飲食店・レストランの“トレンド”を配信するフードビジネスニュースサイト「フードスタジアム」

スペシャル企画

スペシャル企画 第1回 外食業界に激震走る!!!  神奈川で国内初の「受動喫煙防止条例」制定。飲食店経営者の新たなる課題“タバコと飲食店のあり方”を問う

昨年より、神奈川県下で様々な論議を繰り広げていた「受動喫煙防止条例」が、今春、ついに全国に先駆けて施行されることが確定。この条例は神奈川県民の街中における受動喫煙防止を目的に公共施設及び飲食店等でのタバコの喫煙を規制するものであり、外食産業にとって大きな打撃となるであろうことは間違いない。増税や路上での取り締まり強化などを飛び越え、半ば、外食業界に課題を押し付けるような形で制定された同条例だが、神奈川県を皮切りに全国へ波及していく可能性も否定できない。そこで本連載では、現状をしっかりと把握し、“喫煙者と禁煙者が共存できる飲食店の環境作り”を外食産業関係者が一体となって真剣に考えるべく、現場の声をリアルにレポート! 100年に一度といわれるこの不況下、外食産業を揺るがす新たな課題に対して全国の飲食店経営者が危機意識を高め、今後の対策にあたることが急務である。


【第一弾/神奈川県の飲食経営者編】

“喫煙者と禁煙者が共存できる環境作り”に関する飲食店経営者の意識を底上げすべく始まった本連載企画、第1回は同条例の影響を真っ先に被る神奈川県の飲食店経営者を取材。神奈川県を中心に展開する有限会社キープ・ウィルダイニングの代表取締役保志真人氏と株式会社エイトの代表取締役社長近藤一美氏に、一個人としての見解とともに会社としての今後の取り組みについて話を聞いた。

1241256064.jpg

■有限会社キープ・ウィルダイニング
代表取締役 保志 真人氏

現在、神奈川県相模原を中心に「魚健」「炎家」など6店舗の居酒屋を運営する有限会社キープ・ウィルダイニング。全店舗が同条例適用外の100平米以下であるものの、猶予期間以降を見据え、高い危機意識を持つ代表取締役の保志真人氏が同条例に対する憤りの声をあげる。

−−今年3月、正式に制定された「受動喫煙防止条例」ですが、この話を最初に聞いた時はどのように思われました?

かなりの危機感を感じました。そこで神奈川の飲食店経営者の人達に一斉に電話しましたが皆楽観的で。そんな条例通らないから大丈夫だよと。そういうものかと思い静観していたら情報通の経営者の方々から通る可能性があるという話を聞き、これはまずいと考え直し、日本全国の多くの経営者仲間にメールを送りました。すると次々に返信が入り「反対票送っておく」とか、「許せない」等々。皆声をあげてくれました。

−−そういった動きが影響したのか、途中段階で“禁煙条例”が“受動禁煙防止”へと大きく緩和されましたよね。

そこに私達の影響があったのか分からないですが、全国の居酒屋経営者からかなりの反対票はあがったと思います。でも、何より大きかったのは最大手「ワタミ」の代表取締役である渡邉美樹さんが声をあげてくださったことだったと思います。

−−実際、この条例が施行されて被害を受けるのはどのような人々なのでしょう?

基本的に、外食業界全体にとって、特に居酒屋業界にはまったくのマイナスだと思います。後半に条例が変わって厨房を除いた店舗面積100平米以上のみ対象になったので免れましたが、当初の一律的な条例内容だった時は、小規模店の夫婦でやっているような店はどうなるんだと思いました。そういったお店は、二者択一の選択肢として挙げられていた“分煙環境”を導入することなんてどう考えたってできませんし、あまりに現場を理解していないことに正直驚きました。なにより、私が一番言いたいのは不公平だということ。やるなら日本全国です。県境の店を考えた場合、例えば、相模大野と町田に関していえば、町田は東京で相模大野は神奈川になります。団体で利用する時に上司にタバコを吸う人が一人でもいたら自然と町田にいきますよね。条例が施行されれば、そういう問題がリアルに起こり、県境の店舗の売り上げはかなり落ち組むはずです。

−−確かに、そういった外食産業に及ぶであろう被害を想定して作られたとは非常に捉えがたい内容ですね。

特に、居酒屋業界においては大きな問題です。そもそもタバコの煙が嫌な人は初めから居酒屋に来ない事の方が多いと思いますし。もっといえば居酒屋はものすごい競争熾烈であり、競争が激しい分、お客さんの需要に対しては相当敏感です。煙を嫌がる声が増えてきたり、分煙している店が流行ってたりと、世の中的に分煙の需要が多くなれば必然的にそういった行動に変わりますが、現実的に当社の現場ではそこまで声が挙がっていません。

−−そういった現場の声を加味せず制定されてしまった印象が拭えないですが。とはいえ、定まったからには経営者として今後の対応を決断しなければなりませんよね。具体的に“分煙”を選択するための条件とは?

