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インタビュー

株式会社浜倉的商店製作所 代表取締役 株式会社ジェイオフィス東京 ネオサポート プロデューサー
浜倉好宣氏


――改めてうかがいますが、なぜ今、"横丁"なのでしょう?

現代は食生活が豊富な時代です。さらに核家族化しながら個人のプライバシーが保たれている時代。だからこそ逆に、長屋生活や、実家のような大家族といったふれあいの環境が注目されてきており、気軽に仲間や他人と楽しめて、人情感や日常感のある環境(私はそれを「普段性のある環境」と表現しています)が求められているのです。

――「普段性のある環境」ですか。

私が大切にしているのは、日本人ならではの居心地良い「"普段性"を元気にする環境創造」。そして、同じベクトルを向いた他人同士が集まる"人間キャスティング"といった手法でできあがったのが、横丁スタイルや素材センターといったシリーズというわけです。

例えば、横丁にはぞれぞれのお店にいろんなスタッフのキャラクター(人情)が存在し、さらにコンセプトが明確な商品(個性)が集まっています。横丁という空間だからこそ、お客様もスタッフも一緒になって、人と人とが触れ合える"コミュニティ環境"が生まれてくるのです。活気と空気感が自然とにじみ出て、にぎわうのです。

――飲食店にとっては、1軒だけより複合店の方がメリットも大きい?

現代は1軒の飲食店をただ創るだけでは厳しい時代。おいしいだけでも、サービスが良いだけでも、お店がきれいだからという理由だけでも、繁盛する保証はありません。

そんな中、みんなで協力し合ってひとつの街の雰囲気を作りあげていく方が、ビジネスとしても効率的で、リスクも少ないと思います。店側が動いていかないと街も変わらないし、画一的で無味乾燥な街がたくさんできてしまうだけ。ちなみに「神田ミートセンター」では、みんなで施設やトイレを掃除し合ったりして結束を固めていますよ。

――でも最初のうちは、他店を巻き込んでのことなので、横丁プロジェクトは容易ではないでしょうね。

もちろん、簡単なことではありません。まずオーナー同士が想いや熱意を共有しなくてはなりませんからね。例えば「恵比寿横丁」は13店舗からなりますが、それをひとつにまとめるためには、13の業態分の手間がかかると言っても過言ではないでしょう。でも個人的には、難しいからこそ挑戦したくなる。反骨心に火がつくというか…。

――"街の再生"という側面から見ると、社会的な意義もありますね。

ええ、「品川魚貝センター」のように素材を一括して仕入れることは、魚屋の"再生"にもつながります。物販店と飲食店のバランス良い"融合"や、昔ながらのいわゆるチンドン屋の人情的広告の"継承"など、歴史文化的にも社会的にも、意義は大きいと言えるでしょう。

先ほども言いましたが、お客様はもちろん、店のオーナーも、街も、その店で働いているスタッフも、関係しているみんなにメリットをもたらす"WIN-WIN"の関係を構築していくのが私の目指すところです。

――ところで、中目黒にある「鰓呼吸」は遠くからでも非常に目立つ外観です。浜倉さんの手がける店はどの店も店舗力が際立っています。

活気のある大衆酒場であり、かつ、お祭り的な要素も表現したいと思っているので、1坪当たりの席数を3席以上にして、ワイワイとひしめき合う臨場感を演出しています。ちなみに店の標準規模は約25坪。個人店の雰囲気を大切にしていので、大バコには出店しません。

――魚系居酒屋の業態では、年季の感じられるトタン板を壁に貼り付けたり、ビールケースで椅子を作ったり…。内装費はどうなのでしょう?

レトロなイメージなので、一見、内装費がそれほどかかっていないのでは…と思われる方もいるかも知れませんが、逆なんですよ。

漁師さんから使い込んだ漁具を仕入れて店に装飾したり、倉庫にある本当に古びたトタン板を新調して、古いものを店舗に利用したり…。人々の汗や商売道具にかける想いを店にも継承したくて。

――手間もコストも、かかっている。

そう。トロ箱はオリジナルで製作したり、店の看板や絵、短冊メニューなどは必ず手書きで人間臭さを出したり…。とにかく妥協はしないように心がけています。あと、店内に昭和ポスターなどをベタベタ貼ったりしないのが私流。そこまでやってしまうと、やりすぎというか、自然な味わいが出なくなってくると思うので。作り込んだ感じにならないように気をつけています。"ぬけ感"が大事なんですよね。

――そうなると、イニシャルコストはどんなイメージで?

保証金も含め、オープンまでに実質、現金で支払う"総キャッシュ"というスタイルなのですが、実質的な総投資額に関して、"月の営業利益×12ヶ月"以内回収というのがひとつの基準です。工費は20坪のスケルトン物件なら、坪80万円+保証金・開業費・販売料など。詳しくはホームページでも事例を紹介しています。

――同じような魚系居酒屋がどんどん増えてきましたよね。

それらの店をすべて観察したわけではないので、一概には言えませんが、「鱗」ブランドや「丸富水産」ブランドを真似てもらうのはぜんぜん構いませんよ。そのおかげで魚系居酒屋というカテゴリが業界に確立されるのであれば、むしろ私にとっては自然広告になりますので、とてもありがたいことです。1社だけでカテゴリを確立するのは難しいですから。ただし、私もここで商売が成り立たなければプロデュース業としては成り立たないのですが(笑)。

――メニューに関してはどんなことを工夫しているのでしょう。

いろいろありますが、ひとつ例を挙げるなら、「家で必ず誰もが口にしたことがありそうな"貧乏経験メニュー"を用意せよ」と言っています(笑)。例えば、インスタントのサッポロ一番ラーメンを鍋のまま提供するとか、永谷園のお茶漬けを袋のまま提供するとか。つまり、飲食店らしくないメニューのことです(貧乏というのは表現のあやですよ)。

こういったマーケットにおいては、料理人では勝てませんからね。腕のいい料理人ほど「本当に大丈夫ですか?」と心配してしまうのですが、万人になじみがあって、時代の味わいの出ているメニューを揃えることで、メニューにも心地よい笑いと、安心感のある"ぬけ感"が生まれます。結構、それが大事なのです。

――立地に関しては?

大衆酒場なので、アルコールが売れる場所であるかどうかがまず優先されます。駅前立地から、大手チェーン居酒屋と個人店が混じり合う飲食街や歓楽街の路面店。物件も自分で必ず見に行き、"匂い"を感じないと出しません。

さらに飲みやすい雰囲気があるかどうかが大事なので、大通りの路面店などには出店しません。私はいつも看板だけで店を表現しません。店全体の存在感こそが看板になるように、いつも店づくりを心がけています。

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