム」を自社で立ち上げ、編集長をつとめる。


今回ののミッションは、
1、オーチャード通りの「シンガポール高島屋S.C」に3店舗同時出店を果たしたヘンリーブロスの江嶋力さんの店を見たい
2、エー・ピーカンパニーの新業態を見たい(たまたま26日レセプションだった)
3、クールジャパンプロジェクトの伊勢丹日本屋台村(ジャパンフードタウン)の進捗状況をチェックしたい
4、ローカルマーケットの最先端エリアの動向をチェックしたい
5、日系外食企業、飲食店のシンガポール進出状況の整理
6、ジョホールバルの飲食マーケットを見たい(ここで飲食ビジネスを起業する北爪さんに半日アテンドしていただく)
の六つ。順にレポートしていこう。

オーチャードを代表する「高島屋S.C.」。その3階に7月末、「黒尊」「神戸牛鉄板焼 よし田」、カフェの「Pattis & Wiches」をオープンした江嶋さん。彼は、一切エージェントを通さず、100%独資で「活けいけ丸」と高級和食「黒尊」(街場のロバートソンキーエリアと新都心計画が進むジュロン「ウエストゲート」店)の3店舗を立ち上げ、成功した。日本の多くの契約漁港から届く鮮魚の商社・江嶋屋を持っており、魚の流通ビジネスにも力を入れている。飲食店はそのアンテナショップでもある。シンガポール証券取引所上場も視野に入れ、魚ビジネスを軸にクオリティの高い“メイド・イン・ジャパン”を他のASEAN諸国にも海外に売って行く六次化商社を目指している。2016年にはホーチミン進出も計画中だ。今回の高島屋出店で、これからの展開に拍車がかかるだろう。

エー・ピーカンパニーのシンガポール最新店「The Wagon」「Ushidoki Wagyu Kaiseki」のオープニングパーティーも覗いてきた。エー・ピーは、シンガポールにAP Company International Singapore Pte., Ltdを設立し、すでに「美人鍋レストラン塚田農場」を4店舗展開している。いずれも商業施設内出店だったが、今回はトラスストリートという街場の路面に出店。「The Wagon」は、宮崎県の尾崎牛や北海道の星空の黒牛など和牛を使用したカジュアルダイニング。タパスをワゴンで売り歩く販売スタイルが特徴。「Ushidoki」は、宮崎県の尾崎牛を使用した高級和牛懐石。トラスストリートは、いま日本食レストランが急増しているエリアのタンジョンパガーの一角にあり、かつては欧米系の店しかなかった隠れ家ストリート。このような立地に出店したということは、エー・ピーがモールだけでなく路面店出店も本格的に進めていくことの布石と思われる。同社は11月17日、EN HOLDINGSとそのグループ3企業(EN Group)が運営する飲食店4店含む事業を譲受すると発表した。譲受価格は230万シンガポールドル。EN Groupは、シンガポールで、日本食のダイニングレストランや居酒屋を運営しており、独自の物流ラインで獲れたての旬の味覚や四季折々の幸を楽しめる和食の食材を提供している。狙いは自社物流の強化、業態の多様化、そしてやはり路面店物件の獲得だ。

トラスストリートは、超人気和食屋「てっぺい」と、行列の絶えないラーメン屋「豚骨王けいすけ」など和食店が入るオーキッドホテルの裏手だ。オーキッドのアイオンから撤退した「炎丸」がご当地居酒屋を手掛けるファンファンクションと組んでこのエリアに北海道業態で進出するという噂も流れていた。これから注目のエリアだ。リバーサイドのエリア、ボートキーにも日本食レストランが増えていた。串カツに焼き鳥にとんかつ、ラーメンといった専門店がどんどん出店。とんかつ「イマカツ」もシンガポールに上陸。前回訪ねた居酒屋「型無」も健在。同店のマネジャーに聞くと、「このエリアはここ半年で日系飲食店が7~8軒増えたとか。札幌はちきょう副社長の神氏の「ヒツジクラブ」もこのエリアに出たと話題になっていた。ボートキーは背景に巨大なビル群のオフィス街がある。ランチはそこからリーマン、リーウーマンが大量に流れてくる。観光客相手のローカルシーフードの店はガラガラ。それに対し、日本食レストランは満杯。「型無」もオフィス客がランチで通う店として定着していた。一方、レストランのハイエンドから日本酒バルまで揃うロバートソンキーエリアはどうか。このエリアにも日系の店が多いが、物件が限られた夜業態しか通用しないためなかなか増えない。周辺にはオフィスも少ないし、夜飲みの大人客が基本。これからは、ロバートソンキーの夜型の店が“裏タンジョンバガー”に移るという動きかもしれない。超繁盛店で話題の「ワインコネクション」が拡張し、バージョンアップしていた。それはまさに“ロバートソンキージャック”の様相。ここは、ハイクオリティカジュアル!料理がそんなに美味しいわけではないが、楽しい「ワイン大衆酒場」だ。こういう業態に日本企業もチェレンジしてほしいと思った。いずれにしても、日系飲食店はいま、ボートキーとタンジョンパガーにシフト。モールよりも街場(ストリート)にトレンドが移りつつあるようだ。
(つづく)

コラム一覧トップへ

Uber Eats レストランパートナー募集
Copyright © 2014 FOOD STADIUM INC. All Rights Reserved.