今回の対象というのが厨房を除いた店舗面積100平米以上の飲食店においてなので、当社の店舗は対象外ですが。規制される店が“分煙”を選択するには、風の流れを作るために装置を入れたり、完全に区切ったりという条件があり、1店舗辺り100万以上はかかると思います。1店舗辺り100〜200万辺りの投資が必要な場合、5店舗で1000万。特に売り上げが上がる行為をしているわけではありませんので、中小零細でいったら死活問題です。それに、分煙することで席の稼働率は悪くなりますから回転にも影響が出ます。この不況下で飲食業界もかなり厳しい状況の中、皆必至に企業努力で乗り越えてきています。そこへ無駄な投資をさせるべきではありませんし、それでもと言うのであれば、まず行政の努力が先だと思います。路上での喫煙を規制したり、増税したり。そういうことを徹底して喫煙する人自体を減らしてからやるのが筋です。またタバコは周りの人にとっては迷惑になる事はあると思いますが、国で販売を許可しているわけですから現時点では社会悪ではないはずです。

−−違法なものじゃないならば酒と同じように選択する権利があるんじゃないかと?

そうです。病院だとか公共施設だとか、それは、理解できます。ただ、なぜパチンコ屋さんや居酒屋で規制しようとするのか? 当社の店舗では居酒屋は7割以上のお客様がタバコを楽しんでいます。娯楽の場として、お酒飲みタバコを吸うことを規制するのには多少なりとも違和感を覚えます。

−−“分煙”補助金がでるっていう話もありますが?

それもおかしいと思います。補助金も県民の税金ですし、無駄な設備投資に税金を使う意味はありません。喫煙者自体が減ってから施行して頂きたい。そうであれば税金を納める我々飲食業界も納得でき、打撃も少なくてすむのです。

−−同感です。ところで、御社に関しては全店舗が厨房を除いた店舗面積100平米以下ということで、同条例が施行された後の対応策としては具体的にどう取り組まれるのでしょうか?

現時点で6店舗あるんですが、当面は店頭に“全席喫煙可”と表示します。うちは全席タバコを吸えますよと。そうすることでタバコが苦手な人は入らないという選択ができるわけです。こういった表示が全国的に展開されていくよう業界として動けば、受動喫煙防止への対応策をとったということで3年後の全飲食店分煙化を避けられる可能性が出てきますし、他への影響を最小限に抑えることができるでしょう。この条例が神奈川で施行されたら恐らく全国に波及していくことになると思いますし、そうなると居酒屋業界としてはかなり危機的な状況です。特に地方などはまだまだタバコを吸うのが当たり前だったりする地域も多い。社会の流れとして将来的には全面分煙化となったとしてもそこまで大きな支障がない状態になってくると思いますが、現状の段階ではまだ早いと考えます。

−−将来的には、どうしたら喫煙者と禁煙者が共存できる社会ができると思いますか?

行政が義務づけるものじゃなく、店側が判断していくものだと思います。喫茶店などが良い例です。例えばスターバックスさんは自分たちで禁煙を決め吸わないお客様を基本的に対象にしていますよね。ですから喫煙者はドトールさんなどを探します。そういう風にお客さんが選ぶものであり、やはりそれを条例で取り締まるのはおかしいですよね。

−−外食産業の経営者が一丸となって取り組むことがなんらかの大きな動きに繋がって欲しいですね。

今必要なのは、当事者である我々神奈川の飲食経営者が外食産業に関わる経営者達に現状を伝えること。特に居酒屋業界の方です。今回は、突然全面分煙というのがさすがに難しかったため3年間の猶予を与えられたということに過ぎません。業界として努力をしなさいと。行政としてはそれで大義名分が立ちますから。3 年間見ましたが何も行動が起きなかったので全面的に施行にしますよと。そういう流れだと思います。ですので、本音としては条例自体反対ですが、とにかく店毎に“喫煙”“分煙”“禁煙”の方針を明確にして受動喫煙防止活動しているという姿勢を示すことくらいしか今の所方法はありません。この表示が全国に普及できるように、私ができる活動はしようと考えていますし、みなさんにも、神奈川だけでなく、全国の飲食経営者が一丸となって取り組まなければならない問題だという意識を強く持って欲しいです。

【企業データ】
会社名;有限会社キープ・ウィルダイニング
本社所在地;神奈川県海老名市東柏ヶ谷3-1-13 2F
設立年月日;2004年10月10日
資本金;300万円
従業員数;80名
店舗数;6店舗

 

 

1241262335.jpg

■株式会社エイト
代表取締役 近藤一美氏

“地元密着型”をモットーに、神奈川県を中心に居酒屋「縁日」や七輪焼肉「縁日亭」など9業態24店舗を手掛ける株式会社エイト。同社の場合、全店舗のうち 18の店が「受動喫煙防止条例」の対象となる100平米以上と、同条例の影響をリアルに受ける。今後どう対処していくのか、代表取締役近藤一美氏が経営者として、そして神奈川県民として、同条例、そして“分煙”に対する見解を語る。

−−この条例の話を初めて聞いた時の感想をお聞かせください。

1年前位に、神奈川がそういう動きをしているという話を知人などから聞いたんですが、その条例内容が飲食店経営者にとってはかなり厳しい感じのものでしたので、まさか本当に制定されるとは思いませんでした。

−−当初「禁煙」だったのが、多くの反対票によって「分煙」として改訂されたんですよね。神奈川県の外食産業に従事する経営者として、この条例に対する見解とは?

法律で決まるならまだしも、やはり神奈川だけが先攻してやることについては、神奈川県を中心に飲食店舗を経営している者としては異議を唱えたい。現実問題、私達の会社が運営している店は9割がタバコを据える店です。そして100平米以上…。本当に大きな打撃を受けます。とはいえ、飲食店というのはお客様が望むべき場であることが最優先なので、本当は何を望んでいるのか。意識調査をするいい機会になるのではと条例が確定した頃から、お客様の生の声を真剣に聞き始めました。スタッフが積極的に声をかけたり、アンケートを集めたり。反応は店舗によって全然違いましたね。正直、ラーメン屋さんなどは半数以上の方々が禁煙を望んでいた店もありました。ただ、居酒屋やカラオケに特化していえば、これを禁煙にするのは難しい。仕事帰り、お酒を楽しみ、娯楽を楽しむ場として居酒屋を利用する方々に禁煙ですとお伝えするのは、タバコを吸わず、一児の母である私一個人としても大いに疑問を覚えますし、経営者側の意見として売り上げへの影響を考えると当然マイナス要素しかありません。

−−マイナス要素とおっしゃいましたが、具体的にはどのようなことが起こるのでしょうか?

“分煙”導入コストの負担、全面禁煙とした場合の常連客の店離れなど、企業の規模にもよりますが、神奈川を中心に展開している中小企業にとっては相当大きな痛手となります。私達の会社に例えると、現在運営している9業態24店舗のうち16店舗が神奈川県下にあり且つ100坪以上と条例の対象になります。選択肢として選べるのは分煙か禁煙なので、タバコを吸うお客様の意見は当然「じゃあ分煙にしてくれればいいじゃないか」となり、そういう対応が飲食店に求められますよね。ところが、このままいくと、ほとんどの店舗は禁煙にせざる得ない。なぜなら、分煙を選択するための条件が厳しすぎてそれだけの予算が取れないからです。

−−条例通りに分煙環境を導入するには実際、どの程度の費用がかかりますか?

細かく計算しないと正確な数字は分かりませんが、一店舗につき300〜500万位はかかると思います。その費用はどこから捻出するのでしょう!? 全国展開している大手企業さんの店舗数のうちの数%というのに対し、うちのように神奈川に特化して運営している会社にとって全店舗改装というのは難しいですよね。必然的に過半数の店舗で禁煙を選ばざる負えなくなってしまいますが、そうなるとタバコを吸われる常連の方々は分煙の店に流れていってしまうでしょう。お客様にとっては、設備投資のことなんて関係ありませんから。結果的に売り上げは大幅に下がることになります。それに、この条例によって受動禁煙が減るのかといえば疑問です。飲食店を禁煙にしたらお客様は外でタバコを吸いますよね。県民として、一児の母として考えるなら、外でタバコをたくさん吸っていたら環境に悪いし受動禁煙はなくならないじゃないですか。むしろ悪影響な気がしますし。タバコの喫煙は国が認めているんです。もっと正当に、歩きタバコや未成年の喫煙などマナーの部分を変えていく方とか、補助金をだして国を挙げて取り組むとか、他に選択肢はなかったのでしょうか。そういったことも考えずに条例を制定してしまった神奈川県に対しては正直憤りを覚えます。

−−本当にそうですね。とはいえ、来年には施行となってしまいますが、経営者としては今後具体的にどのような取り組みをなされるおつもりですか?

現状では、近隣の大手企業さんの動向を参考にしながら決めていこうと思っていますが。どちらにせよ、居酒屋とカラオケについては禁煙にするというわけにはどうしたってできませんので、そこに費用を集約させて改装し“分煙環境”を導入するほかないと思います。今の段階ですと、神奈川県による補助金もほとんどでないようですし会社として具体的にどこまで費用を捻出できるのか、改装費用のみならず工事期間にかかる人件費なども計算しながら、今後の対策を考えていかなければなりません。

【企業データ】
会社名;株式会社エイト
本社所在地;横浜市戸塚区名瀬町2060番地
設立年月日;昭和55年5 月1日
資本金; 4000万円
従業員数;91名
店舗数;24店舗

スペシャル企画一覧トップへ

Uber Eats レストランパートナー募集
Copyright © 2014 FOOD STADIUM INC. All Rights Reserved.